ゆか(ヴォーカル・ピアノ・アコーディオン)とさち(バイオリン)によるネオクラシック・ユニット、黒色すみれ。
クラシック音楽やフランスのシャンソンに、日本歌曲や大正ロマンのテイストをミックスさせたノスタルジックな楽曲が特徴のアーティスト。
本作『拾肆-14-』は、“大正ロマン”“14歳”“クラシック”をテーマにした作品。
2017年リリースの8thアルバム。
試聴はこちらのリンクからもできます。
また、ご本人がこちらのブログにて楽曲解説をされており、一部参考にさせていただいております。
1. 「拾肆」のテーマ(サティ「ジムノペディ第1番」)
2. ◎黒ネコのタンゴ
3. すみれの花の咲く頃
4. ◎乙女椿の曲がり角
5. ◎夢見るシャンソン人形(ベートーヴェン「ピアノソナタ第1番 第4楽章」・バッハ「トッカータとフーガ 二短調」)
6. Ave Maria(カッチーニ「Ave Maria」)
7. コングラチュレイションズ!
8. ◎アメジスト(ベートーヴェン「悲愴」第2楽章)
9. Kurion-jyane?
10. ダイジョブ! ダイジョブ!
11. ◎六畳半ラプンツェル(モーツァルト:《魔笛》より「夜の女王のアリア」・「アイネクライネナハトムジーク」)
12. ◎わたしを導く一つの星(スメタナ:連作交響詩《わが祖国》より「モルダウ」)
13. 月還りのパバーヌ(ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」)
14. NAOMI(ビゼー:《真珠採り》より 「耳に残るは君の歌声」)
1. 「拾肆」のテーマ(サティ「ジムノペディ第1番」)
インスト。オリジナルの不穏なバイオリンからティンパニも加わり、その後何の脈絡もなくホイッスルがのどかにジムノペディをワルツっぽく奏でるパートに移る。そしてジムノペディのメロディがいつの間にか君が代になっている。
ちなみにワルツパートでリズムを刻んでいるのはホッチキスの音らしい。
ちょっと全体的にセンスがどうかしている。
2. ◎黒ネコのタンゴ
アコーディオンとバイオリンで奏でるカバー。楽器の数は少ないけど生演奏で音がキレイ。
かなり好き放題にカウンターメロディを奏でるバイオリンが身勝手で気まぐれな黒ネコを演出しているみたいで楽しい。バイオリンの音色もグリッサンドを使ってネコの鳴き声っぽい音を出している。
裏拍多めの原曲歌メロに、アコーディオンらしいリズミカルな交互ベース&コードを当てたAメロも、スピード感があって凄くいい。後半は音を籠らせたりテンポを上げたりしてメリハリもある。
3. すみれの花の咲く頃
前曲同様、原曲よりもテンポを上げてバイオリン&アコーディオンでリズミカルにアレンジしたカバー。原曲は宝塚歌劇団で有名な曲。バイオリンの音色が程よく派手&華やかでキレイ。
4. ◎乙女椿の曲がり角
オリジナル曲。民俗舞曲×歌謡曲。
昔の歌謡曲に有りがちなAメロが主役の構成に加えて、大胆に曲調を変化させる3拍子の中間部を挟んでおり、ABACABAの大ロンド形式にしている。
歌詞は開花直前の乙女椿を用いて、別れの季節や二人の関係性、恋する女性の慎み深さ等を比喩している。
そんなせっかく奥ゆかしい歌詞なのに、冒頭で思いっきり「三月」と情景描写を用いずに直球で状況を説明してしまっているのは、某TV番組の俳句添削おばさんに「趣が無い!」と怒られてしまいそう。まぁでも物語音楽なんだから冒頭にしっかり状況説明した方がいいよね。
歌詞の雰囲気やサウンド、曲構成など全て含めて、まさしくクラシック×日本歌謡な良い曲。
5. ◎夢見るシャンソン人形(ベートーヴェン「ピアノソナタ第1番 第4楽章」・バッハ「トッカータとフーガ 二短調」)
フランス・ギャルのカバー。日本でも60~70年代にかけて様々な歌手によってカバーされた、フレンチポップの代表的な曲。サビがベートーヴェンの引用。
そんな原曲にバッハのフレーズと大胆にデジタル音を加えて、ゴスインダストリアルにアレンジ。MALICE MIZERみたい。可憐なストリングスと、ブイブイ言わせるシンセベース&シンセドラムのギャップがカッコいい。
後半で室内楽パートからドラムンベース調に切り替わる展開や、サビの繋ぎ目に挿入されるバッハの旋律もエモい。
可愛らしく美しい雰囲気の楽曲とは裏腹に、本当は怖い「夢見るシャンソン人形」。そんな原曲の世界観をある意味正しく再構築した、名カバー。
ちょうど「なんか似たようなアレンジの曲が並ぶ作品だなぁ」と思っていた矢先にこれ。度肝を抜かれる。
6. Ave Maria(カッチーニ「Ave Maria」)
からくり時計のような音をサンプリングして、不気味なテクノ調にアレンジ。
前曲からの流れを引き継ぎ、厳かで美しい原曲の、ちょっと不気味な側面をピックアップし強調したカバー。私もカッチーニのアヴェマリアって結構怖い印象があったので、同じように感じる人って結構いるのだろうか。
7. コングラチュレイションズ!(ヘンデル:オラトリオ《マカベウスのユダ》より「見よ、勇者は帰る」)
変拍子ヨーデル。さっきまでの流れがウソのように、おめでとうだの金メダルだのひたすら励ます曲。逆に怖い。
羊の鳴き声を模したりするバイオリンが相変わらず自由。合間合間にヘンデルのフレーズが入る。
8. ◎アメジスト(ベートーヴェン「悲愴」第2楽章)
「悲愴」のフレーズを借用した3拍子のバラード。個人的に「悲愴」第2楽章は食傷気味なうえにメロディが間延びしているよなぁとか思ってたので、3拍子になってよりメロディアスで温かみが出た気がする。
