ベートーヴェン

エリーゼのために/Nas「I CAN」

 

アメリカのヒップホップアーティストNas(ナズ)

2002年リリースのアルバム”GOD’S SON”収録の「I CAN」でベートーヴェンのエリーゼのためにをサンプリングしています。

 

こっちは個人的に気に入っている、同アルバム収録の「Made You Look」。カッコいいトラック。

 

 

Nasの「I CAN」はエリーゼのためにのフレーズをサンプリングしており、歌詞はアングラ社会や黒人差別などを例えに出しながら、子どもたちに「なりたいものがあるなら 勉強するんだ 何にでもなれる」と諭すような内容です。

 

「I CAN」は世界的にトップレベルのラッパーであるNasの中でも有名な代表曲の一つであり、Sweetboxの「Everything’s gonna be alright(G線上のアリアをサンプリング)」と並んで、数多のクラシック×HIPHOPソングの中でも重要なアンセムと言えます。

 

「I CAN」の”エリーゼのために”に込められた意味

ベートーヴェンは身分が上の貴族と親密に付き合うことが多く、好意を寄せる女性に対して曲を作っていました。”エリーゼのために”もその内の1曲と言われています。

 

しかし当時は音楽家が身分の高い貴族と結婚する事はできず、ベートーヴェンも貴族の女性との結婚は叶わぬ社会でした。

 

実力ではなく階級によって人間の優劣が決められてしまう社会。「エリーゼのために」を始めとしたベートーヴェンの”ラブソング”は、そんな社会に対する抵抗の象徴でもあります

 

有名な「歓喜の歌」の歌詞も、

世の習わしの厳しく分け隔てたものを  汝の力は再び結び合わせる その優しき翼を休めるところ  すべての人々は兄妹になる。 

と階級社会、差別社会へのアンチテーゼと言える内容です。

 

 

という事でNasの「I CAN」はエリーゼのためにをサンプリングする事で、現在なおも続く出生や学歴などにより差別される社会に対する抵抗を表現していると言えます。

 

 

子どもにフックを歌わせることで曲によりメッセージ性を持たせようとする意図が見えます。が、エリーゼのためにをサンプリングした同曲のトラックはあまりにもメランコリックすぎます。加えて歌詞の表現も露悪的です。

将来を担う子どもたちに歌わせたいポジティヴなメッセージソングであるなら、もっと明るい選曲でも良いと思うし、なんなら長調に転調した上でサンプリングすれば良いのです。「エリーゼのために」は一部明るい曲調のパートもあるので、希望を歌うフックでは別の箇所をサンプリングする方法もあります。

 

 

ベートーヴェンは”第九”で明るく勇ましい希望に満ちた旋律に乗せて民衆とともに「明るい未来はきっと来る!」とメッセージを発信する作品を作りました。

 

例えば中島みゆきの「ファイト!」も「I CAN」と同様、性別や出生、学歴などで差別される人たちへ「それでも負けるな!」と応援する歌ですが、悲惨な曲背景をあえて感じさせない脳天気なくらい明るい曲に仕立て上げています。素晴らしい応援歌です。

 

 

一方暗い曲に乗せて、将来を担う子どもたちに対して悲惨な現実を次々とまくしたてる「I CAN」はどうでしょう。まるで泣き上戸のおじさんが管を巻いているようです。これが”DOPE”なのでしょうか?

陰鬱なトラックに乗せて子どもに「何にでもなれる」と歌わせる様はかえって皮肉にも聴こえます。もしかして皮肉なのでしょうか。

 

アングラ系ヒップホップなんてそんなもんなのかもしれませんが、クラシックを意図的に引用している以上クラシックと比べざるを得ません。

「おれはこんな方法でしか表現できない不器用な男なのさ」的な感じでしょうか。そんなのCOOLじゃない!

 

 

強いメッセージ性が心に刺さる、と取るか悪趣味と取るか、それともシンプルに曲を楽しむか。皆さんはいかがでしょうか。

Nasは他にもクラシックをサンプリングした曲をリリースしています。以下の記事で紹介しているので是非ご覧ください。

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1984年生まれ。生まれも育ちも長崎市です。 2人の子育てが大変なので、夜中にちまちま記事を書き通勤中と昼休みに曲を聴く日々。 趣味はインドア全般。音楽以外では辛麺と洗濯とトライエースと三島由紀夫と遠藤周作が特に好きです。 好きな作曲家はメンデルスゾーンと葉山拓亮。

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