平原綾香のクラシックカバーアルバム第1弾。2009年リリース。
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曲目
“青色◎”は特に良かった曲。
01.pavane〜亡き王女のためのパヴァーヌ(ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」)
02.ミオ・アモーレ(カルディッロ「カタリ・カタリ」、プッチーニ「トゥーランドット
『誰も寝てはならぬ』」)
03.カンパニュラの恋(ショパン「夜想曲第20番・遺作」)
04.ロミオとジュリエット(プロコフィエフ「ロメオとジュリエット『モンターギュー家とキャピュレット家』」)
05.シェヘラザード(コルサコフ「シェヘラザード『若い王子と王女』)
06.Moldau(スメタナ「わが祖国『モルダウ』」)
07.◎仮面舞踏会(ハチャトゥリアン「仮面舞踏会『ワルツ』」)
08.AVE MARIA(カッチーニ「アヴェ・マリア」)
09.◎新世界(ドヴォルザーク「新世界より『第2楽章』」)
10.シチリアーナ(レスピーギ「シチリアーナ」)
11.◎ノクターン(ショパン「夜想曲第20番・遺作」)
12.◎Jupiter(ホルスト「惑星『木星』」)
01.pavane〜亡き王女のためのパヴァーヌ(ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」)
上品なピアノとストリングスで奏でるスタンダードなクラシカル・クロスオーバー曲。
原曲が美しい旋律の曲であることは間違いなく、忠実に再現したカバーではあるのだけれど、ポップスにするとしっくりこない部分もあり、何か半端にポップなカップリング曲みたいになってしまったという印象。
メロディを覚えてしまえばすんなりついていける、スルメ的な曲でもあるので一番聞く頻度が高い1曲目に配置するのは正解と言えば正解かも。原曲を知っている人からすれば十分なクオリティ。
1曲目なのに「good night」のワードで締める歌詞は、この曲が夜の始まりであり、ジャケットデザインも含めてアルバム全体が”夜”をテーマにしたコンセプトアルバムである事を聞き手にイメージさせる。また同時にアルバムラストの「ノクターン(夜想曲)」→「jupiter」の流れから、jupiterで夜明けを表現するんだろうなぁという予測もできる。(ちなみに木星はとても明るい星で有名なので、夜明けでも見える)
02.ミオ・アモーレ(カルディッロ「カタリ・カタリ」、プッチーニ「トゥーランドット『誰も寝てはならぬ』」)
『誰も寝てはならぬ』は言わずとしれた、フィギュアスケートの荒川静香がトリノオリンピックで金メダルをとった曲。1曲目にバンドサウンドを足したような曲調。
サビに当たる部分がシンプルな4拍子4小節ではなく、4拍,2拍,4拍,4拍という微妙な譜割りであり、メロディーがキャッチーな分「??」な違和感がある。それが聞き手を驚かせるような効果になっていたり、プログレ的なアプローチになっているかというと微妙であり、「何かしっくりこない」という印象だけを受ける。言うなればポルノグラフィティのギタリスト作曲の曲のような…。
トゥーランドットの原曲通りの譜割りではあるのだけれど、2拍足して素直に4拍4小節にした方がポップスとしては良かったのでは…。
原曲を知っている人からすればしっくりくるメロディなので、「みんな知ってるから大丈夫」もしくは「原曲をイジって怒られる可能性の方が高い」という判断でしょうか。
また2種類のオペラ曲を混ぜた曲、というのも斬新ではあるけれど、それが曲として面白くなっているかというと…。やはり両方の原曲のメロディをしっかり把握している人か、BGMとして雰囲気に浸れれば良い人向け。
アルバム全体の選曲や曲調からして、このアルバムの主なターゲットは”サラ・ブライトマン的なスタンダードなクラシカル・クロスオーバーが好きな人”と”フィギュアスケート好き”である事が予想され、その両者のニーズに合わせた曲、という感じ。
03.カンパニュラの恋(ショパン「夜想曲第20番・遺作」)
11曲目の「ノクターン」の歌詞&アレンジ違い。こちらはベースやドラム等のリズム楽器が加わっており、ストリングスも派手になっている。よりポップス風のアレンジ。歌詞も日本語であるため曲のイメージが鮮明に浮かぶ。
一方でリズミカルで派手めなアレンジは、原曲の持つ憂いや悲しみも薄めており、情景がすぐにイメージできる歌詞も、聞き手が曲から膨らませるイメージを逆に制限している印象。良くも悪くもポップなノクターン。
ちなみにカンパニュラはツリガネソウの事らしいです。冬や紫色を連想させる単語。日本人にとっては銀河鉄道の夜やリストの曲からロマンティックさやファンタジー感をイメージするワード。
