クラシックカバーアルバム全曲レビュー

dulcet featuring KENSHU

今回紹介するのは、「HIPHOP×Classic」をコンセプトとしたアルバム、「dulcet(ダルシット) featuring KENSHU」

2008年リリース。

 

曲目

“◎青色”は特に気に入った曲。

1.◎Forest Of Piano(サティ「ジムノペディ」)
2.Eyes On The Prize(ホルスト「木星」)
3.◎Light To You(ドビュッシー「月の光」)
4.Expansion(パッヘルベル「カノン」)
5.◎Chillin’ everyday(バッハ「主よ人の望みの喜びよ」)
6.meiso
7.Graduation(エルガー「威風堂々」)
8.Under Sun
9.hugtime
10.Never Gonna Stop(シューマン「トロイメライ」)
11.Got Is Mine(バッハ「G線上のアリア」)

12.Espresso(ショパン「別れ」)

1.◎Forest Of Piano(サティ「ジムノペディ」)

ジムノペディのフレーズをループさせながら、ゆっくりと展開するブレイクビーツ風のテクノインスト。ジムノペディ×アンビエントテクノは誰でも思いつくけれど、そこに強めのリズムを利かせる事で独特の雰囲気を作り出している。今まで聴いた色んなジムノペディアレンジの中でも一番好きかも。

Q;indivi同様、購入前は正直あまり期待していなかったダルシット。これは良いぞ…!

2.Eyes On The Prize(ホルスト「木星」)

4拍子にした木星のフレーズをピアノでループさせながら、本格派の外国人トリオがラップする曲。

ラップがガチな割にトラックが毒にも薬にもならない安パイな出来で違和感が凄い。さっきの一工夫あったアレンジはどこへやら。

MCはエミネムを丸くしたような人が一人と、さらにマイルドなラップをする男性が一人、女性が一人。「Natural Habits」というアメリカのヒップホップクルーらしい。多分普通に上手いのだけれど、きっとこのスキルを持っているならこのトラックがいかに自分たちに合わないかも解るのではないだろうか。

良かった事といえば、木星をピアノで弾くと和風の響きがする事が分かったくらい。

3.◎Light To You(ドビュッシー「月の光」)

月の光に土着的なパーカッションを混ぜたインスト。中盤から曲調が変化し、月の光の一部のフレーズをループさせたテクノ風インストとなる。

めちゃくちゃカッコいいじゃないか!数多のアーティストが有名だからと言って手を出してはポップに消化しきれず玉砕しているドビュッシーを、掴み所のない雰囲気は残したまま見事にポップにアレンジしている。

2曲目では単調の極みだった打楽器も、凝ったリズムとバリエーションで月の光を彩っている。ゴチャゴチャ重ね過ぎない音作りも合っている。今まで聴いたドビュッシーの中で一番好き。

4.Expansion(パッヘルベル「カノン」)

時代遅れなオシャレピアノアレンジと安っぽいシンセストリングスでカノンをループさせるラップ曲。なぜラップが入るとこうなるんだ…。

カノンじゃないパートの部分はメロウなソウル風のアレンジで悪くないのに、カノンが入ってくると途端にショボくなる。クラシック×ヒップホップがコンセプトのはずなのに、クラシックとヒップホップが混ざる部分が一番ショボいのは何故なんだ…。

なぜか終盤でEarth, Wind & Fireの「Brazilian Rhyme」のサビがカノンに重ねて引用されるけれど、それが面白いかというと特に…。

5.◎Chillin’ everyday(バッハ「主よ人の望みの喜びよ」)

3連符を連発する原曲に16分音符のシンセドラムを合わせる事で不思議なリズムを作り出している曲。アイディア1発のシンプルなアレンジで聴かせるインスト。面白いじゃないか!なぜそれを歌モノでやらないんだ…。

6.meiso

オリジナルの2分弱のインスト。

7.Graduation(エルガー「威風堂々」)

冒頭の7秒でもう聴く気を無くしてしまう単調なサンプリングラップ曲。ここまで工夫のないトラックも珍しい。

トラックに聴きどころが無いので今度はラップに耳を傾けてみようかとなるのだけれど、CDには和訳はおろか歌詞カードすらない。クレジットを見ると、リリックもゲストアーティストの「Natural Habits」が作っている様子。きちんと韻も踏んでいるしそれなりのライミングはしていそうなのに。なんで載せてあげないんだ…。

8.Under Sun

シンプルなピアノとリズムのインスト。この曲調で5分半もされると、完全にBGM仕様。多分有名なピアノ曲をサンプリングしているのだと思うけど、すいません何の曲か分かりません。ブックレットには各曲の引用元も書いていない。HIPHOP界では良くある事だけど…。

歌詞カードもない、引用クレジットもない。じっくり聴かせる気がないのだろうか。このCDをこんなにじっくり聴いているのは世界で自分だけなのじゃないだろうか、と不安になってくる。

 

9.hugtime

2分弱のインスト。都会的なジャズ&ソウル風。

10.Never Gonna Stop(シューマン「トロイメライ」)

女性MCをフィーチャーした曲。どの曲もそうだけど、終始ラップを詰め込むスタイルで、フックでメロディを歌うとかはしない。

せっかく隙間の多いオシャレ寄りのアレンジなんだから、もうちょっとソウルフルに歌うとか、ヴォーカルも隙間を作るとかすればアリシア・キーズみたいないい感じの雰囲気になりそうなのに。

11.Got Is Mine(バッハ「G線上のアリア」)

やっぱり出てきたG線上のアリア。sweetboxの”Everything’s Gonna Be Alright”をインストにしたうえに更に単調にしたような雰囲気のインスト。

12.Espresso(ショパン「別れ」)

シンプルなピアノとR&B風リズムで締めるインスト。

 

総評

クラシック×ヒップホップを謳っておきながら、歌モノはわずか4曲。と思いきや、実はインスト曲こそが本命の12曲入りアルバム。

ゲストラッパーへの配慮なのか何なのか、ラップ曲はことごとくシンプルであっさりしたトラック。ラップがアングラ系の雰囲気を漂わせているのに選曲は穏やかな曲ばかりなのもちょっと。ベタなピアノ曲で日本人受けを狙うにしても、ドヴォルザークのユーモレスク7番とかもうちょっとドープな雰囲気を作れる選曲があったのでは。

作りこむ気もビートを効かせる気もアングラな雰囲気を出す気もパーティ感を出す気もないトラックにガチの外国人ラップを乗せるスタイルはある意味新鮮でオンリーワン。sweetboxはちょっとスウィーツ過ぎる、という人や色モノHIPHOPマニアにはお勧めできそう。あと美容室のBGMとかにも良さそうです。

個人的には前半のインスト3曲で十分元は取れたので満足な1枚。

ABOUT ME
syro
1984年生まれ。生まれも育ちも長崎市です。 2人の子育てが大変なので、夜中にちまちま記事を書き通勤中と昼休みに曲を聴く日々。 趣味はインドア全般。音楽以外では辛麺と洗濯とトライエースと三島由紀夫と遠藤周作が特に好きです。 好きな作曲家はメンデルスゾーンと葉山拓亮。