テノール歌唱&クラシカルサウンドと、ポップな歌唱&ポップなサウンドを融合させた“ポップオペラ”を提唱するクラシカル・クロスオーヴァー歌手、藤澤ノリマサの2ndアルバム「Appassionato〜情熱の歌〜」。
2009年リリース。
前回までのあらすじはこちら。
曲目
“青色◎”は特によかった曲。
1. ◎Prayer -Album Ver- (バッハ:カンタータ 第147番 BWV147 より「主よ 人の望みの喜びよ」)
2. ◎ Domani ~明日をつかまえて~ (ヘンデル:歌劇「リナルド」より アルミレーナのアリア「私を泣かせてください」)
3. ◎貴方を求めて (ルーチョ・ダッラ:カルーゾ)
4. 孤独の欠片 ~ラ・クンパルシータ~ (ヘラルド・マトス・ロドリゲス:ラ・クンパルシータ)
5. 赤い砂漠 (ラフマニノフ:14の歌曲 作品34 第14番 ヴォカリーズ 嬰ハ短調)
6. Ti amo 永久に (オリジナルポップオペラ)
7. 愛のモンタージュ (ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 作品27の2「月光」)
8. 地図のない道 ~AVE MARIA~ (カッチーニ:アヴェ・マリア)
9. ◎if ~白鳥の湖~ (チャイコフスキー:白鳥の湖 作品20 第2幕 「情景」)
10. さよならがくれたもの (ショパン:幻想即興曲 嬰ハ短調 作品66)
11. ◎夜明けのヴィーナス (ジョセフ・ラカチェ:アマポーラ)
12. ◎Go My Way (チャイコフスキー:序曲「1812年」変ホ長調 作品49)
13. 温もり (ショパン:練習曲 作品10 第3番 ホ長調 「別れの曲」)
14. 愛の奇跡 (オリジナルポップオペラ)
15. 銀の雨 (オリジナルポップオペラ) <ボーナストラック>
1. ◎Prayer -Album Ver- (バッハ:カンタータ 第147番 BWV147 より「主よ 人の望みの喜びよ」)
オルガンで厳かに原曲を再現するイントロから登場する、ポップな藤澤ノリマサのヴォーカルによるオリジナルのAメロ。…。え?9/8拍子??
確かにバッハの原曲も9/8拍子だけど、原曲のメロディは冒頭が12拍で一段落するようなメロディなので、あまり9/8拍子感が無く6/8拍子や12/8拍子っぽく聞こえる曲。
ところが、この「Player」オリジナルのAメロBメロはガチで9拍のメロディ。1曲全体を通して9/8拍子をキープしているはずなのに、バッハの原曲を6/8拍子や12/8拍子のつもりで聴いていた人にとっては変拍子に聞こえてしまう怪曲。そもそもAメロが9/8拍子の曲なんて今まで一曲(闇のダンスサイト)くらいしか聴いたことない気がするぞ。
上記の謎マジックに加えて、いつものようにサビで歌い方を変える唱法も相まって、サビで突然別の曲に変わるような印象を受けてしまう謎マジック曲。同じ歌手で同じリズムで調すら変わっていない(ヘ長調)はずなのに。なんじゃこりゃ??
この一見普通のようでアヴァンギャルドな作曲をしたのは誰だ!と思ったら藤澤ノリマサ本人。確信犯?それとも天然??
2. ◎Domani ~明日をつかまえて~ (ヘンデル:歌劇「リナルド」より アルミレーナのアリア「私を泣かせてください」)
王道オーケストラアレンジでヘンデルのアリアをクロスオーヴァー。ピアノだけの冒頭から、徐々にストリングスや打楽器も登場し、自然と盛り上がる。独自のメロディも交え違和感なく盛り上げる作曲は、倖田來未のカバーよりもポップで良い出来。
突然オペラチックになる歌い方も前作は違和感が凄いビックリ効果みたいだったけど、本作では曲の盛り上がりに合わせて自然と変わるような感じになっており、イロモノから脱却した感がある。
それにしても、前作で特徴的だったアニソン風打ち込みアレンジがまだ出てこない。やめちゃったの??
