フランスのテノール歌手Amaury Vassili(アモリ・ヴァッシーリ)の3rdアルバム『Una parte di me』。
本格的なオーケストラサウンドにバンドサウンドやリズム楽器を加えた、クラシックカバー楽曲集。歌唱はラストの曲を除いて全てイタリア語。
2012年リリース。邦題は『美しき愛の詩』。
1. 「Pensiero mio」 チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番
2. ◎「I silenzi tra noi」 ブラームス 交響曲第3番ヘ長調第3楽章
3. ◎「Con te」 ショパン 夜想曲
4. 「Credimi」 フォーレ パヴァーヌ
5. ◎「Una parte di me」 モーツァルト 交響曲第40番、第1楽章
6. 「Siamo il futuro noi」 ボロディン イーゴリ公のダッタン人の踊り
7. 「La guerra」 バッハ 無伴奏チェロ組曲 第1番プレリュード
8. 「Amici noi」 パッヘルベル カノン
9. ◎「Il lago dei cigni」 チャイコフスキー 白鳥の湖 情景
10. 「Sognod’autunno」 グリーグ ソルヴェイグの歌
11. 「Insieme a lei」 モーツァルト ピアノソナタ第17番
12. ◎「Chiaro di luna」 ドビュッシー 月の光
13. 「Tous ensemble pour demain (Nous on rêve)」 ボロディン イーゴリ公のダッタン人の踊り
1. 「Pensiero mio」 チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番
ウクライナ民謡がベースにある3拍子の原曲を四つ打ち4拍子にアレンジ。原曲でリズムを刻んでいた印象的な音色のピアノは削られ、オーケストラ&リズム楽器&テノールで聴かせる。行進曲のようなリズムのストリングスがニューエイジ感を醸し出す、スタンダードなクロスオーヴァー曲。
日本のクラシカルポップスだと原曲の序奏部分をイントロや間奏なんかにカチ込みそうな所を、第1主題のみで1曲作り上げる所が上品。
原曲の美しいメロディをオーケストラ&テノールで聴かせるという意味では良くできているけど、何だか原曲の良さも削った感のあるカバー。物足りない人には物足りないかも。
2. ◎「I silenzi tra noi」 ブラームス 交響曲第3番ヘ長調第3楽章
原曲のクセのある譜割りをスッキリ整頓させて、フランスの歌手Sofia Essaidiとのデュエットソングにアレンジ。冒頭のマーチングドラムは「Time To Say Goodbye」を意識してる感あり。
歌い手をスイッチして主部を繰り返す部分が、Aメロの途中で転調するポップス風になっててカッコいい。更にその後は元の調への転調&ハープのグリッサンドと同時に、同じ主部をオーケストラによる間奏にバトンタッチ。かなり劇的。
また主旋律に絡む楽器もオーボエ⇒ホルン⇒ストリングスと変化していく。メロディ自体はシンプルな繰り返しなのに、ドラマティックで飽きない。映画やミュージカルの曲みたい。
ブラームス3番を同じく別れの歌にした平原綾香の「ブラームスの恋」はこの曲の影響?と思ったら平原綾香の方が1年早かった。やるな…。
3. ◎「Con te」 ショパン 夜想曲
原曲を再現した流麗なピアノから、いきなり小室哲哉みたいな裏ノリキーボードのイントロに突入するドッキリ曲。オーケストラとドラムでベタベタに盛り上げるアレンジは、小林武史プロデュースと言われても違和感ない出来。CメロもめっちゃJPOPっぽい。良くも悪くもちょっと古い。
でも大袈裟に盛り上げていく情熱的なアレンジにイタリア語の歌唱が良く合っている。聞き飽きたメロディだからこれくらいしてくれた方が聴ける。歌唱力もあるので伴奏にも全然負けてない。
ミスチル桜井みたいなのが好きな女子に「本当の漢のポップスを見せてやる」と情熱的にアタックするイタリア男性みたいな曲。わかりませんね。すみません。
4. 「Credimi」 フォーレ パヴァーヌ
哀愁あるメロディをこってりイタリアンテノールで歌い上げる、オーケストラ・ロックバラード。
メロディの後半を原曲から一捻りしてドラマティックにアレンジしており、終盤への繋ぎが超うまい。
5. ◎「Una parte di me」 モーツァルト 交響曲第40番、第1楽章
クオリティの高いマイナーシンフォニックロック。
