アモール「Étoile」(Song by 霜月はるか)
アモールは貴族生まれのヤンデレ女子。縁談相手の虐待を告発しようとして捕まりますが、主人公に助けてもらい共に旅をすることとなります。
彼女のラメント「Étoile」は、助けてもらった主人公に対する初恋の想いを歌った楽曲です。
暗闇の中でも塗りつぶされずに光り続ける星を、希望を捨てずに自分らしさを貫く自身の生き様や、主人公への諦めきれない恋心に重ね合わせています。
今どきのポップス風の曲調ながらも、アニソン的なドラマティックさと北欧らしさ(パンフルートの使用等)を併せ持つ、ハイブリッドな曲です。
この曲は、サビの部分が歌詞の無いインストパートになっています。
これはEDMと呼ばれる音楽ジャンルの手法になります。サビの直前を曲の盛り上がりのピークにして(ビルドアップと言います)、サビにあたるパートではテンションを落としインストパート(ドロップと言います)にします。
そんなEDMの作法をキャラソンに落とし込んだ「Étoile」ですが、そこにアモールの奥ゆかしさや初恋の想いが込められています。
普通ラブソングというのは、サビにあたる部分で、最も伝えたい言葉や、ストレートに相手を想う言葉を乗せるものです。しかしこのアモールの曲では、あえてそこに言葉を乗せず、音とリズムのみで彼女の想いを表現しています。
この曲のドロップパートのリズムは16ビートやシャッフルリズムを連発させる、いわゆる「ハネる」 リズムです。言葉は無くとも、アモールのウキウキした、跳ねるような想いを感じる事ができます。曲タイトルの「Étoile」はフランス語で「星」を意味しており、星が瞬く様子を表したようなリズムにも聞こえます。
また、サビであえて言葉を乗せない事で、アモールの「言葉では表現できないくらいの強い想い」や、「想いをうまく言葉で伝える事ができない、不器用な性格や奥ゆかしさ」、更には「片思いで現実的な交際の可能性が無くとも、相手の事を想い憧憬するという初恋らしさ」を表現する事ができています。
更に、この曲は夜の歌ですが、サビにあえて歌を乗せない事で「夜の静けさや冗長さ」も感じる事ができます。
心理学的に初恋の特徴として、”寝ても覚めても忘れられなくなる”「憑執現象」というのがあります。“夜も眠れず、静かに夜空を見上げながら、ひとり主人公の事を想い昂っている”というシチュエーションが、このドロップパートから想像することができます。
ちなみに、イントロでは虫の声が鳴っていて夜を演出しており、2番では時間が経過し夜明けになっています。また『100年の眠りにつく いばら姫に 私はなれそうに ないみたい』という歌詞は、「王子様を待つだけなんて我慢できない(好きな気持ちを隠し続けていられない)」という想いと、「相手の事を想うあまり夜も眠れない」という二重の意味を含んでいるものと思われます。
特に私が大好きなのは2番のドロップです。「今この瞬間 貴方の事 溢れるくらい」という歌詞に続いてドロップに突入します。
溢れるくらい、何なのか?? それが言葉で説明されなくとも、十分に伝わってくるでしょう。歌うようなインストのメロディと、跳ねるようなリズムが、まさしく想いを語っているのです。
また、ドロップで一気に緊張感から解放されるアレンジによって、アモールの想いが溢れ出すまさにその瞬間を表現しています。
サビにあたるドロップパートに至るまでに3つのセクションがあるのですが、メロディラインは少しずつ上昇していき、リズムは少しずつ丁寧に跳ねるリズムを増やしていっています。ちゃんと導入からドロップまでの流れがあり、それと同時にアモールの少しずつ高鳴っていく気持ちも表現できています。ここまでの流れがあるからこそ、アモールの想いがピークに達するのがドロップの部分である事が強調され、ドロップでの解放感も、より強調されるのです。
また最後のドロップパートは入り方に変化を付けてアウトロを兼ねた構成になっており、凝った構成です。
サビに当たる部分がインストパートになるEDMの作法とは相性の悪い印象があるアニソン&JPOPですが、この曲はそれを逆手にとり、凄くちょうどいい中間点に落とし込んでる感じがして、とても気に入っています。
この曲の歌い手である霜月はるかは、普段から多重コーラスを売りにしたケルト風の楽曲を数多く制作しており、メメントモリの楽曲の雰囲気に近い世界観を持ったアーティストです。
しかし、この「Étoile」では、あえて彼女らしさやメメントモリらしさを抑えたアレンジに仕上げており、それがまた意外性を生んでいます。
言葉数の少ない楽曲は、聴き手に想像の余地や、思いを巡らせる余韻を与えてくれます。
アモール推しのプレイヤーは、ぜひ眠れない夜に、空を眺めながらこの曲を聴いてみましょう。きっと、アモールも同じ夜空を見上げているはずです。
次ページは、タイトルソングの考察です!
初めまして。イスカと申します。X.THE FLOWERの考察大変楽しく拝見しました。
初めまして。イスカと申します。X.THE FLOWERの分析、大変楽しく拝見しました。そこで1つ質問なのですが、この楽曲を「ニ短調」と判断したのはどの要素からであるのかご教示いただく事は可能でしょうか。音楽について学び始めたばかりで自己解決できなかった為に質問させていただいた次第です。お時間のよろしい時で構いませんので、よろしくお願い致します。
コメントありがとうございます!大変励みになります。
私は基本的に主音の音階をまず聴き取る事から始める事が多いです。
ペツォールトのメヌエットはト長調で、メロディが一区切りする所の音(主音)がソ(ト)の音になっています。
X.THE FLOWERの場合はその部分の音階がレ(ニ)なのでニ短調orニ長調と予測できます。あとは他の部分のメロディでどの音階を使用しているかで短調or長調を概ね判断しています。ニ長調の場合はファとドが#、ニ短調の場合はシが♭、といった感じです。
だいぶ前に書いた記事なのであまり覚えていないのですが、X.THE FLOWERの場合はファ#とド#を多用していたので二長調ではなくニ短調と判断したのではないかと思います。
ただ私もいかんせん素人なので、間違っている可能性もあります。すみません。