クラシックカバーアルバム全曲レビュー

Robert de Boron+The Antidotes「Beat the Classics」

日本のトラックメイカー、ROBERT DE BORON(ロバート・デ・ボロン) がアメリカのHIPHOPグループ、The Antidotesと共作してリリースしたアルバム。

クラシック曲をベースにトラックメイクしたHIPHOP曲で構成されています。全曲英詞。

 2010年リリース。

こちらのリンク先で全曲試聴できます。

https://music.apple.com/jp/album/beat-the-classics/381254615

 

曲目

“青色◎”は特によかった曲。

01. Peace of Mine feat. Shanelle (パッヘルベル「カノン」)

02. ◎Next One feat. Cee Nario(バッハ「G線上のアリア」)

03. Growth feat. Cee Nario (ドヴォルザーク「新世界より」)

04. ◎Jupiter feat. Cee Nario (ホルスト「ジュピター」)

05. Any Minute Now feat. Shanelle (チャイコフスキー「弦楽セレナーデ」)

06. From Far feat. Cee Nario (プッチーニ「トゥーランドット」)

07. ◎Summer (ヴィヴァルディ《四季》より「夏」)

08. ◎I’m Home feat. Cee Nario (ショパン「ノクターン」)

09. Boom Boom Clap (バッハ・グノー「アヴェ・マリア」)

10. ◎Classic Flow (ヘンデル「サラバンド」)

11. The Real(バッハ「主よ、人の望みの喜びよ」)

12. Light Of The Moon (ドビュッシー「月の光」)

 

 01. Peace of Mine feat. Shanelle (パッヘルベル「カノン」)

これ系のアルバムでは珍しく、イントロダクションや前奏無しに1拍目からヴォーカルが入ってきて面食らう。特にクラシックアレンジなんだし、カノンなんだから先ずはカノンのメロディーを聴かせるのが普通だろうに。

初っ端から洋楽風の歌唱を聴かせるフィーチャリングVoの”Shanelle”は、「ビリーヴ」等の曲で有名な歌手のシェネルとは別人。シェネルじゃなくてシャネル。

フックをShanelleが歌い、ヴァースをThe Antidotesなる今回メインのMCを行うクルーがラップする。The Antidotesは3MCのようだけれど、特に目立った個性はなく普通にスキルのあるグループといった印象。本アルバムの紹介文によると、”西海岸の人気グループ”らしい。

カノンを引用したトラックはオリジナル曲要素が強く、歌メロもオリジナル。

イントロではあえてカノンの要素を控え、一番最後の終奏で始めて壮大にカノンを再現する構成が斬新。これは有象無象のクラシックアレンジ作品とは一味違うぞ…!

 

02. ◎Next One feat. Cee Nario(バッハ「G線上のアリア」)

一曲全体を通して強調されているスラップベースが印象的な曲。

フックはメロウな男性ヴォーカルのCee Narioなる人物。ヴァース前半はオリジナルのトラックで、後半からフックにかけて徐々にG線上のアリアの要素が強くなり、その後の間奏で原曲をほぼそのまま再現する構成も良い。オリジナルの部分のトラックがカッコいい。

フィーチャリングヴォーカルは洋楽ポップス風、ベースはファンク、ドラムはツービートでピアノはジャズ風のアレンジ、という事でクラシック×HIPHOP×ポップス×ファンク×ジャズの様相を呈しており、カオスな割に綺麗にまとまっている素晴らしい曲。

 

03. Growth feat. Cee Nario (ドヴォルザーク「新世界より」)

第2楽章を大胆にアドリブ風のリズムにアレンジ。他の曲もそうだけど、執拗に偶数拍と裏箔を強調したリズムをひたすら繰り返す。

でも「家路」の印象が強いこの曲をこんなオシャレ風にアレンジされてもちょっとやりすぎというか興ざめ感あり。

とはいえ、黒人音楽の要素を取り入れていると言われる「新世界より」をこういった形でアレンジするのはある意味原曲の趣旨に沿っている、と言える?かも??

