クラシックカバーアルバム全曲レビュー

《メメントモリ》キャラクターソングとクラシック

《メメントモリ》のラメントは、クリファの魔女以外にも沢山あり、どれも良い曲ばかりです。

エレクトロ調の曲にもオーケストラの生音が使用されている事も多く、潤沢な予算と自由な制作環境があった事が伺えます。

そんな様々なラメントの中から、私が気に入っている曲を紹介していきます!

テオドラ「まっすぐ」(Song by 清浦夏実(TWEEDEES))

テオドラは、宿屋で働いていた、優柔不断な女の子。友人(ルナリンド)が魔女狩りに遭い攫われてしまいますが、恐怖感に向き合う事ができず、助けに行くことができませんでした。

その友人は主人公の手によって助け出されます。そして今度は自分の気持ちにまっすぐ向き合うために、テオドラは友人に逢うため旅に出ます。

彼女のラメント「まっすぐ」は、そんな彼女の旅立ちを歌った曲です。前途多難な道のりの中でも気持ちは迷わずに自分らしく、素直でまっすぐな気持ちを忘れないようにしたい。といった内容の曲です。

 

彼女の決して平坦ではない道のりを象徴するように、この曲は調が次々と変わっていきます。更にそのいずれも短調となっており、その旅の困難さを示唆しています。

 

また、それぞれのセクション(Aメロ,Bメロ,サビ)はいずれも主音で終止する事はなく、それぞれのセクションで完結せずに緊張感を持ったままメロディが続きます。

皆さんもこの曲を聴いて、サビが終わった後も「まだまだ旅は続く…」みたいな雰囲気をこの曲に感じるかと思いますが、それはサビの最後の音(「強い人になれたらいい」の「な」)ファというとても変な音で終わっているからです。普通は嬰ハ短調の主音であるド♯でサビを締めるのが普通であって、100歩譲ってもせめて嬰ハ短調で使用する音階のいずれかを使用するのが普通なのですが、この最後のファはノンダイアトニックトーン(嬰ハ短調で出てくるはずが無い音)です。

それではサビの後に続く間奏への伏線になっているのかと思いきや、1番に続く間奏の部分のイ短調にとっても、ファは中途半端な下中音という音。更には間奏のメロディは旋律的短音階というう音階を使用しているため間奏にもファの音は出て来ない。

という事で、全体的に素直なメロディラインの中で、このサビの終止に使用されているファは異彩を放っています。それにより明快な解決を感じさせず、強い緊張感や不安定感を保ったままサビは幕を下ろします。“まだまだ旅は続く”感は、主にここで作られているものと思われます。

 

更に、サビの嬰ハ短調と間奏のイ短調はお互いに関係性が薄く、遠く離れた調である事も加わり、サビ⇒間奏への転調が、とても不思議で印象的なものになっています。それによって、突然別の曲になったような印象を受けます。これは“旅を続ける中で、次の新天地へ入った”というような雰囲気にも聞こえますし、”どれだけ遠くへ行っても、必ず初心に帰る“という演出にも聞こえます。

 

「初心に帰る」を少し補足します。先ほど述べたように、1番の後の間奏=イントロのメロディで、「テオドラのまっすぐな気持ち」の動機を提示しています。ですので、コロコロ転調した後に、イントロと同じセクションに戻るというのは「自分を見失わない」という決意の表れのようにも聞こえるのです。】

 

しかし、そんな転調を繰り返し、不安定感と緊張感を保ちながら進行していく「前途多難な旅」を表現している曲の中で、色んな所に登場する共通のメロディがあります。それこそが、テオドラの”いつでも、どんな時でも、ブレないまっすぐな自分の気持ち”を表現しています。

 

そんな“テオドラの動機”ともいえるメロディがこちら。サビの「迷わない気持ちで」の部分になります。

下向きに連桁に繋がった音符が続いた後、少しだけ上向きになる型のモチーフです。

普通、曲の核となる動機のメロディは、曲の冒頭で一度提示されるものですが、この曲においても、イントロで早々にこのモチーフが提示されます。

また、この型のモチーフは、Aメロの「丘を越えて見下ろす 遠くの港町」の部分や、Bメロのラスト「震えるの 胸の中」の部分にも登場します。

 

このメロディはサビにおいて「まっすぐ」「迷わない」というワードの後に連なって登場し、更に「気持ち」「胸の中」「笑顔」等テオドラの思いに関するワードをメロディに乗せている事からも、「テオドラのまっすぐな気持ち」を表現している事が裏付けられます。

 

また、このメロディは「2つ下がって1つ上がる」という音型になっており、「下がっていく中でも最後は浮上する」という形でもあります。「前途多難な旅でも自分を貫くことで、最後は報われる」という事を暗示しています。

 

更に、この曲のアウトロは、イントロを長調に移調し、明るい雰囲気に変形させたメロディで幕を下ろします。これも、”旅の最後は報われる”という事を暗示しています。

 

次ページは、アモールのラメントの考察です!

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syro:生まれも育ちも長崎市です。二児の子育て中。 趣味はインドア全般。音楽以外ではスマホ収集とトライエースと三島由紀夫と遠藤周作が特に好きです。 好きな作曲家はメンデルスゾーンと葉山拓亮。

POSTED COMMENT

  1. アバター イスカ より:

    初めまして。イスカと申します。X.THE FLOWERの考察大変楽しく拝見しました。

  2. アバター イスカ より:

    初めまして。イスカと申します。X.THE FLOWERの分析、大変楽しく拝見しました。そこで1つ質問なのですが、この楽曲を「ニ短調」と判断したのはどの要素からであるのかご教示いただく事は可能でしょうか。音楽について学び始めたばかりで自己解決できなかった為に質問させていただいた次第です。お時間のよろしい時で構いませんので、よろしくお願い致します。

    • syro syro より:

      コメントありがとうございます!大変励みになります。
      私は基本的に主音の音階をまず聴き取る事から始める事が多いです。

      ペツォールトのメヌエットはト長調で、メロディが一区切りする所の音(主音)がソ(ト)の音になっています。

      X.THE FLOWERの場合はその部分の音階がレ(ニ)なのでニ短調orニ長調と予測できます。あとは他の部分のメロディでどの音階を使用しているかで短調or長調を概ね判断しています。ニ長調の場合はファとドが#、ニ短調の場合はシが♭、といった感じです。

      だいぶ前に書いた記事なのであまり覚えていないのですが、X.THE FLOWERの場合はファ#とド#を多用していたので二長調ではなくニ短調と判断したのではないかと思います。

      ただ私もいかんせん素人なので、間違っている可能性もあります。すみません。

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