クラシック音楽をサンプリングした楽曲を数多く発表している音楽ユニットsweetbox。
デビュー時からずっと作編曲を手掛けてきたGEOと、長い間ヴォーカルを務めたJADEが2007年に脱退し、作家も歌い手も別人になって制作されたアルバム、『Z21』。
日本人歌手の福原美穂とアンティグア出身のラッパー、ロジック・プライスをメインの歌い手に据えた作品。
2013年リリース。
※楽曲の引用元がブックレット等にクレジットされていないため、サンプリング元の楽曲は私が解ったもののみ記載しています。残りの引用元も解る方いたら教えてください!
01. #Z21 [ZEITGEIST21](R.シュトラウス:交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』)
02. NOTHING CAN KEEP ME FROM YOU(ドヴォルザーク:交響曲第9番『新世界より』)
03. ALL 4 LOVE [SKYFALL] feat.Asher
04. ◎EVERY ROSE feat.Asher(スメタナ:連作交響詩「わが祖国」より『モルダウ』)
05. BEAUTIFUL(ドビュッシー:月の光)
06. LIFE IS GOOD feat.Iriebox
07. ◎ALONE feat.Justin D.Nation(ラヴェル:ボレロ)
08. AASE’S DEATH feat.York(グリーグ:組曲「ペール・ギュント」より『オーゼの死』)
09. ◎CAROL OF THE BELLS(レオントヴィチ:キャロル・オブ・ザ・ベル)
10. MY UNDERSTATEMENT(ベートーヴェン:ピアノソナタ第14番『月光』)
11. ◎JUSTIFIED
01. #Z21 [ZEITGEIST21](R.シュトラウス:交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』)
原曲も出オチ感のあるツァラトゥストラはかく語りきを、まさしく出オチに使ってしまっている残念サンプリング曲。原曲も冒頭だけじゃなく、最初から最後まで聴きどころ満載なんだけどね…。
この1曲目を聴いた瞬間、元サウンドプロデューサーのGEOが好きだったリスナーは「GEOはクラシックをこんな使い方しない!こんなのsweetboxじゃない!」と憤慨してしまう事必至。
1stヴァースで原曲冒頭のフレーズをスライスして使用している所が一部ある。折角だからもっとこんな感じでクラシック曲のフレーズを沢山カットアップしてトラックを作ればGEOとの差別化もできるのに。
楽曲自体は当時の流行EDMという感じで、クラブ仕様の流行曲コンピにそのまま入ってそうなトラック。誤解を招きそうなので先に作品全体の感想を言っておくけれど、そんなに悪くない。
02. NOTHING CAN KEEP ME FROM YOU(ドヴォルザーク:交響曲第9番『新世界より』)
これも後半にとってつけたように新世界よりのフレーズがドドーンと登場するけれど、ヴァースの裏で地味に流れる管弦楽のトラック(何かこんな曲あったよなぁ…新世界よりじゃなくて…)がいい感じな出来。無闇に大ネタ使うよりこっちの方向性の方がオリジナリティあるんじゃ。
ちなみにフックはマーヴィン・ゲイの有名なモータウン曲”Ain’t No Mountain High Enough”のメロディを引用。
もう一つちなみに、本作品の作曲者としてクレジットされているTorsten Stenzelなる人物、オペラメタルの先駆者であるシンフォニックメタルバンドNIGHTWISHの初代ヴォーカルTarjaの楽曲を数多く手掛ける作曲者でもある。
03. ALL 4 LOVE [SKYFALL] feat.Asher
マンドリン(?)のトレモロリフで引っ張る哀愁バラード。映画の音楽とかっぽいけど…。
作曲表記を見る限り、どうやらメインでトラックを作る作家とクラシック要素を加える作家はそれぞれ別に存在しており分業制のような感じ?
