クラシックカバーアルバム全曲レビュー

アニー・ハズラム「Still Life」

今回紹介するのは、イギリスの女性歌手アニー・ハズラム(Annie Haslam)のクラシックカバーアルバム、「スティル・ライフ(Still Life)」です。ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団との共演。

 

1985年発表のアルバム。CD化は1994年。

 

アニー・ハズラムは、70年代に活躍したプログレッシブ・ロックバンド“ルネッサンス”の2代目ヴォーカルであり、”ルネッサンス”での活動を経てのソロ2ndアルバムが本作にあたります。クラシック・カバーアルバムは本作のみです。

 

曲目

青色◎は特によかった曲。

1 Forever Bound(チャイコフスキー交響曲第5番第2楽章)
2 ◎Still Life(バッハ G線上のアリア)
3 One Day(フォーレ 「ドリー」より「子守歌」)
4 Ave Verum(モーツァルト「アヴェ・ヴェルム・コルプス」)
5 Shine(サティ「ジムノペディー」)
6 Careless Love(ショパン「別れの曲」)
7 ◎Glitter And Dust(チャイコフスキー「白鳥の湖」から「情景」)
8 Day You Strayed(フォーレ「パヴァーヌ」)
9 Save Us All(アルビノーニ「アダージョ」)
10 Skaila(ディーリアス「ラ・カリンダ」)
11 Bitter Sweet(サン・サーンス「白鳥」)
12 ◎Chains and Threads(ワーグナー「《タンホイザー》」より「巡礼の合唱」)

 

1 Forever Bound(チャイコフスキー交響曲第5番第2楽章)

とってつけたようなショスタコーヴィチみたいに物々しいオーケストラのイントロで始まる曲、と思いきやイントロが終わるやいなや、穏やかなオケに穏やかな歌声。イントロからのギャップが凄い。プログレ的アプローチ?元がプログレバンド出身なので確信犯なのか素でこれなのか測りかねる。

オーケストラにロックドラムを混ぜた編成はとても心地が良くいい感じなのだけれど、歌とオケとドラムのリズムは相当ズレてる。録音が古いから?一発録音でこんな感じになってる?

3連符メインのメインヴォーカルに対して16分音符で合いの手を入れてくる合唱隊も、他の部分がズレてるせいでちょっと訳わかんないリズムになってて戸惑う。しかしそれが結果的に味があるというか、プログレ感が出ている。例えばキングクリムゾンの「21世紀の精神異常者」のドラムも、あのモタつき具合がないと物足りない。そんな感じ。

そんなごちゃごちゃパートから終盤無理やり一気に盛り上がる展開は、「やっとチームがまとまった!」みたいな雰囲気が出ていて別の意味でも劇的。個性的なメンバーで構成されたチームがようやく統率されて1点取ったみたいな。アニメの第1話の展開みたい。そんなオープニングナンバー。

 

2 ◎Still Life(バッハ G線上のアリア)

オーケストラ&ドラム&ベースで衒いなくG線上のアリアを歌う曲。アニー・ハズラムのヴォーカルは優しさと技術を兼ね備えた大人の歌声、という感じで素晴らしい歌唱。普通なアレンジで普通に歌っているだけなのに無性に感動してくる。前曲ではあんなに不安定だった楽器隊も概ね息が合っている。

個人的に、数あるG線上のアリアカバーの中でもNo.1の出来。

 

3 One Day(フォーレ 「ドリー」より「子守歌」)

ピアノ組曲である原曲。このカバーではピアノに加え木管楽器もフィーチャーしている。前2曲が大仰な感じだったので良い感じに緩急がついている、緩徐楽章的な曲。

 

4 Ave Verum(モーツァルト「アヴェ・ヴェルム・コルプス」)

モーツァルト作曲の讃美歌を、原曲の雰囲気を崩さずに再現したカバー。ハープが加わった程度。

 

5 Shine(サティ「ジムノペディー」)

ジムノペディをシンプルなオーケストラ&ロックドラムでカバーした曲。それにしてもスネアの音が大きすぎやしないかい?というかスネアの音量のバラつきが凄い。調節できてなくない??

