『ポップオペラ』を提唱する歌手、藤澤ノリマサのデビュー・アルバム「VOICE OF LOVE〜愛の力〜」。オリジナル・アルバムでありながら、全曲クラシックを引用している。
2008年リリース。
曲目
“青色◎”は特に良かった曲。
- ダッタン人の踊り(ボロディン『イーゴリ公』より「だったん人の踊り」)
- VINCERO -ビンチェロ-(プッチーニ『トゥーランドット』より『誰も寝てはならぬ』)
- ◎Cross Heart(ジョルダーニ「カロ・ミオ・ベン」)
- 旅立ちの光(プッチーニ『蝶々夫人』第2幕から『ある晴れた日に』)
- ◎君が待つ家 〜AVE MARIA〜(アベマリア)
- 太陽の女神(プッチーニ『ジャンニ・スキッキ』より『私のお父さん』)
- ◎本当の景色(フォーレ「パヴァーヌOp.50」)
- ◎幻影(スメタナ『わが祖国』より『ヴルタヴァ』)
- 君の後ろ姿(ビゼー『真珠採り』第1幕から『耳に残るは君の歌声』)
- 願い(レスピーギ『リュートのための古風な舞曲とアリア』より第三組曲『シチリアーナ』)
- 僕の太陽(ナポリ民謡「オー・ソレ・ミオ」)
- ◎その日まで(エルガー『威風堂々』第1番)
- 未来への道(ベートーヴェン「悲愴」)
01.ダッタン人の踊り(ボロディン『イーゴリ公』より「だったん人の踊り」)
女性コーラスで原曲を再現…と思ったら一昔前のダンスミュージック風のアレンジが派手に登場し、テノール風のヴォーカルも乗っかるごった煮のデビュー・シングル。
このアレンジは…2000年代にエイベックスやアニソン界を中心に流行ったトランス風ポップ??クレジットを確認すると、玉置成実の「Believe」を作曲した方々。やっぱり!玉置成実はソニーの歌手だけれど、サウンド及びスタッフは完全にエイベックス畑の人たち。
民謡風の哀愁漂ようメロディの”だったん人の踊り”をどうしてこのように料理してデビュー・シングルに切ったのだろう…。”だったん人の踊り”の現代日本版解釈的な??
原曲の哀愁を勇ましさに変えて愛を壮大に歌い上げる。「世界が滅びて」「最期の」「幾千の」「永遠に」「命を懸けて」と歌詞もやたらに壮大。トータル的にアニソン的な壮大さに満ちているけれど、ヴォーカルが本格派で男性であるために違和感がすごい。こんな音楽聴いたこと無い!
02.VINCERO -ビンチェロ-(プッチーニ『トゥーランドット』より『誰も寝てはならぬ』)
荒川静香の金メダル直後、という事でトゥーランドット。1曲目に引き続きダンス風アレンジ。コーラスも乗っかりシンフォニックトランス風、ヴォーカルも今回は普通の歌唱でテンポよく歌っていく…と思ったらサビで突然オペラ唱法に変化してビックリさせられる。
サラ・ブライトマンも通常の歌唱とベルカント的な歌唱を同じ曲で使い分けていたけれど、こんなに違和感はなかったぞ…?ミックスの問題?歌唱力の問題??
普通の歌い方がなんだかR&B寄りのアイドルみたいだから、なんだかビジョンファクトリー系のアイドルとテノール歌手がフィーチャリングしているみたいになってる。同一人物とは思えない。面白すぎる。これは、確信犯??