オリジナルの歌メロから「悲愴」の間奏に入る部分もエモい。サビメロで引用するよりよっぽど良い。
9. Kurion-jyane?
バイオリンを三線代わりにした沖縄民謡風の小曲。意味不明なタイトルは「水どう」からの引用との事で、深読みするだけ損。
10. ダイジョブ! ダイジョブ!
ルーマニアの「Whistling Hora」、アイルランドの「John Ryan’s Polka」など、トラディショナル曲がイントロや間奏、後奏に散りばめられているとの事。
曲全体もジプシー音楽やポルカ調。相変わらず自由自在なバイオリンと、ガチのトラッド×JPOPな塩梅はオンリーワン。ローカルのフェスティバルとかにいそう。ていうか来てほしい。
11. ◎六畳半ラプンツェル(モーツァルト:《魔笛》より「夜の女王のアリア」・「アイネクライネナハトムジーク」)
和製ミュージカルとオペラを融合。ストリングスに迫力があるので意外と音に説得力がある。この弦楽四重奏っぽい音って全部バイオリンで出してるのだろうか。高音のコロラトゥーラも頑張って出してる。
相変わらず滲み出るラテン音楽のエッセンスや、間奏の台詞パートや曲調の変化など、ほんとオンリーワンの世界観。退屈しない楽しいカバー。
12. ◎わたしを導く一つの星(スメタナ:連作交響詩《わが祖国》より「モルダウ」)
モルダウのメロディと、魔女の宅急便の「海の見える街」みたいなオリジナルのメロディが絡む、超メロディアスな曲。
動き回るストリングスや3拍子のリズムも合わさって、同人ゴシックみたいな楽曲。
13. 月還りのパバーヌ(ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」)
ピアノとバイオリンがメインのバラード。有名なロンド主題だけではなく他の部分もしっかり引用しており、再びロンド主題に戻る所を盛りに盛ったアレンジで劇的に仕上げている。
14. NAOMI(ビゼー:《真珠採り》より 「耳に残るは君の歌声」)
谷崎潤一郎の「痴人の愛」をモチーフにした楽曲との事。「14歳」をテーマにしたアルバムのラストで彼女をテーマにするのか…。
タンゴの曲として単独で使用される事が多い原曲。本曲もタンゴ調にアレンジ。
総評
「ロリータ・クラシック」「ネオクラシック」という耳触りの良い言葉を纏ったその本性は、ナチュラルに変態なオルタナ歌謡曲。
アコーディオン×バイオリンという編成な事もあり、ロマ音楽やラテン音楽の要素も多め。
小編成ながら、縦横無尽に駆け回る芸達者なバイオリンがかなりの存在感を放っており、バイオリンが音楽的基幹を支えています。とはいえアニソン的な派手さではなく、上品さも持ち合わせたアレンジ。
アコーディオン&バイオリンの女性デュオという事で、チャラン・ポ・ランタンとかアニソン系ゴシックの仲間かと思いきや、サブカル風味が強くワールドミュージックやクラシック・シャンソン等がベースにあり、それらのアーティストは全く異なるアプローチでクラシカルポップスを試みる、稀有なユニット。唯一無二の世界観です。
本作では記載しているクラシック曲以外にも何かの曲を引用しているようなフレーズが散見されましたが、彼女たちは他の作品でも、所々にクラシックのフレーズを引用しています。興味がある方は他の作品もどうぞ。
ちなみに、彼女たちのデビュー曲「私の楽団(オーケストラ)」はこちら。2004年の作品。
クラシカル&ハードテクノな、マリスミゼル&ゴスロリブームの影響を強く受けた楽曲です。
ゴスロリ系アーティストは、得てして齢との葛藤が生じます。
分島花音はモダン化し、スタンダードなアニソン&椎名林檎路線へと脱皮しました。一方黒色すみれはトラディショナル&レトロに向かい、懐古的でありつつも独自の世界観を深めています。