クラシックカバーアルバム全曲レビュー

《メメントモリ》キャラクターソングとクラシック

2022年にリリースされたアプリゲーム《メメントモリ》

水彩画風のグラフィックに退廃的な世界観。それに美しい音楽が加わり、儚く魅力的な雰囲気が特長のゲームです。

【元々、魔女とそうでない人々が共存していた世界において、ある日教会による魔女狩りが行われるようになる。やがて迫害を受けた魔女の一部が暴走し、それにより世界は呪われ滅びかけている】という状況です。

暴走してしまった魔女は全部で10人おり、作中で『クリファの魔女』と呼ばれ、いわゆるボスキャラの役割を担っています。

そんなクリファの魔女や世界を救うべく、主人公はその他の魔女と共に戦いに身を投じる事となります。

ゲームに登場する魔女にはもれなくキャラソン=「ラメント」があり、仲間にした魔女のラメントは、ゲームのメニュー画面BGMなどで楽しむ事ができます。

 

ラメントの中でもクリファの魔女のラメントは、クラシック曲や昔の有名な舞曲がモチーフとなっています。

“クリファの魔女のラメントだけ原曲が存在する”というのは、「クリファの魔女も元々は普通の人間(魔女)だったのに、変わってしまった」という事を表現しているものと思われます。

原曲に「舞曲」が多いのは、”楽しかった過去”を表しているのでしょうか。もしくは、”マリオネット的に誰かに操られ踊らされている”という事を暗示しているのでしょうか。

 

また、他の魔女のラメントは魔女の声優とは異なる歌手が歌っているケースが殆どなのですが、クリファの魔女のラメントは、今のところ全て声優自身が歌っています

これは、クリファの魔女のラメントは、彼女達のパーソナルな部分をしっかり表現しているんですよ、という事を強調しているためと思われます。

 

おそらく、普通の魔女のラメントはアーティスト側との共同制作で曲のバリエーションを出し、クリファの魔女のラメントは完全にゲーム制作陣営で作詞作曲して曲の世界観を突き詰めているのではないでしょうか。

 

という事で、この記事ではクラシック曲を引用しており、且つキャラクター自身の心を強く反映させている、クリファの魔女のラメントについて、考察していきます。

【弔花の魔女】ナターシャ(小倉唯)「X. THE FLOWER」/ペツォールト:メヌエット(バッハのメヌエット)

プレイヤーが一番初めに対峙する事となるクリファの魔女。花が好きな女の子で、エピソードや攻撃技も花がモチーフになっています。

魔女狩りにより両親を失い絶望した事がきっかけで、クリファの魔女になってしまったと思われます。

 

ラメント「X . THE FLOWER」も花をモチーフにした楽曲となっており、ナターシャ自身の優しさと、世の中の不条理に対するやるせない思いが交錯し、相反するワードが隣り合うアンビバレンスで混沌とした歌詞になっています。

 

原曲はこちら。元々ペツォールトが作曲したものですが、バッハが自身の作品として世に広めた事で有名になりました。よって「バッハのメヌエット」と呼ばれる事もあります。

原曲であるペツォールトの「メヌエット」が明るい雰囲気であるト長調であるのに対して、「X . THE FLOWER」は暗い雰囲気であるニ短調となっています。

しかし、ニ短調にしては、一か所だけオカシイ音符があります。メヌエットを引用した旋律のうち、以下の赤い部分です。

「ラーラララララーランラン ラーララララーランラン」

この部分は、ニ短調の場合「シ♭」でなければならないのですが、半音高い「シ♮」となっています。これにより、明るさと暗さが入り混じったメロディとなり、また全ての音が白鍵での演奏となるので「幼さや純粋さ」を醸し出す事になっています。

緑の●が、本来ニ短調で使用される鍵盤。唯一黒鍵を使うことになる部分が「シ♭」ですが、この曲では登場しません。

「幼さや純粋さ」というのは勿論ナターシャ自身を表現しています。

そして、「明るさと暗さが入り混じった」というのも、先ほど述べた通り、ナターシャ自身の優しさと不条理な世の中に対する恨みが同居した、複雑な心境を表現しているのでしょう。

 

そしてもう一つ特筆すべきは、「X . THE FLOWER」の他の部分のメロディラインにおいて、「シ♭」及び「シ♮」は一度も登場しないという点です。

 

ですので、他の部分はキレイなニ短調となっており、曲全体の中で上述の「シ♮」の部分だけが長調的な音を鳴らしています。

 

これは、悲しみに塗れ、国を滅ぼすクリファの魔女となってしまったナターシャ(=ニ短調のメロディ)の心の中に、ほんの一粒だけ正気や優しさ(=二長調の音である「シ♮」の音)が残っていたという事を表現しているのではないでしょうか。

 

この「シ♮」が無ければ、ただひたすら悲しみに塗り潰されるような旋律の楽曲になっていたでしょう。

歌詞の言葉を借りれば、「この世界が嫌い、になれない」という思いが音階に込められています。

原曲がとても楽しい雰囲気で且つ著名な曲であるが故に、この「X . THE FLOWER」は、より一層物悲しさを醸し出しています。

その中に一瞬垣間見える優しいメロディラインが、より一層悲しみを呼び起こすと同時に、パンドラの箱のように一抹の希望をも暗示しているのです。それがまたエモい!

 

ちなみに私のブログでは、他にもペツォールトのメヌエットを引用したポップスを何曲か紹介しています。こちらのリンクからどうぞ。

次ページは、ルナリンドのラメントの考察です!

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syro
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1984年生まれ。生まれも育ちも長崎市です。 2人の子育てが大変なので、夜中にちまちま記事を書き通勤中と昼休みに曲を聴く日々。 趣味はインドア全般。音楽以外では辛麺と洗濯とトライエースと三島由紀夫と遠藤周作が特に好きです。 好きな作曲家はメンデルスゾーンと葉山拓亮。

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