今回紹介するのは、1997年に欧米でリリースされたアルバム、「The Rapsody Overture: Hip Hop Meets Classic」です。
クラシック曲のサンプリング、そしてオペラ歌手とヒップホップアーティストの共演が特徴です。
こちらのリンクで全曲視聴できます。
曲目
”青色◎”は特に良かった曲。
# | 曲目 | アーティスト | ゲストヴォーカル | 引用元 | |
---|---|---|---|---|---|
1 | “Intro” | ワーグナー《ニーベルングの指輪》「ワルキューレの騎行」 | |||
2 | “E Lucean Le Stelle” | Xzibit | プッチーニ《トスカ》「星は光りぬ」 | ||
3 | ◎“Dear Mallika” | LL Cool J | Heike Therjung & Kathy Magestro | ドリーブ《ラクメ》「花の二重唱」 | |
4 | “E Lucean Le Stelle” (Reprise) | プッチーニ《トスカ》「星は光りぬ」 | |||
5 | ◎”Prince Igor” | Warren G | Sissel Kyrkjebø | ボロディン《イーゴリ公》「だったん人の踊り | |
6 | “Belle Nuit” | Mother Superia | Heike Therjung & Kathy Magestro | オッフェンバック《ホフマン物語》「美しい夜、おお恋の夜」 | |
7 | “Präludium” | Jay | Chris Weller(Piano) | バッハ「平均律クラヴィーア曲集 第1番」 | |
8 | “Ach So Fromm” | Jay | Robert Gionfribbo | フロトー《マルタ》「M’apparì」 | |
9 | ◎”Syrinx” | Redman | Dieter Voelker (Guitar) | ドビュッシー「シランクス」 | |
10 | ◎”Vissi D’Arte” | Onyx | Kathy Magestro | プッチーニ《トスカ》「歌に生き、愛に生き」 | |
11 | “Schwanensee” | Scoota | Dieter Voelker (Guitar) | チャイコフスキー《白鳥の湖》「情景」 | |
12 | “Recondita Armonica” | Nikki D | Kim Chung Park | プッチーニ《トスカ》「妙なる調和」 | |
13 | ◎”Nessun Dorma” | Mobb Deep | Kim Chung Park | プッチーニ《トゥーランドット》「誰も寝てはならぬ」 | |
14 | “Prince Igor” | Warren G | Sissel Kyrkjebø | ボロディン《イーゴリ公》「だったん人の踊り |
01.”Intro”
映画『地獄の黙示録』でワルキューレの騎行が使用されている部分をサンプリングし、後半からドラムマシンを追加した1分程度のトラック。
02.”E Lucean Le Stelle”
プッチーニのオペラ《トスカ》のアリア「星は光りぬ」の冒頭のクラリネットソロをサンプリングした曲。MCはイグジビット。
シンプルなリズムに時折挿入されるSEは基本的にいつものイグジビットのスタイル。「星は光りぬ」の部分はラップの合間の間奏で挿入される。構成的にクラリネットソロがフックの役割を果たしており斬新。だってクラリネットソロがフックですよヒップホップなのに。
◎03.”Dear Mallika”
MCはLL Cool J。オペラ歌手による「花の二重唱」がフックになっている。良くある「feat.女性アーティスト」のスタイルをオペラでやっている。
アングラ系ヒップホップとソプラノの相性が意外と良い。オペラ歌唱のバックでドープなトラックを流すのも、なんだかいい感じの怪しさが出ている。
04.”E Lucean Le Stelle(Reprise)”
2曲目で引用された「星は光りぬ」をテノール歌手とオーケストラでそのまま再現。
このタイミングでこんなトラックを入れるのは只者じゃない。
◎05.”Prince Igor”
ウォーレン・Gと、ノルウェー出身の有名なオペラ歌手シセルによる”だったん人の踊り”。ヨーロッパのヒットチャートで1位を取ったらしい曲。
スペーシーなシンセと「だったん人の踊り」のノスタルジックなメロディが合わさることで、不思議な雰囲気を作り出している。坂本真綾のカバーといい、意外とSF的世界観に合う「だったん人の踊り」。

