バッハ

チェンバロ協奏曲 第1番/サカナクション『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』

サカナクションの2011年リリースのシングル『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。


目を引く曲タイトルの影響もあり、サカナクションの知名度を1段上げるヒット曲となりました。

題名の通り、2番の後の間奏でバッハのチェンバロ協奏曲 第1番」第1楽章のメロディが出てきます。

原曲「チェンバロ協奏曲」の視聴はこちら。

引用部分は4:20からのチェンバロソロ。サカナクションの曲ではキーボードで演奏されます。

 

チェンバロ曲を引用しておきながらチェンバロ音ではなくピアノ音を使用するというのも「なんでやねん」という感じですが、この記事を読めばその理由も解ります。

 

「曲タイトルはなんかかっこいいけど、以外と地味で大した曲じゃないじゃん」と思った方もいるかと思いますが、なかなかどうして奥深い曲なのです。”ミニマルテクノロック”の一言で済ませるにはモッタイナイ。

 

そんな『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』の魅力をこれから紹介していきます。

 

 

 

踊れるロック

日本ではTRICERATOPSFranz Ferdinand辺りから流行りだした”踊れるロック”。

サカナクションもいわゆる”踊れるロック”の括りに入れられる事が多く、8ビートのクラブミュージックにバンドサウンドを合わせたような曲調がメインです。個人的には「これがロック??」という感じですがロックの範疇なのでしょうか?

 

ライブの演出や音響にも定評のあるバンドだそうです。クラブ的なノリができるため、きっとライブは楽しいことでしょう。

 

代表曲の一つ「アルクアラウンド」。

ちょっとYMO風です。凝ったプロモーションビデオや複数の解釈を持たせる曲名など、随所に製作者の拘りが感じられます。

 

 

 

チェンバロ曲のススメ

チェンバロはまだピアノが無かった時代である”バロック時代”を象徴する楽器の一つであり、バロック音楽といえばバッハ、バロック音楽といえばチェンバロ、と言っても過言ではありません。

バッハのチェンバロ曲で有名なのはゴルトベルク変奏曲、インヴェンションとシンフォニア、平均律クラヴィーア曲集などですが、いずれもチェンバロ1つでの演奏です。メロディもシンプルで美しいですが、言い方を変えれば地味でやや退屈してしまいがちな曲でもあります。

 

作曲や楽器をする人からすればバイブル的なものらしいのですが、個人的には比較的派手なゴルトベルク変奏曲以外は続けて聴くのは厳しい…といった印象です。

 

上記のチェンバロ曲集に比べると知名度では一段劣るチェンバロ協奏曲ですが、これが名曲なのです。チェンバロ入門に持ってこいです。よくぞこの曲にクローズアップしてくれました。

 

 

『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』が好きな方は、是非原曲のチェンバロ協奏曲を聴いてみて下さい。

“チェンバロ協奏曲”というのは、いわばチェンバロがボーカル(主役)のバンドのようなものです。主役をメインに聴けば良いため歌モノに近い聴き方ができます。

 

 

 

バッハ×サカナクション

原曲のチェンバロ協奏曲では、引用部分の静かなチェンバロソロの後、弦楽器がなだれ込むように再登場します。静寂の後に一気にアンサンブルが登場する様は、さながら『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』の2番の後の展開のようです。

 

というのも『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』は2番が終わった後、バンドサウンドのキメ(ダダダダン♪)→ブレイク(静寂)からラストのサビに突入します。

シンプルな曲構成である『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』でも一番変化がある部分であり、曲一番の見せ場です。静寂から一気に爆発するようにサビが始まる様はカタルシスがあり、ライブでも一番”アガる”場面でしょう。

 

“一旦ブレイクしてからドーンと盛り上げる”手法はダンスミュージックでは定石ですが、300年前から同様の手法が用いられていたのです。

つまり『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』は300年前にバッハが用いた手法を現代ポップスで再現している曲である、と言えます。