03.◎Cross Heart(ジョルダーニ「カロ・ミオ・ベン」)
派手なストリングスをフィーチャーしたダンスアレンジで疾走感に乗せてマイナーメロディを歌う。相変わらずサビで急に声が雄々しくなって「w-inds.feat.錦織健」みたい。
原曲のメロディが曲調にとても合っている。東方神起の「Share The World」みたい。
合唱やチャイム音などクリスマスキャロルっぽい雰囲気も出してくる。
一言で言うと、『「w-inds.feat.錦織健」が東方神起の「Share The World」をクリスマスソング風にアレンジしたみたいになってるトランスクラシック』。解るか!でもこれは名曲。いやホント。
アレンジはダンス系アニソンや嵐の「truth」などを手がける前口渉。クラシカルなアニソン組曲の名曲「God only knows」もこの人。いい仕事をするなぁ。
04.旅立ちの光(プッチーニ『蝶々夫人』第2幕から『ある晴れた日に』)
曲が始まってすぐに中野雄太のアレンジだと解るトランスポップ。解りやすく言うと、トルコ行進曲をアレンジした島谷ひとみの「Camelia-カメリア-」にそっくり。
平原綾香と同じレコード会社で、彼女と共演歴もある藤澤ノリマサ。実際のサウンドは平原綾香よりも島谷ひとみの後継。
アルバム曲なのにアレンジの熱量も凄い。更にボーカルの熱量も凄いのでかなりボリューム感のある曲調。アルバム「Harem」で同じように「蝶々夫人」をエレクトロニクスアレンジしたサラ・ブライトマンのそれとは大違い。概要は同じなのに。
05.◎君が待つ家 〜AVE MARIA〜(シューベルト「アベマリア」)
原曲はメロディが使い古されている感のあるシューベルトのアヴェ・マリア。
Aメロは原曲の雰囲気を残したオリジナルのメロディで期待感を煽り、サビ前半で甘く原曲を再現。サビ後半は独自の展開をし、2番以降は原曲のメロディは間奏で使用し歌メロはオリジナルになっている。作曲はシューベルトと藤澤ノリマサ名義。オリジナルの旋律は自分で作曲しているみたい。
生音主体のアレンジと工夫された原曲の引用でいい感じの仕上がり。サビで変貌する歌唱法も、アレンジが今までと違うせいか違和感無く聴ける。この人にダンスビートやシンセなんて必要ないのでは…。
06.太陽の女神(プッチーニ『ジャンニ・スキッキ』より『私のお父さん』)
ピアノメインでケレン味なくポップスアレンジされたジャンニ・スキッキ。編曲は1曲目と同じあおい吉勇。歌い手に花を持たせるアレンジもやればできるんじゃないか…。
07.◎本当の景色(フォーレ「パヴァーヌOp.50」)
派手なシンセストリングスとシンセドラムが隙間を埋め尽くすハイテンションシンフォニックトランス。アリプロジェクト×菅野よう子みたい。合間に登場するクラシカルなピアノもかっこいい。
原曲の泣きメロをうまくアニソン風悲劇に仕立て上げている。編曲はさっきの6曲目と同じ。振れ幅が凄いな…。個人的にアルバムで1番好きな曲。とにかく間奏が最高にカッコいい。アルバム曲とは思えない力の入れよう。
08.◎幻影(スメタナ『わが祖国』より『ヴルタヴァ』)
ん?シチリアーナ?と思ったらモルダウが始まる不思議なイントロの曲。この冒頭のメロディってモルダウなの?
ピアノメインでフォーク風の出だし。さだまさしといい斉藤和義といい、やっぱりモルダウはフォークソングに良く合う。…と思ったら、突然サビはWITHIN TEMPTATION風のミドルテンポのシンフォニックメタルになる曲。タムやバスドラの使い方もかなり本格的にメタル。
平原綾香がロメオとジュリエットでやったシンフォロックとはちょっと気合の入れ方が違う。これはガチのやつ。しかしこれはヴォーカルの本格感もあってかなり合っている。言われてみれば日本でオペラ風ヴォーカルのシンフォニックメタルができるのなんて藤澤ノリマサしかいないのでは。新境地を開拓している曲。これ絶対メタラーに受けるぞ。
編曲は中野雄太。これもアルバム曲のクオリティじゃない。
09.君の後ろ姿(ビゼー『真珠採り』第1幕から『耳に残るは君の歌声』)
シティポップ風のキーボードがオシャレ感を演出するマイナー曲。サビで突然変わる歌い方にもそろそろ慣れてきて、なんだかサビで雄々しくならないと逆に物足りなくなってくる。これが噂の謎オペラか…。
あまり知名度がない原曲をとても親しみやすくアレンジしておりとても好感が持てる。日本に数少ない、きちんとオペラのアリアをクロスオーヴァーできる歌手。
編曲はSkoop On Somebodyの「潮騒」等を手がけた鈴木雅也。なるほどな曲調。dreamにも関わっていたようなので、その辺りの繋がりからの抜擢?
