その他編

B’z「Calling」の考察~三部形式の構造から全体像を読み解く

今回テーマにするのは説明不要のロックコンビB’zの楽曲「Calling」

こちらのMVでは前半部分しか流れませんが、曲の全体像を理解するにはフルで聴く必要があります。

1997年リリースのシングル。

「Calling」はJPOPとしては大変珍しい、三部形式の楽曲となっています。
ギターが主役の激しいロックパートから始まり、1分程度で全く別の曲のようなバラードに変わります。そして最後は再び始めのロックパートに戻り幕を閉じます。
つまりA⇒B⇒A’の構成となっており、こういった形式の楽曲を三部形式と呼びます。

もっと細かくみていくと、バラードパートは2番まであるのですが、1番と2番の間にロックギターによるソロが入ります。これを分けるとA⇒B⇒C⇒B⇒Aとなり、こういう形をアーチ形式と呼ぶ場合もあります。バルトークの楽曲など、クラシックで良くみられる楽曲構成となります。

まず冒頭のAで印象的な主題を奏でます。次にBで大胆に曲調を変え、曲に変化をもたせます。そして再びAに戻ってくる事で曲全体に統一感を持たせる、という手法です。

こちらはA⇒B⇒C⇒B⇒Aの形式をとる、バルトークの「管弦楽の爲の協奏曲 第3楽章」。独特の緩急を付けた派手な不協和音で聴かせる、バルトークの本領発揮な楽曲です。

 

 

実際に「Calling」は、劇的に曲調が変わる事で強いインパクトを与える、個性的な楽曲となっています。
「何か雰囲気の違う2曲をくっつけただけ」というイメージを持っている方も多いかと思われますが、そんな事はありません。大変趣向を凝らした楽曲です。

 

それでは、ポップスでこの三部形式を使用する事に、どういった意味があるのでしょうか?

 

歌詞と曲をリンクさせる歌モノポップスにおいて劇的に曲調が変わるというのは、「場面転換」もしくは「主体の変更」が考えられます。つまりAパートとBパートでは「曲の舞台となっている場所が変わっている」もしくは「歌詞の主体(私)が変わっている」と考えます。

 

またAパートはギターが主役のパートとなっており、歌詞はごくシンプルで抽象的。

一方Bパートはヴォーカルの歌が主役であり、そして心象及び歌い手の決意を掘り下げた歌詞を聴かせるパートとなっています。

歌詞はこちら↓
B’z『Calling』の歌詞

結論から言うと、Aパートはギタリストの松本孝弘が主体のパート、Bパートはヴォーカルの稲葉浩志が主体のパートであると思われます。

 

シチュエーションとしては、二人が別々の場所に居て、お互いが相手に対する思いを主張しながらも呼び掛け合っている。という状況。

つまりAパートの「この声が聞こえるかい」は松本孝弘のセリフ。もしくは稲葉浩志の「この声が聞こえるかい」との呼びかけに対して松本孝弘がギターソロで”聞こえてるぞ”と応答している。と解釈できます。

「Calling」は稲葉浩志が1stソロアルバムを発売した直後のリリースとなっており、改めてB’zの存在意義を歌った曲でもあるのでしょう。

それを裏付けるようにAパートでは縦横無尽にギターがソロを弾き倒します。

更に付け加えると、バラードパートの合間に登場するギターソロ(Cパート)でも、一旦ギタリストに主体が移っているものと思われます。

根拠の一つに“Calling”のワードがあります。Cパートに入る直前に「I can hear the calling」と歌っており、「お前(松本)の呼びかけが聴こえる」という言葉からギターソロに突入します。
そしてBパートのラストで、「Can you hear the calling?(俺の呼びかけが聞こえるか?)」との呼びかけから再びAパートの再現部に移ります。

 

曲タイトルの「Calling」は「呼びかけ」という意味であると思われますが、楽曲構成としては”Calling”をキーワードとして曲の主体が何度も移り変わるものとなっており、「Calling」が単なる一方的な”呼びかけ”ではなく、“離れていても、互いに呼応し合っている”という意味を表しているものと考えられます。この”離れていても”というのは勿論単なる場所的な意味合いでは無く、稲葉のソロ活動中も、という意味が含まれています。

 

というわけで、最後まで聴くことでようやく曲タイトルの「Calling」が持つ真の意味を理解できる、という構成。展開部(Bパート)で歌詞の状況(心の故郷・自分の原点・夢を共有する仲間の存在)を説明した後に、抽象的な歌詞の主題を再現(A’パート)する事で、「そういう事だったのね」と理解させるレトリック。

全体像がようやく理解できた所で再び主題が再現されるラスト(A’パート)は、初めに冒頭のAパートを聴いた時よりも、より感慨深くなります。主題部&再現部と展開部ではちゃんとストーリーに沿った場面転換がされていて、ちゃんと三部形式にしている必然性があります。

また主題部と展開部の曲調が対照的なのは、「ボーカリストとギタリストの対比」ともとれますし、
「離れ離れで全く違う状況にいても、根底では繋がってる」という表現にもとれます。

 

また、調(キー)を比べてみると、Aパートが嬰ヘ短調、Bパートがイ長調となっており、互いに平行調の関係にあります。

平行調というのは、雰囲気は異なるけれど使っている鍵盤は同じ調同士という関係であり、同根異才(性質や長所は異なるけれど、価値観や目的は共有している)である二人の関係、そして”離れていても心は一つ”という思いを暗示しているものと思われます。

一見全く違う曲調でも、根底の音譜は同じで繋がっているのです。

 

というわけで、極めて私小説的な楽曲である「Calling」ですが、歌詞は具体的な描写は極力控えられており、聴き方によっては一般的な友情や遠距離恋愛をテーマにしていると解釈することもできます。このパーソナルでもあり普遍的でもある懐の広さがこの作品の魅力でもあります。

ただの継ぎ接ぎソングでは無く、三部構成を活かしたJPOP×クラシックの名曲、と言えるでしょう。

ABOUT ME
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syro:生まれも育ちも長崎市です。二児の子育て中。 趣味はインドア全般。音楽以外ではスマホ収集とトライエースと三島由紀夫と遠藤周作が特に好きです。 好きな作曲家はメンデルスゾーンと葉山拓亮。

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