 

04. ◎Jupiter feat. Cee Nario (ホルスト「ジュピター」)

リズムパターン・ベース・ピアノ・ストリングスによる、いつもの楽器隊にアコギを加えたトラック。アルバム全体を通してベースの音が結構強調されているのが特徴的。

木星のメロディとは全く異なるサビメロに、木星を一部ポップス風にアレンジしたストリングスが絡み合うサビが泣ける。歌い手はみんな外国人だけど、トラックは完全にメジャー系邦楽HIPHOP。

 

05. Any Minute Now feat. Shanelle (チャイコフスキー「弦楽セレナーデ」)

弦楽セレナーデも明るめにアレンジ。Shanelleが歌う曲は程良く洋楽ポップス感が加わり、Sweetbox好きにもおススメできる雰囲気。この曲もスウィングしまくりのベースラインがかっこいい。しつこいくらいブラックなリズム。

 

06. From Far feat. Cee Nario (プッチーニ「トゥーランドット」)

アリアの引用だからか、初めて原曲の旋律をフックで使用する曲。とはいえそのまま歌うのではなくアレンジは加わっている。

多少の毛色の違いはあるものの、トラックがワンパターン過ぎて流石に飽きてくる。明るい曲ばかりなのもちょっと。いい加減1曲くらい暗い曲とか欲しい。

 

07. ◎Summer (ヴィヴァルディ《四季》より「夏」)

一辺倒の曲調にうんざりしてきた頃に、ちょうどドープなトラックのインスト。ブレイクビーツ風のドラムに、浮遊感のあるシンセ音が重なるダンスミュージック風の曲。この曲に古めかしいキーボードの音色を加える辺りがまたオシャレ。

「夏」第3楽章の後半部分を引用してこんな曲調にするセンスも素敵。始め聴いた時はどこに「夏」を使っているのか全然解らなかった。

 

08.◎ I’m Home feat. Cee Nario (ショパン「ノクターン」)

再びいつもの雰囲気に戻るが、フックにラップも交じっての掛け合いが新鮮。とにかくノリが良い。山本領平みたいに優しくソウルフルなCee Narioの歌唱も良い。

 

09. Boom Boom Clap (バッハ・グノー「アヴェ・マリア」)

ここからは最後までゲストヴォーカル抜きでラップのみ。HIPHOP要素が強くなり、ちょっと流れが変わる。

アヴェ・マリアもおかまいなしにノリに乗って”Boom Boom Clap”。ただピアノが徹底的にジャジーなアドリブ風の演奏を弾き続けているおかげで全く下品にならずオシャレ。

 

10. ◎Classic Flow (ヘンデル「サラバンド」)

サラバンドの美しいストリングスに乗せて勢い良くラップする曲。弦楽器が強調されている上、ようやくド短調の曲が来た事もあり、流れ的にもアガル。

 

11. The Real(バッハ「主よ、人の望みの喜びよ」)

原曲を大胆にアレンジしたトラックは、もはやほとんどオリジナル。しかし今までと変わり映えしない曲調には正直そろそろうんざり。

 

12. Light Of The Moon (ドビュッシー「月の光」)

ピアノ独奏&雨の効果音によるインスト。本作品の曲調ならドビュッシーも上手く料理できたと思うのだけど、インストに逃げずに歌曲にアレンジして欲しかった…。

 

総評

ワンパターンではあるけれどクオリティが高く、キャッチーでお洒落なトラックに、本格派の外国人ラップ&ヴォーカルと馴染みのあるクラシックメロディが乗っかる高品質のクラシックアレンジ作品。

選曲がベタ過ぎるのは気になるけれど、クラシック曲をそのまま使用するような引用ではなく、リズムを変化させた上でオリジナル曲の中に程よく混ぜる塩梅が丁度よいです。クラシックとジャズとメジャー系邦楽HIPHOPと洋楽の良いとこ取りをしたような作風。

ジャズ風のアドリブ感を効かせに効かせた一辺倒のアレンジは飽きも来ますが、CD一枚分聴かせるだけの魅力はあります。良く言えば様式美。グルーヴ入門にも良さそう。全曲通して聴き終わった頃には、嫌でもお洒落なリズムのアドリブやアレンジが身に染み付いている、はず?

総じて、クラシックをサンプリングしたHIPHOP作品としては、RapsodyとSymphobiaに並んでおススメできるアルバム。Sweetboxを好きな人が次に聴く作品としてもおススメ。

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syro:生まれも育ちも長崎市です。二児の子育て中。 趣味はインドア全般。音楽以外ではスマホ収集とトライエースと三島由紀夫と遠藤周作が特に好きです。 好きな作曲家はメンデルスゾーンと葉山拓亮。

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