ちなみにfeat.AsherというのはもちろんあのUsherとは別人のAsher Ottoという女性ヴォーカル。
04. EVERY ROSE feat.Asher(スメタナ:連作交響詩「わが祖国」より『モルダウ』)
クラシックの旋律に、女声を重ねたメロディアスでゆったりした歌メロを対旋律として合わせ、ポップとR&Bの中間のようなリズムを加える元祖sweetboxのような楽曲。
でもやっぱりモルダウのフレーズを中途半端に切り取りループさせるサンプリング手法や、テクノのようにシンセベースを強調したドープなヴァースのトラックは、元祖では絶対見られないオリジナリティ。これは従来ファンもそうでない人も納得の出来では。
05. BEAUTIFUL(ドビュッシー:月の光)
四つ打ちのトラックに合わせて月の光の譜割りと音型をアレンジしたイントロを聴いた瞬間、GEOのsweetboxが好きだったファンは「こんな(以下略」。
せっかく原曲の形を歪めるのなら、イントロとアウトロで引用するだけでなく、もっとポップスの部分と上手く融合させる手腕を見たかった。
ちなみにアウトロの「月の光」の使い方は乃木坂46の「逃げ水」っぽい。
06. LIFE IS GOOD feat.Iriebox
ゲストヴォーカルも曲調もAsian Dub Foundationっぽいレゲエ調の曲。
それなりに色んな曲調が集まった作品だけど、ベースやリズム・ヴォーカルの使い方がポップスというよりもクラブミュージックのそれ。
07. ◎ALONE feat.Justin D.Nation(ラヴェル:ボレロ)
OneRepublicみたいな、大仰さを抑えたオーケストラル・ミクスチャーロック。ストリングスとバンドサウンドとウッドベースのバランスが派手過ぎずちょうど良い。
しかしボレロの音形を大胆に改変(ry
08. AASE’S DEATH feat.York(グリーグ:組曲「ペール・ギュント」より『オーゼの死』)
思いっきり2000年代globeのようなトランス曲。ラップもマーク・パンサーっぽい。
オーゼの死を引用した悲壮感のあるスピリチュアルなトラックに「雨ニモマケズ」の朗読を合わせており、深みを感じさせる楽曲だけれど、歌詞カードには和訳はおろか英詞さえ掲載されていないので意図がさっぱり解らない。こういう曲を作るなら歌詞を乗せて欲しい。
09. ◎CAROL OF THE BELLS(レオントヴィチ:キャロル・オブ・ザ・ベル)
ウクライナ民謡から派生し、有名なクリスマス・キャロルとなった原曲をたっぷりと使用しミステリアスなシネマティック・ヒップホップに仕上げている。
いかにも讃美歌とは程遠い暗い雰囲気にしているけれど、やはり肝心の歌詞が解らないので楽曲の内容に踏み込めない。原曲の歌詞のままだと曲の雰囲気に合わないからアレンジしてそうなんだけど…。
日本人ヴォーカルを据えて、明らかに日本市場を意識した作品なんだから、歌詞はやっぱり載せてもらわないと…。
10. MY UNDERSTATEMENT(ベートーヴェン:ピアノソナタ第14番『月光』)
月光第1楽章の主題をシンセでループさせて中東風ダンサブルR&Bに仕上げた曲。なんか宇多田ヒカルの全米デビューアルバムに入ってそう。
11. ◎JUSTIFIED
シンプルなアコギをバックに爽やかに歌う、サーフミュージック調の曲。今までの楽曲の流れをぶったぎり、無理やりラストを締める小曲。ここまで加工音とビートとクラシカルなメロディの洪水に流されてきた後なので、生音に癒される。
総評
クラシック原曲の音型を尊重し、一繋ぎのフレーズと歌メロとの調和を大事にしながら丁寧にフックまで盛り上げていく元祖sweetboxとは違い、原曲のフレーズをチョップ&アレンジでどんどん使い捨てていく、ノリ重視のフロア仕様なスタイル。
ただ、sweetboxは本来クラシック曲を使いつつも流行の音楽を取り入れた楽曲作りが特徴だったわけで、メロディや構成よりも音とリズムとノリが勝負のEDMとクラシックの融合を考えるとこういう引用法に辿り着くのも一つの必然な気もする。
というわけで、まとめると「sweetboxらしさは健在」「GEO&JADEとは別物」という両価性を持った作品。
しかし結果的に元来のsweetboxのファンからはそっぽを向かれ、その他の洋楽ファンからも見向きもされなかった不遇なアルバム。
個人的にはこれはこれでアリ。sweetboxのサウンドは飽きたor合わないという人でも聴けると思われます。