チャイコフスキー

《くるみ割り人形》より「葦笛の踊り」/Madonna「Dark Ballet」

マドンナが2019年に発表した『Madame X』に収録されている楽曲「Dark Ballet」は、チャイコフスキーのバレエ組曲《くるみ割り人形》の中の一曲、「葦笛の踊り」を引用した作品となっています。


かなり大胆に曲調を変化させる、とても面白い曲です。アルバム全体を通して新境地を開拓しており、クオリティの高い実験的ポップスを楽しめる作品となっています。

 

MVの冒頭では、ジャンヌダルクの有名なセリフが提示されます。

「Dark Ballet」では後半が「葦笛の踊り」を引用したパートとなります。初めはヴォコーダーにより加工された語りが入りますが、その後はマドンナの肉声による語りとなります。ヴォコーダーによるセリフは、内容的にジャンヌダルクが語っているものであると思われます。それに続いてマドンナ自身のメッセージが語られます。

「自分らしく生きるために社会と戦おう」といったマドンナ自身の主張を、ジャンヌダルクに重ね合わせているようです。

その後、火がつけられるような音と共に冒頭の曲調に戻ります。ジャンヌダルクで火といえば、もちろん彼女の最期の、火あぶりのシーンです。

そう考えると、大胆な曲調の変化は、”ジャンヌダルクの時代に突然場面転換した”もしくは、”ジャンヌダルクがマドンナに憑依した”というような状況を表現しているのではないでしょうか。

 

そうすると、「何故ここに[葦笛の踊り]を使っているのだろう??」という疑問が出てきます。異端審問にかけられ、今まさに処刑されようとしているジャンヌダルクにマドンナ自身を重ね合わせたシーンです。状況的にかなり不適切な曲調です。シリアスなシーンにあえてコミカルな音を付けるという演出もアリでしょうが、果たしてそれだけでしょうか?

 

というわけで、チャイコフスキーの原曲はこちら。

「葦笛の踊り」と和訳されますが、フランス語では「Danse des Mirlitons」となります。

Mirlitonというのが笛の名前で、竹や葦を材料にする事もあるようです。フランス産の葦は、木管楽器のリードの材料として使われる事で有名でもあります。

 

ただしMirlitonというのは、葦笛だけでなく、「フランス革命時の騎兵の帽子」の名前としても使用されており、また、それにちなんだ「騎兵の帽子に似た形のお菓子」の名前でもあります。お菓子のミルリトンは、ノルマンディ地方発祥で、特にジャンヌ・ダルクの聖堂があるルーアンのものが有名であるとされているそうです。

 

ここまで解れば、色々繋がってきます。

 

まず《くるみ割り人形》は、「クリスマスイヴの夜に、少女クララとくるみ割り人形がお菓子の国へ行く」というストーリーです。

そして「葦笛の踊り」のパートを含む第2幕は、「様々なお菓子の精が踊りを披露する」という場面です。金平糖だの、ドラジェだの、チョコレートだのが登場します。

そんな流れを考えると、「葦笛の踊り」は誤訳(もしくは二重解釈)で、「ミルリトン(お菓子)の踊り」が正しい解釈ではないでしょうか。

 

そしてミルリトン(お菓子)は、ジャンヌダルクの聖地に因んだお菓子であり、フランス騎兵の帽子の形に因んだ名前のお菓子でもあります。

ジャンヌダルクでフランス騎兵といえば、これです。

有名なジャンヌダルク像。馬に乗ってます。騎兵です。

もちろんジャンヌダルクはフランス革命よりもずっと昔の人物なので、この帽子はミルリトンではないでしょうが、フランス革命時、ナポレオンは自らをジャンヌダルクに重ね合わせてフランス軍を鼓舞したと言われています。

そして、フランス革命は身分制や領主制などの古い階級支配を変えるための革命でした。これは「Dark Ballet」の曲中における「誰しもが自分らしく自由に生きる社会を作るために行動しよう」というマドンナの主張と一部重なります。

 

長くなりましたが、まとめると

1:「Dark Ballet」では、ジャンヌダルクが登場するシーンで、ジャンヌダルクに縁のある「ミルリトン(お菓子)」の踊りの曲を引用している。

2:また、フランス革命時の騎兵帽である「ミルリトン」に因んだ「ミルリトンの踊り」を引用する事によって、マドンナの主張をジャンヌダルクだけではなく、フランス革命にも重ね合わせている。

という事が考えられます。

 

まぁフランス革命は、結果的に権力者が貴族からナポレオンに変わっただけに過ぎず、ナショナリズムの誕生でもあったとも言われているのでマドンナの主張と100%重なるとは到底言えませんが、純粋に「革命的なイメージを借用した」という感じでしょう。

 

 

ちなみに、「Dark Ballet」で「葦笛の踊り」パートに入る直前のキラキラしたピアノの音色は、「金平糖の踊り」中間部ラストのチェレスタ単独演奏部分にも似ています。こちらの動画の1:18~。

 

「Dark Ballet」は、マドンナとミルウェイズの共同プロデュース。ミルウェイズはマドンナの楽曲を数多く手掛ける作曲家です。「MUSIC」もこの人の曲。

 

『Madame X』で「Dark Ballet」に続いて流れる「God Control」もミルウェイズとのコラボレーションです。こちらもクラシック要素が強く、ディスコ・ファンクと宗教的合唱曲を融合させた作品となっています。

「Dark Ballet」と「God Control」2曲合わせて、それぞれ家父長的な古い価値観や銃社会を批判した内容となっており、自由で開かれた平和な社会を訴える内容となっています。

 

マドンナは、曲中での曲調の変化や曲同士の繋がりに拘った作品が多いです。2005年のアルバム『Confessions on a Dance Floor』は、それぞれの楽曲がシームレスに繋がっている組曲的な作品で、私もとても大好きなアルバムです。

ABOUT ME
syro
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1984年生まれ。生まれも育ちも長崎市です。 2人の子育てが大変なので、夜中にちまちま記事を書き通勤中と昼休みに曲を聴く日々。 趣味はインドア全般。音楽以外では辛麺と洗濯とトライエースと三島由紀夫と遠藤周作が特に好きです。 好きな作曲家はメンデルスゾーンと葉山拓亮。

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