しかしこれも結果的にいい感じにオルタナ感が出ていて味がある。きれいに整えられた音源ばかり聴いている現代っ子に聞かせてやりたい。

 

6 Careless Love(ショパン「別れの曲」)

Vo&合唱&アンサンブル&ロックドラムでまとめた別れの曲。所々にプログレの香りが漂っており、上品さと妖しさを兼ね備えた雰囲気がたまらない。何度も言うけれどアニー・ハズラムの歌唱もとにかく良い。

どの曲も3~4分程度であるためテンポよく聴ける。

 

7 ◎Glitter And Dust(チャイコフスキー「白鳥の湖」から「情景」)

これも原曲の雰囲気を壊さずに、ドラムとヴォーカルとハープで味付けをして起伏を多少付けた程度のアレンジだけれど、とてもいい感じに仕上がっている。

2度目の主題をヴォーカルレスの大仰なオーケストラで再現した後、ドラムが少しテンポを上げて山場を作る展開が超カッコいい。

 

8 Day You Strayed(フォーレ「パヴァーヌ」)

メロディアスなパヴァーヌを更にドラマティックに煽るストリングスアレンジ。前曲同様山場をオーケストラに委ねる構成が潔くてかっこいい。

 

9 Save Us All(アルビノーニ「アダージョ」)

他の曲と同様、原曲の雰囲気を壊さない程度に原曲のドラマ性を高め、山場を作るアレンジが良い。マイナー調な上、やや煽りが過剰でサスペンスドラマの音楽みたいになっている節はある。

ちなみにこの原曲のアルビノーニのアダージョ、アニー・ハズラムが以前に在籍していたバンド、ルネッサンス時代にも同曲をカバーしている。アルバム『Turn Of The Card』収録の「Cold Is Being」という曲。この「Cold Is Being」にインスピレーションを受けて、本アルバム『Still Life』を制作するに至った様子。

アルビノーニのアダージョ/ルネッサンス「Cold Is Being」イングランド出身のプログレッシブロックバンド、ルネッサンス(Renaissance)。 1974年リリースのアルバム、『運命のカー...

 

◎10 Skaila(ディーリアス「ラ・カリンダ」)

原曲は19~20世紀のイギリスの作曲家、フレデリック・ディーリアスの歌劇《コアンガ》の中の管弦楽曲。いい曲。

とても素朴で美しい一方、途中でリズムが変わる原曲。彼女が歌う事で、プログレ感漂う曲に変貌している。骨太のドラムも格好良い。

 

11 Bitter Sweet(サン・サーンス「白鳥」)

白鳥をシンプルに歌モノにアレンジ。ハープの音色が印象的。

 

12 ◎Chains and Threads(ワーグナー「《タンホイザー》」より「巡礼の合唱」)

原曲は、ワーグナーの歌劇《タンホイザー》のメインテーマとも言える曲。序曲の冒頭にオーケストラで演奏され、本編でも合唱にて登場する。そんなタンホイザーの貴重なカバー曲。

アニー・ハズラムが素朴に歌う前半から壮大な合唱につなげ、劇的に幕を下ろす構成が良い。1曲目を聴いた時には「これはイロモノ系プログレアルバムなのか?」とドキドキしたけれど、無事に大団円。

1曲目にはあんなに不安定だったヴォーカルとオケと合唱隊とドラムのリズムも、ちゃんと合っている。1曲目から順番に一発撮りなの?まさか。

 

総評

原曲の雰囲気を保ったままポップでキャッチーに昇華させたアレンジ。アニー・ハズラムの歌も、変にオペラ的でなく高い歌唱力でとても聞き心地が良いです。

そしてアルバム全体を通してシンプルなリズムを刻み続ける、ヘタウマなロックドラムがかなりの存在感を放っています。昔はこれが普通だったのかもしれないけれど、今聴くととても新鮮。

選曲は有名曲が多いですが、所々独特な選曲で、製作者の個性が垣間見えます。

平原綾香やサラ・ブライトマン・本田美奈子よりもスタンダードなクラシック・クロスオーヴァーでありながらも、プログレ/オルタナロック的な魅力も兼ね備えた魔性のアルバム。

 

 

ABOUT ME
syro
1984年生まれ。生まれも育ちも長崎市です。 2人の子育てが大変なので、夜中にちまちま記事を書き通勤中と昼休みに曲を聴く日々。 趣味はインドア全般。音楽以外では辛麺と洗濯とトライエースと三島由紀夫と遠藤周作が特に好きです。 好きな作曲家はメンデルスゾーンと葉山拓亮。

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