クラシックカバーアルバム全曲レビュー

本田美奈子.「時」

本田美奈子.が2004年にリリースしたクラシックカバーアルバム第2弾の「時」。一部のインストを除いて、全てにオリジナルの日本語歌詞が付けられている。

このアルバムをリリースした後白血病で亡くなったため、企画盤を除けばこれがラストアルバム。

 リンク先で全曲視聴できます。

 

曲目

“青色◎”は特に良かった曲。

1. すべての輝く朝に [オリジナル曲]
2. 白鳥 [サン=サーンス]
3. 誰も寝てはならぬ ~「トゥーランドット」より [プッチーニ]
4. If I Loved You ~ミュージカル「回転木馬」より [リチャード・ロジャース]
5. エデンの東 [ローゼンマン]
6. ゴッドファーザー愛のテーマ [ロータ]
7. 風のくちづけ(イタリアーナ~「リュートのための古代舞曲とアリア」より) [レスピーギ]
8. 新世界~ 「交響曲第9番『新世界より』第2楽章」より [ドヴォルザーク]
9. パッヘルベルのカノン [パッヘルベル]
10. ◎人知れぬ涙~オペラ「愛の妙薬」より [ドニゼッティ]
11. アリア ~「ブラジル風バッハ第5番」より [ヴィラ=ロボス]
12. ◎ソルヴェイグの歌 [グリーグ]
13. 時 -forever for ever- [オリジナル曲]
14. ◎この素晴らしき世界 [ルイ・アームストロング]

 

1. すべての輝く朝に [オリジナル曲]

ハミングとシンセ・笛がメインのヒーリング風インスト。

2. 白鳥 [サン=サーンス]

白鳥に日本語歌詞を付けた曲。シンプルにアルペジオを鳴らすアコースティックギターと、バックでほんのりコードを鳴らすシンセのみのシンプルなアレンジ。全部で2分半と曲構成もシンプル。

本田美奈子の歌声はオペラ的歌唱とは違い、甲高くビブラートをたっぷり利かせた歌唱。高音も良く出てはいるが、個人的にはやや耳につく。

3. 誰も寝てはならぬ ~「トゥーランドット」より [プッチーニ]

ストリングスメインで奏でるネッスンドルマ。本来テノールで歌われる曲をキーを上げて歌っているが、最高音部はやや厳しい。とはいえオペラとは一味違うソプラノ歌唱と日本語の歌詞というのは、十分特長足りうる。

4. If I Loved You ~ミュージカル「回転木馬」より [リチャード・ロジャース]

シンプルなピアノ一本のアレンジ。無理に高音やビブラートを効かせなくとも、穏やかに歌う曲の方が身の丈に合っているのでは。それでもアイドル出身とは思えない程度に上手いのは十分伝わる気が…。

5. エデンの東 [ローゼンマン]

シンプルなキーボードとアコギで聴かせる、映画「エデンの東」のテーマ。全ての曲は井上鑑(あきら)のアレンジ。歌を邪魔しないシンプルなアレンジで徹底している。選曲含め、日本の大人向けクラシカル・クロスオーヴァーといった感じ。平原綾香よりも大人向け。

6. ゴッドファーザー愛のテーマ [ロータ]

ゴッドファーザーのテーマを弦楽四重奏とヴォカリーズ(ウ~ウ~ア~ア~♪)で歌う。こんなに上品にゴッドファーザーを歌われるとなんだか不思議な雰囲気。マフィアに囚われている女性かヤクザの姉さんみたいな。歌詞が無いのも逆にイメージが膨らみ効果的。選曲含めて一本。

7. 風のくちづけ(イタリアーナ~「リュートのための古代舞曲とアリア」より) [レスピーギ]

琴をフィーチャーしたイタリアーナ。原曲はリュートを使用しているが、琴の音が良くなじんでいる。穏やかで高音の歌唱はややアニソン歌手っぽい。

アルバム全体を通してアレンジは徹底してシンプルだが、曲ごとにメインの楽器は異なり、全編通してピアノ&キーボードがサブに回る事で統一感とバリエーションを両立させている。プロの仕事。