10.願い(レスピーギ『リュートのための古風な舞曲とアリア』より第三組曲『シチリアーナ』)
シンプルなピアノと弦楽器でシンプルに歌うクラシカルバラード。シチリアーナはポップスに良く合う。しかしこんな曲にまでキラキラシンセSEを入れなくても…。編曲はあおい吉勇。
せっかく本格的な歌唱ができるのに、アコースティックに仕上げた曲がほとんどない。ライブはどうするんだろう。横に浅倉大介みたいな人がいる?それともカラオケ??
11.僕の太陽(ナポリ民謡「オー・ソレ・ミオ」
やはりバックでトランス風シンセが鳴るザ・藤澤ノリマサな曲。編曲は玉置成実やアイドル・アニソン等を手がける増田武史。ダンスビートにティンパニが混ざり、ハープも鳴り響く密度の濃い曲。だからアルバム曲の熱量じゃないって。
12.◎その日まで(エルガー『威風堂々』第1番)
これまた使い古された感ある威風堂々。サビのバックにシンセで原曲を流し、歌メロはオリジナルメインから徐々に原曲の比率が上がっていき、既聴感を薄めながらも原曲のドラマ性はしっかりと活かした良いメロディメイク。
打ち込みリズムと控えめなキラキラシンセ、ピアノに加えてサビで一気に盛り上がるオーケストラ。派手過ぎないけれどサビで一気に盛り上がりしっかりとポップで、クラシック曲と歌手本人も活かしたアレンジ。作編曲は中野雄太。やればできるじゃないか…。
13.未来への道(ベートーヴェン「悲愴」)
大河ドラマのテーマ曲のような物々しい雰囲気のイントロで始まる、ピアノメインから徐々にオーケストラサウンドが盛り上げるクラシカルバラード。しかしやはりバックではピロピロビヨーンキラキラーンとシンセSEが鳴っている。必要?この音。この曲とこの歌手に。打ち込み大好きな私が思うくらいだから相当数がそう感じているのでは。
総評
え?藤澤ノリマサ?平原綾香と秋川雅史を足して2で割った感じ?
みたいに思った方がいれば、それは大間違い。派手なダンストラックに派手なオーケストラがぶつかり合うドラマティックサウンド。予想以上に濃かったです。
ヴォーカルはアイドルみたいなのとゴスペラーズみたいなのとテノール歌手が出てくるけど、全部本人。同一人物です。ダイナミクスが凄い。
曲調的にはアニソン好きや女性ダンスポップ好きに受けそうなんだけれど、この曲調に本格的なテノールが乗っかる違和感が凄い。逆に言えばオンリーワン。そこさえ乗り越えれば、あとはめくるめく音とドラマの洪水が待っています。
選曲はオペラからの引用が多めで平原綾香とかぶりつつもややマニアック。日本に数少ない、オペラのアリアをきちんとクロスオーヴァーできる希少な存在の歌手。
冒頭3曲にシングル曲が集まっているので、序盤で出し切るタイプのアルバムかと思いきや、アルバム曲の密度が凄く、まさに1stにしてベストアルバム、といった感じ。曲調や作風も歪ではあるけれど完成されており、もうこの後は路線変更するか金太郎飴するしかない、というくらい出し切った感のあるアルバム。
私、まだこの1stアルバムしか聴いてないんですよね。これからどうなる藤澤ノリマサ。
↓2ndアルバムの記事も書きました!
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[…] そして2008年に藤澤ノリマサが再びカバー。カバーのカバーのセルフカバー。 藤澤ノリマサ「VOICE OF LOVE〜愛の力〜」『ポップオペラ』を提唱する歌手、… […]
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