 

 

また『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』は超シンプルな曲構成でもあります。Aメロはほとんど「ミ♭ドド」の繰り返しです。サビも「ミ♭・ファ・ソ・ラ♭」の4音だけで構成されています。しかもほぼ同じ2小節の繰り返し。

そんなシンプルなメロディを、1番と2番でアレンジを変えたりしながら飽きずに聴かせます。一つのメロディをアレンジしながら何度も繰り返すミニマル的手法は、先程紹介したバッハのゴルトベルク変奏曲に共通する所があります。また同じメロディやフレーズ・リズムを繰り返す事によって聴き手のテンションを挙げていくやり方はクラブミュージック的です。

 

一見「バッハってタイトルについてるけど曲は全然バッハっぽくないじゃん…。」と思いがちな『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』ですが、音楽面でもしっかりとバッハとダンスロックを融合させた曲になっているのです。

それを踏まえれば、チェンバロ曲の引用なのにピアノ音を用いているのも納得です。要はバッハの現代版解釈なのです。

 

 

歌詞の解釈

歌詞は”バッハの旋律を夜に聴いたせいで元カノの事を思い出しちゃったよ”という内容のようです。

チェンバロ協奏曲を引用しているのに、歌詞には「壁が鳴りしびれるチェロ」と表現されています。

 

チェンバロ協奏曲を聴いてチェロの音色を思い出す(もしくはバッハのチェロ曲を聴いてチェンバロ協奏曲を思いだす?)というシチュエーションが想像できます。バッハのチェロ曲と言えば無伴奏チェロ組曲が有名です。

 

引用曲はチェンバロ曲なのに、歌詞に出てくる楽器はチェロという事を理解した上で曲を聴くと、より歌詞のイメージが具体的になります。

 

解釈①:元カノはバッハが大好きで、少なくとも2曲以上のバッハの曲が思い出に残っているくらい良く聴いていた

 

解釈②バッハのチェンバロ協奏曲を聴いて無伴奏チェロ組曲を思い出すくらい主人公がバッハに造詣が深い

 

解釈③主人公が夜に聴いたのはチェンバロ協奏曲だけど、強く思い出に残っているのはバッハのチェロ曲。きっと何かバッハのチェロ曲が関わる印象的な出来事があったんだろうなぁ

 

解釈④主人公にとってはチェンバロ協奏曲の中に登場するチェロの音色がとても印象的だった。もしくは主人公の家は低音がとても良く出るオーディオ環境だった(チェンバロ協奏曲のチェロの音で「壁が鳴りしびれる」くらいの)

 

解釈⑤「バッハの”曲”」ではなく「バッハの”旋律”」というワードが使われている理由を考えると、もしかするとチェンバロ協奏曲と同様の旋律がバッハのチェロ曲のどこかにあるのかもしれません。膨大な量の作曲をしたバッハなので、十分ありえる話です。とすると、たまたま耳に入ってきたチェンバロ協奏曲の旋律を聴いて同じ旋律である思い出のチェロ曲を思い出した、という可能性もあります。同様の旋律が存在するのか私は解りませんし、探す気力もありませんが…

 

等など考えられます。

あまり深く考えずに<解釈④>のシチュエーションな気がしますが…。

 

という事で、引用曲の背景を知ることで曲の理解もより深まるわけです。

 

とことん『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』を褒めましたが、ベストアルバムの中ではさっぱり存在感が無くなってしまうくらい他の曲の方が良いです。

 

ABOUT ME
syro
1984年生まれ。生まれも育ちも長崎市です。 2人の子育てが大変なので、夜中にちまちま記事を書き通勤中と昼休みに曲を聴く日々。 趣味はインドア全般。音楽以外では辛麺と洗濯とトライエースと三島由紀夫と遠藤周作が特に好きです。 好きな作曲家はメンデルスゾーンと葉山拓亮。