3. ◎貴方を求めて (ルーチョ・ダッラ:カルーゾ)
有名なテノール歌手エンリコ・カルーゾをテーマにした曲を藤澤ノリマサがカバー。ちょっと途中で早口になる所がフォークソングみたいに聞こえ、フラメンコギターとフォークソング風の歌唱がとても合っている。
そして1番が終わったところでオペラ歌唱にスイッチし、都会風でオシャレな打ち込みアレンジが登場。ダンスミュージック風のアレンジも前作に比べると大人しいな…。でもダサ過ぎず程良い感じ。間奏の妖しいマイナー合唱パートもアクセントになっている。
これは、前作よりも進化しているぞ…!
4. 孤独の欠片 ~ラ・クンパルシータ~ (ヘラルド・マトス・ロドリゲス:ラ・クンパルシータ)
タンゴの有名曲をセクシーにカバー。バンドネオンやストリングスも登場し本格的な歌ものタンゴになっている。この曲では空気を読んで雄々しいオペラ唱法は自重気味。最後まで不通に歌う。新境地のつもりだろうけど、やっぱり途中で思いっきり雄々しくなってくれないと何だか物足りない。
って自分で書いててなんだけど、普通に歌うのが”新境地”とはこれ如何に??
5. 赤い砂漠 (ラフマニノフ:14の歌曲 作品34 第14番 ヴォカリーズ 嬰ハ短調)
前曲の流れを引き継ぎ、ラテン調アレンジのダンスミュージック。原曲からかけ離れた大胆なアレンジ。調べてみると、このラフマニノフのヴォカリーズは編曲のバリエーションがとても多いらしく、この曲も藤澤ノリマサ流に思い切った独自のアレンジ。
6. Ti amo 永久に (オリジナルポップオペラ)
全2曲にやや似た曲調だけど、これはトルコ等中東寄りのオリエンタル風味。ここに来て前作にも無かった初めてのオリジナル曲。
ダサ過ぎず地味過ぎずの程良い塩梅。これまた前作に比べ自重気味の中野雄太のアレンジだけど、ストリングスの旋律や教会楽器の使い方はやっぱり一聴して彼と判る音。
7. 愛のモンタージュ (ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 作品27の2「月光」)
第1楽章のピアノをバックに、藤澤ノリマサがしっとりとオリジナルの旋律を歌う。徐々にストリングスと木管楽器が登場し、ちょっとバロック風味も漂うマイナーバラード。
前の曲でもチェンバロとかオルガンとかバロック音楽に多い楽器が出てきたので、なんとなくアレンジの雰囲気に共通点がある。アルバム全体を通して、多彩なアレンジだけれどきちんと流れがある。
8. 地図のない道 ~AVE MARIA~ (カッチーニ:アヴェ・マリア)
ここでも冒頭のオーボエが前曲とのつながり感を持たせている。
テノールで歌われるカッチーニのアヴェマリアは、女性歌手の歌唱に比べるとやはり地味だけれど、何だか新鮮。厳かなアレンジも雰囲気が出ている。
カッチーニのアヴェ・マリアと言えば、何と言ってもあの天から降りてくるような美しい下降のメロディが特徴的だけれど、あのメロディを歌メロの中に自然に溶け込ませてたり弦楽器に任せたりしているアレンジも、思い切っていて斬新。あそこを半端にテノールで歌い上げるよりも正解な気がする。
9. ◎if ~白鳥の湖~ (チャイコフスキー:白鳥の湖 作品20 第2幕 「情景」)
冒頭からハードなダンスビートが登場する、1stの雰囲気に近い派手なクラシカルダンス曲。前作ではダッチトランス寄りだったけれど、この曲はどちらかというとゴアトランスやハウス・EDM寄りの音。同じような曲調でも、前作に比べるとちょっとハードで洗練された音になった。
そしてやっぱりこの曲をクロスオーヴァーすると、展開部のメロディがとても劇的でカッコいい。展開部のメロディをどう扱うかで曲の良し悪しが決まると思う。
