バッハ

Noa『Letters to Bach』

イスラエルのシンガーソングライターNoa。彼女のアルバム『Letters to Bach』は、バッハの曲ばかりを歌曲にアレンジした、異色のアルバムです


2019年リリース。邦題は『バッハへの手紙』。

 

曲目は以下の通り。みんな大好き(?)バディネリーもあります。インベンション1番は母国語のヘブライ語で収録。ロシア語とアラビア語の中間のような不思議な響き。

The Race(原曲:インヴェンション第1番 ハ長調)
Vertigo(原曲:インヴェンション第5番 変ホ長調)
All Of the Angels(原曲:カンタータ第140番 第4 曲)
Oh Mama Dear (原曲:インヴェンション第13番 イ短調)
No Baby(原曲:バディヌリ(管弦楽組曲第2番より))
Look At Me(原曲:アリオーソ~チェンバロ協奏曲 ヘ短調 BWV 1056)
Mars(原曲:インヴェンション第6番 ホ長調)
Little Lovin’ (原曲:インヴェンション第4番 ニ短調)
A Pair (原曲:シチリアーノ)
Invention #1(ヘブライ語歌唱)(原曲:インヴェンション第1番 ハ長調)
Ave Maria(グノーのアヴェ・マリア/原曲:平均律クラヴィーア曲集第1巻第1番 プレリュード)

 

ラストに収録されているアヴェマリアは1stアルバムにも収録されており、本作品のルーツになった楽曲と思われます。
こちらはローマ法王も参加したバチカン市国のイベントでアヴェマリアを歌唱している映像。はえー。



 

『Letters to Bach』は、バッハの様々な楽曲を、ギター&ヴォーカルのみで歌モノに仕上げています。バッハの対位法が美しく、現代でも十分通用するものである事がこれを聴くと良く解ります。

バッハのインベンションなんかは、2声の対位法(2つのパートがそれぞれ異なるメロディを奏でることで美しい調べを生み出す手法)の原典みたいな作品なわけですが、原曲はチェンバロのみでのごくシンプルな演奏となっており、娯楽として聴くには退屈な面もあります。

一方このNOAの作品はヴォーカルがしっかり主旋律を歌っており、2声部の調和を自然に、かつ新鮮な形で聴くことができます。

バッハのインベンション13番をカバーした「Oh Mama Dear」。


原曲はこちら。

 

 

ギターの音色は撥弦楽器(弦をはじいて音を出す楽器)であるチェンバロに近い音を出しながらも、現代人に親しみのある音色を奏でます。ヴォーカルがオペラ的な発声というよりはもっと普通の優しい歌い方である点も、2声部のバランスやポップス的アプローチを考えると適切であるように思います。

 

というわけで、一見普通の弾き語り風作品である『Letters to Bach』ですが、”バッハの曲だけを””あえてギターと歌のみで”録っている必然性が、しっかりと有ります。

 

クラシック・クロスオーヴァー作品は、よく”癒し系””リラクゼーション””イージーリスニング”と結び付けられる事が多いですが、それらの多くは隙間を無闇に埋めるシンセや打楽器、リラックスからは遠い力強い発声やコーラス等、「これ癒しやリラックスに向いてるか?聞き流せるか?」という作品になりがちであるように思います(もちろんそれはそれで好きですよ私は)。

『Letters to Bach』は、今まで聞いてきたクロスオーヴァー作品の中でも、美しく、程よくポップで、リラックスにも使える。もちろんリズムは大きくアレンジしているものの、バッハの美しい楽譜を概ね再現しているわけで、集中してじっくり向き合うに足りる魅力もあります。

 

作曲家縛り。ストリングスやシンセなどは使わず、バンドサウンドやポップス風では無くジャズでもない。そして歌唱付き。しかもヴォカリーズや歌曲のカバーでは無く、オリジナルの歌詞。

どこを切り取っても、ちょっと他に類をみない事をやっています。大変貴重なクロスオーヴァー作品です。

 

 

Noaはイスラエルの民族音楽の要素を残したポップス的アプローチで、世界的に超有名な音楽コンテストであるユーロヴィジョン・ソング・コンテストにも出場した事がある歌手です。

披露された楽曲は「There Must Be Another Way」。ユダヤ系イスラエル人とアラブ系イスラエル人という、パレスチナ問題で揉めに揉めている人種間のデュエットという事で、とてもメッセージ性のある作品です。クド過ぎない、程よい民謡加減が心地良い。
「There Must Be Another Way」収録のアルバム。日本人にとっては旅行に行く機会も少なく結構謎に包まれているイスラエル。音楽に触れてみる事で、何だか未知の地にプチ旅行に行った気分を味わえます。『Letters to Bach』と合わせておススメの一枚。

 

ABOUT ME
syro
syro
1984年生まれ。生まれも育ちも長崎市です。 2人の子育てが大変なので、夜中にちまちま記事を書き通勤中と昼休みに曲を聴く日々。 趣味はインドア全般。音楽以外では辛麺と洗濯とトライエースと三島由紀夫と遠藤周作が特に好きです。 好きな作曲家はメンデルスゾーンと葉山拓亮。

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