フォークメタルとスカの融合
スペインのフォークメタルバンド、Lèpoka。
これまでの作品は、同じスペインのフォークメタルバンドMägo de Ozのような、スタンダードなフォークメタルに所々シンフォニックメタルのようなシンセストリングスやネオクラ風ギターを投入する直球のサウンドでした。
こちらは前作『BIBERE VIVERE』の一曲、「Yo controlo」。
ところが今回の4thアルバム『EL BAILE DE LOS CAIDOS』では金管楽器を取り入れた新境地のフォークメタルを披露しています。
フォークメタルに金管楽器。珍しい組み合わせで一見相容れなさそうですが、実際聴いてみるととても相性が良いです。陽気な雰囲気がパワーアップされています。
そもそも“フォークメタル”というジャンルは、古来の民族音楽とメタルサウンドを融合させたものです。民族音楽は世界中に存在しますが、主にアイルランド・イギリス・ロシア等、ヨーロッパ~東欧地域の伝統音楽の要素を取り入れたものが主流となっています。
元祖的なバンドといえばスカイクラッドになるのでしょうか。フィドル(バイオリン)やマンドリンの使用により、ブリティッシュ・トラッドの雰囲気を出しています。
フォークメタルに良くある曲調として、高速テンポで裏箔リズムの曲があります。例えばKORPIKLAANIの「Tervaskanto(コルピと古の黒き賢者)」。
これはメタルの高速裏打ち連打のリズムと、ポルカのような2拍子でテンポの速い民謡舞曲のリズムが共通しており、両者の親和性が高い事に由来しているものと思われます。
こちらはフィンランド民謡の「levan Polkka(イエヴァのポルカ)」。初音ミクやコルピクラーニもカバーしている有名な曲です。
こちらはチェコ民謡の「ビア樽ポルカ」(Beer Barrel Polka)」。ダンスミュージックなので、酒場との相性もばっちりです。
どちらもズンタンズンタンと、テンポよく2拍子のリズムを刻んでいます。
そして今回の主題であるLèpoka『EL BAILE DE LOS CAIDOS』に話を戻すと、この“裏打ちフォークメタル”に金管楽器を混ぜることによって、新たに”スカ”の要素が加わっています。
スカは元々南米のジャマイカで誕生した音楽であり、レゲエサウンドの元にもなったジャンルの音楽です。これもテンポが速い裏箔リズムが特徴で、トロンボーンがよく使用されます。ジャマイカがイギリスに統治されていた頃にイギリスからブラスバンド音楽が輸入され、ジャズやR&Bと混ざって生まれた音楽と言われています。
こちらはThe Skatalitesの「Freedom Sounds」。ジャマイカ独立を記念した曲であり、独立を喜ぶ国民感情を象徴するような楽曲となっています。ジャマイカで独自に誕生したスカというジャンルが当時流行したのも、おそらく”統治下からの独立”を文化面で体現していたのではないでしょうか。
というわけで、“高速の裏箔(奇数拍)リズム”という共通点を持つ、メタルとポルカとスカをごちゃまぜにした結果、新たなクロスオーヴァーお祭りサウンドが爆誕してしまっているのがLèpokaの『EL BAILE DE LOS CAIDOS』といえます。
ヨーロピアン・トラッドメタルにラテン音楽の要素を融合させた、スペインのバンドらしい曲調の作品です。
2020年リリース。リンク先で全曲視聴できます。
1曲目の「Seguimos en Pie」、9曲目の「Heavyátrico」、ラストの「El Picorsito」がスカを取り入れた楽曲となっていますが、他の楽曲もメロディアスでノリノリの高速フォークメタルとなっています。メタルといっても騒がしすぎず聞きやすいです。