10. さよならがくれたもの (ショパン:幻想即興曲 嬰ハ短調 作品66)
ピアノ&ダンスミュージック&ストリングスの、前曲をマイルドにしたような曲調。
あの有名な冒頭の速弾きパートは影を潜め、サビやAメロにぼんやり面影が見える程度。有名な部分ではなく、穏やかなパートや他の部分に主にフォーカスした曲。引用の仕方が新鮮。
11. ◎夜明けのヴィーナス (ジョセフ・ラカチェ:アマポーラ)
女性歌手とのデュエット曲。曲調は引き続きポップな打ち込み&オーケストラ。原曲はアメリカで流行したポップス。ダサ過ぎない壮大なアレンジにドラマティックなメロディ。良い曲。
12. ◎Go My Way (チャイコフスキー:序曲「1812年」変ホ長調 作品49)
祝典序曲がウソのような、軽快なリズムのアップテンポポップス。しかも中間部から更にどんどん壮大に展開していく。この曲をここまでポップにするセンスに脱帽。アルバム中で一番好きな曲。
ちょっとフュージョン風なバンド編成のアレンジもカッコいい。このクオリティの演奏ができるなら、もう少しこんな曲調を増やしても良いんじゃ。
13. 温もり (ショパン:練習曲 作品10 第3番 ホ長調 「別れの曲」)
ピアノとストリングスでシンプルにカバーした別れの曲。有名な冒頭部分よりも、主題のラストに出てくる最もメロディアスな部分(ミ♭レドソシ♭~)が強調されており、そこが曲の始めにも出てくる。他の曲も含めて、どこを引用したらポップスとして成立するかがしっかり練られている。
14. 愛の奇跡 (オリジナルポップオペラ)
生音メインのオーケストラバラード。と思ったら2番からまたチャカポコチャカポコと謎シンセドラムが登場し、ストリングスアレンジも含めてJPOP感が強くなる。後半に向けてどんどん盛り上げていくアレンジは良いけど、一曲一曲のカロリーが凄い。たまにはストレートな生オーケストラの曲も聴きたい。
15. 銀の雨 (オリジナルポップオペラ) <ボーナストラック>
私が持っている通常盤のボーナストラック。なんだか昼ドラ感がある、メロディのインパクトが強いマイナーバラード。
総評
ぶっちゃけかなり迷走感とイロモノ感のあった1stに比べると、オリジナリティは残しつつもダサくない、地に足の着いたアレンジになっており洗練された印象です。ポップオペラ唱法もイロモノの域を脱しており、ようやく物にした感があります。
アレンジャーはあおい吉勇を中心とした前作のメンバーに加えて、シンプルな生音アレンジの弦一徹など新たな編曲家を起用しており、曲のバリエーションも増えています。
今作で新たに導入されたラテン系アレンジの曲は本人の歌声にも合っており良い意味で新境地。きっとファンの人にも好評なのではないでしょうか。“ポップオペラ”の名に恥じない、完成度の高いアルバム。
でも、前作の尖った作風が丸くなってしまったのは、何だかちょっとだけ寂しい。そんな余韻が残る、洗練されセルアウトしてしまったロックバンドの2ndのような2ndアルバム。
ロックバンドの例えに倣えば、次のアルバムは、例えばレミオロメンの3rdみたいな、さらにポップ化が進み普遍的な曲調になるも旧来のファンからは不評となるような作品・もしくはチャットモンチーの3rdのように原点回帰しつつも新たなステージへ進む、2ndよりもコアな作品のどちらかになると思われます。果たして次作はどうなる!?
↓3rdアルバムの記事も書きました!
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