クラシックカバーアルバム全曲レビュー

あぃ☆どるちぇ『1じかんめっ!』

“さゆ”と”りん”による女子二人組クラシカル電波アイドルユニットのファースト・ミニアルバム。

 2016年リリース。残念ながら第2弾等のリリースありません。

AmazonやApple Storeなどでは購入不可の状態であるため、いくつかリンクを貼っておきます。

BOOTH

TOWER RECORDS

メロンブックス

曲目リスト(青色◎は特に良かった曲)

LESSON 01. 仲直りのおまじない☆あるるるるーん
原曲:ビゼー作曲「アルルの女」
LESSON 02. ◎今から青春だっ!
原曲:モーツァルト作曲「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
LESSON 03. ◎魔王のおはなし
原曲:シューベルト作曲「魔王」
LESSON 04. ◎早弁です☆てにー
原曲:ベートーヴェン作曲「交響曲第5番『運命』」
LESSON 05. 100点目指そう!
原曲:パッヘルベル作曲「カノン」
LESSON 06. 補習確定おやすいみん
原曲:バッハ作曲 ウィルヘルミ編曲「G線上のアリア」

LESSON 01. 仲直りのおまじない☆あるるるるーん/ビゼー「アルルの女」

ユーロビートがベースの、直球合いの手アイドルソング。サビメロが原曲の改変で、その他はおそらくオリジナル。

それにしても合いの手の脱力感が凄い。なんというか感情が無いというか弾けきれてない。実質インディーズ作品みたいなものなのでしょうがないんだけど。プロの声優やアイドルって何だかんだで凄いんだなぁ。

声量の無さも厳しい。私が同時期に聴いていたのがキム・ヨンジャなのも悪いけど。相手が悪すぎる。

キム・ヨンジャ『10人の恋する女たち』日本でも著名な韓国の演歌歌手、キム・ヨンジャによるクラシックカバーアルバム。恋愛オムニバス形式。 2010年リリース。 ...

原曲の「三人の王の行列」からは平行調に移調(ニ短調⇒ヘ長調)されており、原曲の勇ましさは完全に抜け落ちている。せっかくアルルの女を使用しているのに、これでは原曲の良さが台無しではないか…。

LESSON 02. ◎今から青春だっ!/モーツァルト「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」

と思いきや、前の曲の伏線がここで回収される。冒頭のメロディが一曲目と全く一緒(ファドファ)。「アルルの女」と「アイネクライネナハトムジーク」の冒頭の音型が全く一緒という所に目を付け、それぞれ調を合わせて対応させている。

そのため全く別の曲なのに、二曲目が一曲目の変奏曲みたいになってる。凄い。こんな仕掛け初めて見た。

一曲目とは対照的に、こっちは明るく上品な原曲をエモくアレンジ。そのため引用部分とオリジナルの部分がチグハグな印象だけど、これはこれで良い。曲調がコロコロ変わってこそアイドルソング。ユーロビートっぽいのは一曲目と変わらないけど、エレキギターが加わり一応差別化はできている。

ちなみにNacht(夜)Musik(音楽)を引用しているクセに、歌詞は「朝8時~」から始まり、「昼休み」「夕焼け」と時間が変化していき、そこで終わる。夜使えや!

LESSON 03. ◎魔王のおはなし/シューベルト「魔王」

イントロは原曲の雰囲気だけ残し、かなり大胆にアレンジされている。

ストーリーは「文化祭の演劇で『魔王』をすることになった」というもので、作中作として『魔王』が出てくる。で、曲中で『魔王』を演じるパート(Bメロ)だけ、原曲のメロディをアレンジして引用しているという感じ。サビも原曲の歌い始めのメロディをアレンジしているみたいだけど、面影はほぼ無し。

Bメロで雰囲気を変える装置として『魔王』のメロディが使われている。しかしその『魔王』のメロディもやっぱり半音の変化が全音になっていたりと原曲の肝である不穏さが無くなっており、ちっとも怖くない。でもそんな微妙なBメロがいい感じに脱力感を生んでいる。