04.ロミオとジュリエット(プロコフィエフ「ロメオとジュリエット『モンターギュー家とキャピュレット家』」)
まさかのクラシカルハードロック。
原曲のフレーズが強力なため、オーケストラでそのまま再現するだけで迫力とキャッチーさを出せるけれど、この曲ではあくまでオーケストラを出さずギターと歌がメインで原曲の新たな一面を出すことに成功している。ギターソロで奏でるロメオとジュリエットはまさに泣きのギター。
「望まない運命は変えていけ」「生まれ変わっても君に逢える」と原作の悲劇を安易にポジティブに捉える歌詞はちょっと興ざめ。
かといってこの「モンタギュー家とキャピュレット家」は全くもって物悲しい曲ではないので、ロメオとジュリエットの中からこの曲だけを抜粋して日本語でカバーするなら歌詞はこうするしかないのかも。
05.シェヘラザード(コルサコフ「シェヘラザード『若い王子と王女』)
再びシンプルなクラシカル・ポップ曲。アルバム冒頭の2曲と比べるとすんなり耳に馴染むメロディで、ポップスとしても違和感なく聞ける。
ちなみにキム・ヨナが当時フィギュアスケートで使用していた曲。全体を通して、フィギュアスケート関連の曲はあまり原曲のイメージを壊さないアレンジ。
ただシェヘラザードはいわゆる”アラビアンナイト”を題材にした曲なのだけど、このカバー曲では全く中東風味は無くなっており、”夜”に焦点を当てたような雰囲気にしている。
06.Moldau(スメタナ「わが祖国『モルダウ』」)
土臭さ(河臭さ?)100%の原曲をジャジーでオシャレにアレンジしたモルダウ。
個別記事で紹介しています。以下のリンク先からどうぞ。
07.◎仮面舞踏会(ハチャトゥリアン「仮面舞踏会『ワルツ』」)
A→B→A→C→A→B→A の大ロンド形式(複合三部形式)で展開する曲。
厳密には、序奏→A×2→B×2→A→C→A→B→A。これは原曲の展開そのままであり、アレンジ含めかなり原曲をそのまま再現している。
この原曲そのままの曲展開がかなりいい感じに作用している。序盤はメロディを2回ずつ繰り返すことでメロディが記憶に残るように印象付けられ、また曲全体の後半に”C“にあたる部分が登場するため、ポップスでいうと2番サビ後の間奏&Cメロにちょうど当てはまるようになっている。起承転結の”転”。
また原曲に近いアレンジとはいえ、派手なオーケストラだった原曲から室内楽にスケールダウンしており大規模な舞踏会というよりはアングラな集まりのような怪しい雰囲気が出ている。日本人の「仮面舞踏会」というワードに対するイメージはこっちの方が近いように思える。
大ロンド形式というポップスではとても珍しい曲構成で且つ原曲にかなり充実なカバーでありながらも、よりポップでムーディな仮面舞踏会を作り上げている上ポップスとして違和感もない名曲。
「剣の舞」が有名なハチャトゥリアンだけれど、他の曲も同様に賑やかでキャッチーな曲揃いなので、もっと認知されるべき作曲家。
ちなみに浅田真央と織田信成が当時フィギュアスケートのBGMに使用していた。
08.AVE MARIA(カッチーニ「アヴェ・マリア」)
ピアノとアコギのシンプルな伴奏で歌われるジャジーなアヴェ・マリア。
そもそもアヴェ・マリアというのはキリスト教の祈りが歌詞になっており、美しく天上的で神聖なイメージがあるもの。特にカッチーニのアヴェ・マリアは天から降りてくるような美しい旋律が印象的。
しかし低音が得意でクラシカルな歌唱法でもない平原綾香が歌うことで別のオシャレ感が出ている。
クラシックとジャズというのはどちらもランクが高めの音楽というのが一般的な日本人のイメージだと思うのだけれど、ジャズが”おしゃれ””大人っぽい”で一貫しているのに対してクラシックはややオタク的なイメージを持たれている。クラシックをジャズ風にアレンジするというのは、敷居の高いクラシックを、オシャレ度はそのままにより大人っぽく、より身近な音楽に変身させるよい手法なのかもしれない。だってコンサートよりBarの方がモテるし。
ラストに「死」のワードが出てくるのは原曲と共通する部分だけれど、このカバーではそこで自身の音楽に対する思いも一緒に歌っており、原曲をなぞりながらも独自のカラーや自分なりの意見を出していくというのがアルバム全体を通しての作詞のスタンス。
09.◎新世界(ドヴォルザーク「新世界より『第2楽章』」)
まず”新世界より”のタイトルを見て、ほとんどの人が第4楽章を想起すると思うのだけれど、そこで「第2楽章の方かい!」という第一の裏切り。
そして第2楽章の日本語カバーといえば「遠き山に日は落ちて」が浸透しており、冒頭はその「遠き山に日は落ちて」のイメージ通りの曲調で始まる平原綾香の「新世界」。
しかし2分経過してから一気にストリングスが鳴り響き、牧歌的な雰囲気から一気にポジティブソングへ変化し夜明けを感じさせる第二の裏切り。