8. 新世界~ 「交響曲第9番『新世界より』第2楽章」より [ドヴォルザーク]

ストリングスをバックに衒いなく”家路”を歌う。歌詞はオリジナル。歌詞はこの曲含め4曲を本田美奈子自身が作詞しており、あとはプロの作詞。

9. パッヘルベルのカノン [パッヘルベル]

ヴォカリーズのアカペラ多重録音で聴かせるカノン。

◎10. 人知れぬ涙~オペラ「愛の妙薬」より [ドニゼッティ]

チェロをフィーチャーしたドニゼッティのアリア。平原綾香や藤澤ノリマサほどポップに寄せないアレンジを保ちながら、歌詞は日本語であるためオペラの上品さを損ねずに親しみやすくしている。チェロの程良い主張具合が絶妙。

11. アリア ~「ブラジル風バッハ第5番」より [ヴィラ=ロボス]

原曲はブラジル音楽のエッセンスを取り入れたクラシック曲、という事だが本作のスタッフがアレンジするとその土臭さが歌謡曲的な雰囲気に変わる。なんだかメロディも「いい日旅立ち」みたい。

短い曲が並ぶ本アルバムの中では最長の6分強の曲だが、中間部はガラっと雰囲気が変わるためそこまで冗長ではない。

12. ◎ソルヴェイグの歌 [グリーグ]

サックスとアコギのシンプルなアレンジで歌メロを聴かせるソルヴェイグの歌。原曲のテーマである”愛する人(ペール・ギュント)を待ちわびる切なさ”は、透明感のある歌声と日本語歌詞で、より実感しやすくなっている。イントロのフルートとアウトロのサックスも泣かせる泣かせる。

そして何といっても、このアルバムが彼女の”遺作”であるという事が余計に何とも言えない雰囲気を作り出している。アルバムのラストへ向けてその効果は徐々に強くなっていく。

ちなみにこの曲の原作である組曲《ペール・ギュント》、ラストはボロボロになって故郷に帰ってきた主人公のペールギュントが、ソルヴェイグに子守唄を歌ってもらいながら息を引き取る、という内容。なので原作を知っている人にとっては、この「ソルヴェイグの歌」はラストの主人公の死を想起させる曲でもあります。いやはや。

13. 時 -forever for ever- [オリジナル曲]

力強く穏やかでポジティブな雰囲気のオリジナル歌もの。サビの歌詞が「正しい力を合わせて 生きよう いのちに終わりがある 私たち」とかズルい。泣くしかないやんこんなの。生前は全く彼女のことを知らなかった私が泣けてくるくらいだから、ファンの気持ちたるや。

14. ◎この素晴らしき世界 [ルイ・アームストロング]

そしてそんな前曲の「時」から、ブルージーなアコギとハモンドオルガンがシンプルに伴奏を奏でながら、3分弱で終わる穏やかなラストトラック。不謹慎だけれど、正直全てが完璧なラスト。泣くしかない。

 

総評

シンプルであるけれど洗練されたアレンジと大人な選曲、日本語の歌詞という事で日本の大人向けクラシック・クロスオーヴァーです。

甲高くビブラートを強く効かせた、ややクセのある歌唱が人を選びそうですが、サラ・ブライトマンやオペラ歌手とは一味違った魅力もあります。本アルバムが合うかどうかはこの歌声が気に入るか否かにかかってます。

そして前述の通りこれが実質彼女のラストアルバムである、という事で本作は余計に感慨深いものになっています。そういう作品外のドラマに感情移入できる人には間違いなくお勧めできます。全く本田美奈子さんに予備知識も思い入れもない私でさえ泣けてきました。

 

 

ABOUT ME
syro
1984年生まれ。生まれも育ちも長崎市です。 2人の子育てが大変なので、夜中にちまちま記事を書き通勤中と昼休みに曲を聴く日々。 趣味はインドア全般。音楽以外では辛麺と洗濯とトライエースと三島由紀夫と遠藤周作が特に好きです。 好きな作曲家はメンデルスゾーンと葉山拓亮。

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