クラシックカバーアルバム全曲レビュー

天才おばかクラシック その1

ソニーミュージックの子ども向け部門”KIDSTONE”よりリリースされたCD、「天才おばかクラシック その1」

有名なクラシック曲を子ども向けソングにアレンジしたアルバムです。

 

2017年リリース。今のところ「その2」は発表されていません。

 

曲目

“青色◎”は特によかった曲。

1.◎おてあげカルメン / ビゼー:カルメン組曲より「前奏曲」
2.ダッコ行進曲 / モーツァルト:トルコ行進曲
3.ホントに言えない / モーツァルト:アイネ・クライネ・ナハトムジーク
4.小さな鼻から牛乳 /バッハ:トッカータとフーガ
5.◎0歳の景色 / パッヘルベル:カノン
6.エリンギのために / ベートーヴェン:エリーゼのために
7.◎じゅげむげーむ / ベートーヴェン:運命
8.ナンバーワン大集合! / チャイコフスキー:くるみ割り人形より「行進曲」
9.◎桜色の黒板 / メンデルスゾーン:結婚行進曲

 

1.◎おてあげカルメン / ビゼー:カルメン組曲より「前奏曲」

シンセストリングスでカルメンのプレリュードをサンプリングしながら、歌のお姉さんたちが子連れ家族達に対してコール&レスポンスをする、ライブの1曲目といった感じの曲。歌詞はややシュール。

子ども向けソングらしく中盤でガラッと曲調を変え、原曲の後半部分もしっかり再現。ちゃんとソナタ形式的。また急→緩→急のイタリア式序曲的な展開でもあり、”クラシックの1曲目”(プレリュードないしオーバーチュア)のお手本を、しっかりと”子ども向け音楽作品の1曲目”として落とし込んでいる。この選曲及び曲順は決して適当では無い。

 

2.ダッコ行進曲 / モーツァルト:トルコ行進曲

トルコ行進曲に様々な打楽器を織り交ぜながら、親子のやり取りを歌う曲。多彩な打楽器を混ぜる事で曲を彩ると共に、原曲よりも「行進曲感」を出せている。ちゃんとマーチングドラムも登場する。

親子のやり取りは、娘:「歩きたくない」母:「歩きなさい」というもの。『行進曲』の持つ意味や役割を子どもに解りやすく咀嚼し解釈し直している。案外勉強になるぞこのCD。

 

3.ホントに言えない / モーツァルト:アイネ・クライネ・ナハトムジーク

子どもの頃に誰しも歌った「ばーか あーほ どじまぬけ」の替え歌。原曲?はその後もオタンコナスなど罵声をひたすら浴びせ続ける物だけれど、この曲は「でも好き。なんでだろ」と続き、イジワルは好意の裏返しであるという心理やアンビバレンスを考えさせる歌詞になっている。単なる罵声に終始していた替え歌を救済している曲。

第1楽章の後半のメロディもしっかり使用している。巷に良くある「クラシックの有名な所1分ずつ収録したCD」なんかよりもよっぽど良い。

 

4.小さな鼻から牛乳 /バッハ:トッカータとフーガ


嘉門達夫の「鼻から牛乳」をベースにしているが、アレンジはあからさまにPPAPのパロディ。カウベルとかやっぱりローランドのTR-808を使用しているのだろうか。

歌詞もシュール度高く大人でもクスリとできる出来。

うちの4歳の娘も何処で聞いてきたのか、何故か知っている「鼻から牛乳」のフレーズ。もしかして保育園の誰かがこの曲を聴いているのだろうか。

 

5.◎0歳の景色 / パッヘルベル:カノン


カノンをバックに、しっかりと作られたオリジナルの歌メロに乗せて生命の誕生を祝う曲。カノンは童謡に良く合う。

今までふざけてばかりだった歌のお姉さんも本気の歌唱を聴かせてくれる。さすがに上手い。アレンジも良くできており、普通に感動してしまった。

ちなみに歌詞は9曲目とリンクしているものと思われる。

 

6.エリンギのために / ベートーヴェン:エリーゼのために

まさかのHIPHOP。本格的なR&Bリズムとエレクトロニクスアレンジを施したトラックは結構しっかりつくられている。原曲の展開部を大胆にアレンジしてフックにしている構成も面白い。ぶっちゃけNasの「I Can」より聴いてて楽しい。

エリーゼのために/Nas「I CAN」 アメリカのヒップホップアーティストNas(ナズ)。 2002年リリースのアルバム"GOD'S SON"収録の「I CAN」...