そして中盤に突然入るウッドベース風の間奏。かなり前衛的な第三の裏切り。
この三段構えの聞き手を裏切る仕掛けが、7分以上あるこの曲を全く退屈させないエッセンスとなっている。
ドヴォルザーク原曲の「新世界」は、要は「新天地アメリカ(新世界)から故郷に向けて曲を書くよ」という意味であるのだけれど、有名な第4楽章の曲調と「新世界」というワードから日本人の想像するイメージは、ドヴォルザークの持っていた本来のイメージとはだいぶ異なるはず。
そんな背景がある中で、あえて第4楽章ではなく第2楽章を用いて、しかもこの全く”新世界”感のない素朴な第2楽章をもって新たな”新世界”のイメージを提示している名曲。歌詞も”等身大の新世界”という感じ。
原曲とは全く解釈が違う!とツッコむのは野暮ってもんです。
ちなみに序盤の普通に原曲をなぞる流れから、一気に盛り上げてオリジナルな展開へ持っていく手法はjupiterとも共通しており、jupiter冒頭の展開を更に発展させたのが「新世界」。
10.シチリアーナ(レスピーギ「シチリアーナ」)
オーケストラをバックに切ないメロディを歌う曲。シンプルでマイナーなメロディは普通に泣ける曲として聞ける。ストリングスもポップスらしい劇的さ。
しかし、直前で高らかに”新世界”を歌い上げたばかりなのに「世界が終わる」「未来などいらない」といったワードが並ぶ歌詞はどうなんだろう。しかもこれらのワードは曲の一番印象的な部分に使われており、「さっきの高揚感をどうしてくれるんだ…。」という遣り場の無い思いに襲われる、別の意味でも切ない曲。曲順は何とかならなかったんだろうか。意図的にそういうストーリーを持たせているのだろうか。曲調だけ見れば悪くない流れ。歌詞がね…。
11.◎ノクターン(ショパン「夜想曲第20番・遺作」)
ピアノと弦楽器のみで奏でられるノクターン。曲全体を通しての緊張感がすごい。カンパニュラの恋よりも断然こっちが良い。こっちをドラマ主題歌&シングルA面に持ってきたのは正解。
原曲の持つ憂いや暗さを十二分に引き出しており、歌詞が英語であることも曲のイメージを膨らませるのに一役買っている。この曲が主題歌になっているドラマを見ていた人はドラマの思い入れの強いシーンが浮かぶだろうし、ドラマを知らない人はきっと各々の切なく、冷たいイメージを持つ思い出が浮かび上がってくるはず。
個人的に鬼束ちひろ「僕等 バラ色の日々」宇多田ヒカル「誰かの願いが叶うころ」に並ぶ3大日本女性シンガー鬱ピアノ曲。
12.◎Jupiter(ホルスト「惑星『木星』」)
直前の2曲の鬱っぷりを救済するように流れるグランドフィナーレ。
やはり冒頭で原曲を再現した後、4拍子に変化しオーケストラ&バンドサウンドが現れる部分が劇的で美しい。
平原綾香の声は、低音と高音にいい感じの音域があり、jupiterでも、低音での歌唱と1オクターブ上での歌唱、オクターブ違いでのユニゾン(オクターブユニゾンと言います)をそれぞれ使い分けている。ほぼ同じメロディの繰り返しであるjupiterを、拍子を変えたりアレンジを変えたりオクターブ上で歌ったりオクターブユニゾンで歌ったりと使い分けることで変化を付けており、6分間ほぼ同じメロディの繰り返しなのに全く飽きない。
そしてアウトロの泣きのギターソロ。古臭いけど良いものは良い。
「木星」で未来への希望を歌うのは、万国共通。以下の記事参照。
総評
既発曲も多い中での企画アルバムだけれど、とても練られた曲順。
序盤はシンプルな「ザ・クラシカル・クロスオーバー」といった曲調で無難に始まり、個性的でインパクトの強くメロディアスな曲を多く配置する後半で一気に盛り上げる。そして2連続の暗い曲からラストのjupiterで締める流れがとても良いです。
平原綾香の曲の中でも特に知名度の高い「jupiter」「ノクターン」をこの位置に持ってきているのも製作者の拘りが感じられます。
アレンジ違いの「カンパニュラの恋」「ノクターン」を2曲とも収録していますが、蛇足感は全くなくそれぞれいい感じに収まっています。前半と後半に同じ曲が登場するのは(ヴェルディのレクイエム等)クラシック的でもあり、コンセプトアルバム感を演出するのにも一役買っています。
アレンジもピアノと弦楽器をメインにしながらも、多彩な曲調が並び想像以上に退屈しないアルバム。原曲のメロディやコードを活かした独自のアレンジもあり、原曲と聴き比べる楽しみもあります。
そしてラストに今までの登場人物全てを救済するように流れるjupiterは、1曲単体で聴くよりもずっとずっと感慨深いです。jupiterが好きな人は聴くべき。
クラシックカバーアルバム第2弾の紹介はこちらから。
平原綾香の曲の中で私が一番好きな曲も紹介記事を書いてます。合わせてどうぞ。
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