はじめに一回聴いた時は「まったく『魔王』のメロディが出て来ないな、歌詞だけモチーフにしたのかな」と思ったけれど、よくよく聴いてみると、ちゃんと楽譜の面でも歌詞の面でも『魔王』をゆるゆるアイドルソングに落とし込んでいる。

LESSON 04. ◎早弁です☆てにー/ベートーヴェン「交響曲第5番『運命』」

これも運命の動機をまったく緊張感が無い感じにアレンジ。そして恥ずかしくなるくらいのバキバキのユーロビート。

イントロ・Aメロ・サビでそれぞれ運命の動機が出てくるけれど、それぞれ音型やリズムを微妙に変えており、特にサビなんて運命の動機とは大分かけ離れている。

しかしこの「曲のモチーフを、形を変えながら曲の各所で登場させ、統一感を持たせながらもきちんと展開させる」というのは、まさしくクラシックのお作法。Bメロだけは運命の動機を全く使用していないのも、クラシックにおける展開部みたいになってる。

前の曲がちゃんと原曲をモチーフにした歌詞だったので、この早弁ソングも『運命』と関係があるのだろうかと考えてもみたけれど、さっぱり分からない。考えるだけムダな気がする。

LESSON 05. 100点目指そう!パッヘルベル「カノン」

これもイントロ及びサビメロで原曲をアレンジした旋律を使用し、引用しているのかしてないのか良く解らないラインを攻める。

けど、そんなもどかしい流れの中、間奏で突然思いっきりカノンのフレーズが登場する所がエモい。

「テストで100点を取るために、二人で一緒に毎日毎日勉強して何度も何度も挑戦する」という曲のストーリー。これは同じフレーズを複数の声部で何度も繰り返すという「カノン」のコンセプトをきちんと活かしている。カノンの擬人化。

LESSON 06. 補習確定おやすいみん/バッハ作曲 ウィルヘルミ編曲「G線上のアリア」

サビメロで思いっきりG線上のアリアを使用。ここに来て初めてまともに原曲を使った気がする。でも冒頭のロングトーンの音価を何故か半分にしているので、小節数が半端になっている。ユニゾンだし。せっかくヴォーカル二人いるんだから、原曲通りハーモニーさせてじっくり聞かせたらいいのに。

難易度的にハーモニーはNGなのだろうか。そう考えれば、確かにユニゾンであのロングトーンは厳しいかも。相変わらず原曲の肝を削ぎ落していくスタイル。

前曲で「一緒に100点目指そう」と意気込んだばかりなのに、本曲で一緒に居眠りしてしまっておしまい。

カノンとG線上のアリアはよく似ていると言われるけれど、あえて似ている2曲を繋げてストーリーも繋げているのだろうか。曲調もこの2曲だけはユーロビート成分が少ない。1&2曲目も仕掛けがあったしそうなのかも。

総評

深みの全く無い駄菓子系音楽かと思いきや、意外にもスルメ盤。

アレンジは引き出しが少なくプロダクションも良いとは決して言えないけれど、クラシック曲の使い方に意外と工夫がみられる。

プロの作品でも「なんとなくクラシックのメロディ使ってみました」みたいなのも多い中、本作は元の曲をどう電波系アイドルソングに落とし込めるか、しっかり考えているように見える。

MOSAIC.WAVのクラシックカバーアルバムが意外にもバラエティに富んだ内容だったので、スタンダードな電波ソングがたっぷり聴きたい人はこっちの方が良いかも。

もう一作くらい聴きたかったなぁ。残念。

MOSAIC.WAV「MOSAIC.LASSIC ~ふたりのはっぴー☆あいらんど~」いわゆる「電波ソング」「アキバ系ソング」系音楽ユニットMOSAIC.WAV。テレビアニメ『すもももももも〜地上最強のヨメ〜』OPテーマ「...
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syro:生まれも育ちも長崎市です。二児の子育て中。 趣味はインドア全般。音楽以外ではスマホ収集とトライエースと三島由紀夫と遠藤周作が特に好きです。 好きな作曲家はメンデルスゾーンと葉山拓亮。

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