クラシックカバーアルバム全曲レビュー

水野蒼生『VOICE – An Awakening At The Opera -』

指揮者兼クラシカルDJの水野蒼生(みずの あおい)による、クラシックカバーアルバム。

「オペラ、歌曲の現代的アップデート」がコンセプト。

2021年リリース。

曲目リスト(青色◎は特に良かった曲)

1.◎Marine:(ブリテン:《イルミナシオン》~〈海景〉)

2.◎My Mistress Eyes feat. 小田朋美(コルンゴルト:〈マイ・ミストレス・アイズ〉

3.Bustle

4.◎Habanera feat. Louis Perrier(CHAILD)(ビゼー:《カルメン》~〈ハバネラ〉)

5.Nessun Dorma feat. 三船雅也(ROTH BART BARON)(プッチーニ:《トゥーランドット》~〈誰も寝てはならぬ〉)

6.An Awakening At The Opera

7.◎献呈 feat. 君島大空(シューマン:《ミルテの花》~〈献呈〉)

8.Ave Maria feat. chami(シューベルト:〈アヴェ・マリア〉)

9.VOICE Op.1 feat. 角野隼斗

 

1.◎Marine:(ブリテン:《イルミナシオン》~〈海景〉)

1分程度のよくあるエレクトロOverture。なんだけど、いきなり1曲目からブリテン!?しかもイルミナシオン??そんな曲知らんぞ???

原曲はこちら。

歌曲メインのクラシックカバーアルバムのオープニング。普通有名な序曲とか前奏曲とかから引用しない?

HIPHOPのアルバムの一曲目なんかに、DJ風に各楽曲のダイジェストを切り張りしたような目まぐるしい展開の小曲がよく入っていたりするけれど、唐突に展開する現代音楽をエレクトロ風にする事で、自然とその雰囲気を出している。センスが迸っている。

 

2.◎My Mistress Eyes feat. 小田朋美(コルンゴルト:〈マイ・ミストレス・アイズ〉)

今度はコルンゴルト。後期ロマン派と映画音楽の中間に位置する作曲家。雑に説明するとR・シュトラウスとジョン・ウイリアムズの間。

最近のシティポップ・リバイバルを意識したアレンジ。音色自体は現代風。ベースも主張が強くハネまくりでエグい、今どきのプレイ。

 

3.Bustle

次曲につながる、20秒程度のインスト。

 

4.◎Habanera feat. Louis Perrier(CHAILD)(ビゼー:《カルメン》~〈ハバネラ〉)


オーケストラのパーカッションをサンプリングし、生楽器の音色を活かしたブレイクビーツ的な手法でアレンジ。

大袈裟な言い方をすると、ケミカルブラザーズがロック・ミュージックに対して行なったアプローチをクラシックでやっている。

こういうアプローチでクラシックをアレンジするDJって珍しい。っていうか初めて聴いたかも。サックスを主役にする編成も面白い。曲の雰囲気に合ってる。

 

5.Nessun Dorma feat. 三船雅也(ROTH BART BARON)(プッチーニ:《トゥーランドット》~〈誰も寝てはならぬ〉)

ややニューエイジに寄せた、壮大なアレンジのエレクトロ。いやニューエイジというか映画音楽を意識しているのかな。古臭いシンセ音とかブレードランナーっぽい。

 

6.An Awakening At The Opera

浮遊感のある音色が耳が心地よい、宇宙アンビエント系。シームレスに次曲に繋がる。ここからアヴェマリアまで組曲風になっている。

 

7.◎献呈 feat. 君島大空(シューマン:《ミルテの花》~〈献呈〉)

ピアノとシンセが代わる代わる登場する、緩急をつけたアレンジが劇的なエレクトロナンバー。メロディーが美しく、アレンジも含めてポップな出来。本アルバムのハイライト。

自然音のサンプリングや揺らぐバイオリンの音色など、前曲のアンビエントの要素を引っ張っている。そして次曲のコラールに続く。

 

8.Ave Maria feat. chami(シューベルト:〈アヴェ・マリア〉)

これまでの流れを昇華させるアヴェマリア。シンセは鳴りを潜め、シンプルにピアノとコーラスで聴かせる。素朴な女声×多重コーラスなので、なんだか坂本真綾や志方あきこみたいなアニソン風になってしまっている。

エレクトロ要素が無く、作中では比較的ストレートな正統派カバーだけど、この歌唱力で正統派は厳しい。7分半も聴かせる曲かというと…。

 

9.VOICE Op.1 feat. 角野隼斗

弦楽四重奏&ピアノで彩るオリジナルの歌曲。ピアニストをゲストで招き、水野自身で歌唱している。

アルバム前半は耳を惹く刺激的な曲で聴き手を誘引し、最後は「やっぱり生音で素直な曲もいいよね」で終わるラスト。作者のクラシック愛もしっかり感じる。

総評

“クラシカルDJ”とか”クラシック×エレクトロ”みたいな作品は山ほどあって、その大半は有名なクラシック曲のメロディをシンセやダンスビートでアレンジした面白みのない汎用なインスト作品なわけだけど、それらの有像無像の作品とは一線を画するクラシックカバー曲集。

“クラシック×DJ”をテーマに、様々なアイディアの楽曲が並ぶ。またDJ作品のノンストップMIX的方法論(シームレスに次曲に繋がる)を、クラシックにおけるアタッカ&組曲的方法論にクロスオーヴァーさせている。

 

各曲毎にゲストヴォーカルを招いているけれど、意図的に声楽系のヴォーカルを起用していないようで、クラシック曲の音色の美しさや展開の面白さを残したまま、あくまで現代の流行曲風に作り変えている。歌い手の性別を逆にしたカバーが多いのも特徴的。

選曲は半分がみんな知ってるクラシック・半分は思いっきり作者のカラーを出したマイナー曲。

全体を通して、保守的なカバー作品にはしないという強い意志を感じる。そして2021年現在において、間違いなく一番オシャレなクラシックカバー曲集。これなら満を持してドライブデートでも流せるはず。

ABOUT ME
syro
syro
1984年生まれ。生まれも育ちも長崎市です。 2人の子育てが大変なので、夜中にちまちま記事を書き通勤中と昼休みに曲を聴く日々。 趣味はインドア全般。音楽以外では辛麺と洗濯とトライエースと三島由紀夫と遠藤周作が特に好きです。 好きな作曲家はメンデルスゾーンと葉山拓亮。

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。