3曲目同様フックで原曲を再現しているが、リズム楽器以外の音は原曲をなぞっておりクラシック感が強い。シセルの歌声を極力邪魔しないような配慮を感じる。
06.”Belle Nuit”
Mother Superiaという女性MCとオペラデュエットによる、オッフェンバックのホフマン物語のアリア「美しい夜、おお恋の夜(ホフマン舟歌)」を引用した曲。
フィメールラッパー&オペラ二重唱という特殊な組み合わせだけれど、トラック及び原曲に比較的メロディアスさが無く、テンポもゆったりなため地味めな曲。
07.”Präludium”
jay(jay-Zとは別人)というMCによる、バッハの平均律クラヴィーア曲集の第1番をサンプリングしたラップ曲。
美しすぎる一方で極めてシンプルな平均律クラヴィーアのメロディは、HIPHOPととても相性が良い。
08.”Ash So Fromm”
フロトーのオペラ《マルタ》のテノールアリア「M’Appari」を引用した曲。
テノール歌手は冒頭にのみ登場し、曲中のフックは「M’Appari」の旋律をストリングスで再現している。随所で登場するストリングスがとても美しく、原曲の美しいメロディが曲全体を彩っている。でもせっかくテノール歌手をフィーチャーしているんだからもうちょっと登場させても良いのに。
あと某謎オペラの人もラップを混ぜてみたら面白いんじゃないかとこの曲を聴いてて思った。一人HIPHOPミーツOPERA。

◎09.”Syrinx”
ドビュッシーのフルート独奏曲である「シランクス」をサンプリングしたラップ曲。MCはレッドマン。
相変わらずなドビュッシー節はアングラ系ヒップホップとの相性バッチリ。得体のしれない不穏なメロディはクラシック的ではないけれど、独自の土着宗教音楽のような雰囲気になっていて他の曲とは一線を画する。Redmanによるラップも普通にかっこいい。
◎10.”Vissi D’Arte”
四人組のHIPHOPユニットOnyx(オニックス)とソプラノ歌手によるコラボ。プッチーニのオペラ《トスカ》のアリア「歌に生き、愛に生き」を引用。
ダミ声や雄叫び多めのラップがアルバム中でもアクセントになっている。
フックはオペラアリア「歌に生き、愛に生き」とオリジナルのラップが同時進行する。屈指の名アリアとハード&ハイテンションなラップが対照的で面白い。ある意味オペラ歌手を蹂躙しているわけで、聴く人が聴けば怒り出しそうだけど。オペラのバックで騒いでるラップの歌詞も品が悪い。
11.”Schwanensee”
シンプルにコードを弾くギターをバックにラップが進む。ラップの合間に女性のポエトリーリーディング風の台詞 が挿入される。そして突然登場する《白鳥の湖》の「情景」。その後何もなかったかのように全く違う元の曲調に戻る。ちょっと不思議な雰囲気の曲。
MCはScootaという男性ラッパー。
12.”Recondita Armonica”
女性ラッパーのNikki Dとテノール歌手による曲。プッチーニのオペラ《トスカ》のアリア「妙なる調和」をフックに据えた曲。
アルバムのプッチーニ率がかなり高い。
◎13.”Nessun Dorma”
モブ・ディープとテノール歌手による《トゥーランドット》のアリア「誰も寝てはならぬ」をフィーチャーした曲。
軽めのトラックでのラップから、重厚なオーケストラを従えたテノールが登場する。曲の後半ではリズム楽器も姿を消してしまい、ドラマティックなオーケストラで原曲を再現しながらラッパーの語りで幕を閉じる。
3分半の短い時間にドラマを詰め込んた凄い曲。かっこええ…。
14.Prince Igor (Ries Class Jazz Extended)
5曲目のリミックス。
総評
Def Jam Recordingが関わっているようで、デフジャム関連のMCが参加しているアルバム。
1997年リリースであるため今聴くと音の古臭さは否めないですが、地味ながらしっかりと作られたトラックは本物です。歌手陣も豪華。
そしてやはりオペラ歌手をフィーチャーしている点が素晴らしいです。HIPHOPで良くある、サビだけゲストアーティストがメロディを歌う”featuringスタイル”をオペラで再現する事により、独自の世界観を作り出しています。
個人的には、ヒップホップ×クラシックに興味がある人に真っ先に勧めたい一枚。オペラが苦手な人もこれなら聴けるはず。
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