 

7.◎じゅげむげーむ / ベートーヴェン:運命

ただの運命のアレンジ、とみせかけて、これは映画「サタデーナイトフィーバー」でも使用されたクラシカル・ファンクの金字塔、ウォルター・マーフィーの「運命’76」のパロディではないか!所々に「運命’76」のフレーズが登場する。

アレンジもディスコチック。ただのおふざけ曲ではない。

交響曲第5番「運命」/ロビン・シック「When I Get You Alone」アメリカのミュージシャン、ロビン・シック(Robin Thicke)。デビューシングル「When I Get You Alone」で、ベ...

 

8.ナンバーワン大集合! / チャイコフスキー:くるみ割り人形より「行進曲」

原曲を忠実に再現した序盤から突然ハードロック調に展開し、やがて裏打ち疾走し出す曲。ラストは元の曲調に戻り、「紆余曲折を経て最後は初めに戻る」というクラシックの基本的展開を抑えている。

くるみ割り人形の「行進曲」に混声合唱を混ぜるという発想やこのギターアレンジは、おそらくクラシカロイドの影響じゃないだろうか。

クラシカロイド MUSIK Collection Vol.1クラシックを大掛かりにフィーチャーしたNHKアニメ"クラシカロイド"。作中歌として多くのクラシックカバー曲が使用されます。そんな曲たちを...

 

9.◎桜色の黒板 / メンデルスゾーン:結婚行進曲

結婚行進曲の有名なメロディから始まり、突然のタイミングで全く違うメロディに展開してオリジナルになって行く冒頭部がとても面白い。

 

子ども向けソング集のラストソングに、卒業式(卒園式)ではなく小学校の入学式をシチュエーションに持ってくるセンスも素敵。

しかも引用しているのが”結婚行進曲”。冒頭ともう一か所、中盤にもう一度結婚行進曲のフレーズが流れるのだけれど、そこを境目に、それまで子ども目線だった歌詞から、後半は俯瞰的な目線に変わる。

歌詞は普通に読めば単なる「子どもの入学式」なのだけれど、「子どもにとって人生の節目である入学式に、両親は自分たちの結婚式の事を思い出す」というシチュエーションにも取れるし、「結婚式の日に自分が子どもだった頃を思い出した」という状況と解釈する事もできる。

中間部の結婚行進曲の引用をそのまんま”結婚式があった”と解釈すれば、「1番:両親が子どもだった時の入学式」⇒「中間部:両親の結婚」⇒「2番:両親の子どもの入学式」といつの間にか時間が進み場面転換している、とも考えられる。これが一番しっくり来るなぁ。

 

総評

子ども向けと侮るなかれ。ちゃんと聴くと意外と面白い。きっともっと深く掘り下げられるネタが随所に仕込まれているものと思われます。

クラシックの有名所を楽しく解りやすくアレンジしていながらも、しっかりと原曲のメロディを後半まで再現しています。

歌詞は子ども向けシュールギャグが多めですが、随所に大人向けのネタも仕込まれています。また所々に挿入される大真面目な歌がサザンオールスターズの「いとしのエリー」のような”ギャップ効果”を生み出しており不覚にも感動してしまいます。

 

子どもにガチのクラシックを聴かせても退屈されてしまうし、子どもに初めて聴かせるクラシックとしてはアリなのではないでしょうか。歌詞がふざけ気味なのが教育上気になりますが…。

ABOUT ME
syro
1984年生まれ。生まれも育ちも長崎市です。 2人の子育てが大変なので、夜中にちまちま記事を書き通勤中と昼休みに曲を聴く日々。 趣味はインドア全般。音楽以外では辛麺と洗濯とトライエースと三島由紀夫と遠藤周作が特に好きです。 好きな作曲家はメンデルスゾーンと葉山拓亮。

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