ロックとして聴くと、ドラムの主張が強いわりにパターンがシンプル過ぎるのが気になる。音も軽い。佐野康夫とかに叩かせてみたい。
力強いリズムが曲を引っ張る中、いったんロックドラムを引っ込め流れるような譜割りに変化するブリッジが効いてる。ベースギターも地味ながらいい仕事をしている。カッコいい曲なぁ…。
6. 「Siamo il futuro noi」 ボロディン イーゴリ公のダッタン人の踊り
少年合唱団をフィーチャーし、姫神みたいな民族音楽風コーラスとテノールによる2重唱にアレンジ。少年合唱団といってもボーイソプラノとかではなく、普通の合唱。
コーラスによる原曲の主題と、テノールによるオリジナルの歌メロが重なるラストが劇的。
7. 「La guerra」 バッハ 無伴奏チェロ組曲 第1番プレリュード
チェロによる原曲の旋律をベースラインにした、バンドサウンドとオーケストラによるアンサンブル。チェロとベースギターによるダブルベースが新鮮。
チェロがオスティナート・バスの役割を担っているので、ベースギターは所々にフィルインを入れるのみ。シンプルだけど、それがまた目立っていておいしい。
8. 「Amici noi」 パッヘルベル カノン
再び少年合唱団との共演。オリジナリティが高く、カノンコードのオリジナル曲という感じ。ラスサビもここぞとばかりに2度上がる、壮大な横綱相撲オーケストラポップ。
9. ◎「Il lago dei cigni」 チャイコフスキー 白鳥の湖 情景
原曲のフレーズを使った冒頭の3連符のハープが何の伏線にもなってない、2ビートのクラシカルロック。3曲目に続いてズッコケイントロ曲。原曲みたいな感じで本編のバックにこっそり忍ばせるとかあるだろ…。
曲自体はドラマティックで超カッコいい。管楽器をはじめ各楽器の主張も強く全体的にアレンジの密度が高いため、ドラムの音量バランスも相対的に程良くなり、適度にアドリブ風のフィルインとかも入れてくるため悪目立ちしない。
フランスの歌手Dominique Magloireとのデュエット。そしてやっぱり終盤で転調。しかしサウンドや展開が大仰過ぎても、歌唱力でねじ伏せ説得力を持たせる力量がある。
10. 「Sognod’autunno」 グリーグ ソルヴェイグの歌
アコギメインのバラード調な序盤から、主題を繰り返すうちに楽器が増えていき、また転調もしながらドンドン盛り上げていく。終盤はエレキギターまで登場。ここまでするなら泣きのギターソロくらい入れてほしい。
11. 「Insieme a lei」 モーツァルト ピアノソナタ第17番
管楽器もしっかり主張するオーケストラポップ。なんだけど、なんか90年代Jポップみたいなショボいドラムがどうしても気になる。こんなにするなら、パーカッションもしっかり大編成にしたうえでリズミカルにしても良かった気がする。
ロックやポップスというよりはディズニー音楽の方が近い。それにしてもK.570のどこを引用しているのか良く解らない。
12. ◎「Chiaro di luna」 ドビュッシー 月の光
数多の歌手がポップスアレンジに挑戦しようとしては悉く玉砕してきたドビュッシーの月の光。シンプルなピアノと一緒にテノールで主旋律をなぞる。中間部から弦楽器も加わる。
奇をてらわないやり方でも、歌唱力が十分高いので普通に聴ける。オペラのアリアみたい。
ここまでこのアルバムを聞いてきて、きっと彼なら月の光をアゲアゲポップスにうまく料理してくれると思っていたけど、これはこれで悪くない。というかむしろアルバムの箸休めにもなってて良い。
13. 「Tous ensemble pour demain (Nous on rêve)」 ボロディン イーゴリ公のダッタン人の踊り
6曲目のフランス語バージョン。
総評
しっかりとしたオーケストラサウンド、程よいロック&ポップスのアレンジ、そして高い歌唱力。全体的にとても高水準のクラシカルポップス。クラシックや、ありがちなサラ・ブライトマン風クロスオーヴァーの要素が強かった2ndアルバム『CANTERO』から一転、かなりポップスに寄せてきました。
一方で、ドラムが前に出ており、更に情熱的な歌唱スタイルなのでイージーリスニング系が好きな人には不向き。かと言ってロックのつもりで聴くと、リズム隊が退屈過ぎるのが気になってくる。節操なくガンガン盛り上げるサウンドも、人によってはダサいと感じるかもしれない。
とはいえ個人的には、かなり好みのバランスの良盤です。藤澤ノリマサが好きな人には間違いなくおススメ。イケメンだし。