ベートーベンのピアノ・ソナタ第14番「月光」
ショパンの「幻想即興曲」
よく似ていると言われる二曲ですが、これらを一つの曲で同時に引用している曲があります。
Ceui(セイ)の「ベアトリーチェX事件」です。
収録アルバムのトレイラー映像。
知名度の低いアルバムですが、名盤です。せっかくなので全曲視聴してみましょう。ちなみに該当曲は3:30~と8:50~。
収録アルバムは「パンドラ・コード絶望編」「パンドラ・コード希望編」の前後編に分かれており、
「絶望編」に物語の前編にあたる「ベアトリーチェX事件」、「希望編」に後編の「続・ベアトリーチェX事件」が収録されています。2曲合わせて20分程の大曲ですが、最後までほぼダレる事なく聴けます。すごいです。
Ceui
Ceuiは、アニメやゲームの主題歌を多く手がけるシンガーソングライターです。
デビュー当初はタイアップ用のアニソンスタイルと、ノンタイアップ曲での透明感あふれるヒーリング風味の独自のサウンドが特徴でした。
初期の代表作「Labyrinthus」試聴動画。
今とは雰囲気が違います。
ソロ活動の合間に、Sound Horizon/Linked Horizonの楽曲に歌唱で参加し、その後Ceui自身の作風もSound Horizonに影響を受けたかのようにバンドスタイルの物語風音楽へと変わっていきます。「ベアトリーチェX事件」もまた、Sound Horizonの影響を強く受けた曲となっています。
ベアトリーチェX事件
「ベアトリーチェX事件」はイントロで「月光」第1楽章の冒頭のピアノが登場し、実在した悲劇(ベアトリーチェ・チェンチによる尊属殺人事件)を元にした物語を歌に乗せて語っていきます。
物語の場面転換に合わせてどんどん曲調も変化しますが、Sound Horizonのように静かな語りのみのパートなどはなく、最後までテンションを保ったまま曲は続きます。1番の後の間奏で「幻想即興曲」が流れ、ラストに「月光」の第3楽章、そして再び第1楽章が流れて物語の前半は幕を閉じます。
またイントロから続く歌いだしのメロディの部分が、ビゼーのオペラ《美しきパースの娘》の1曲である「セレナード(小さな木の実)」のメロディの引用であると思われます。
ビゼーの原曲の視聴はこちら。
「小さな木の実」はみんなのうたでカバーされており、その歌詞は父親と少年の思い出を描写しながら「坊や 強く生きるんだ」というメッセージを込めています。
わが子を思う父親の心情を歌っており「ベアトリーチェX事件」の内容とは正反対といえば正反対な歌詞なので、もしかするとメロディが似ているだけかもしれませんが、原曲の歌詞が「ベアトリーチェX事件」同様親子をテーマにしたものであるため、引用の可能性が高いと判断しました。
後編「続・ベアトリーチェ事件」は物語のクライマックスと、アルバムタイトルにも通じる「絶望の中から現れる希望」が歌詞だけでなく楽曲でも表現されています。イントロ部分で「幻想即興曲」の穏やかな部分のパートのメロディがピアノで演奏されます。上記の動画リンクでいうと1:05~の部分。
主題
20分にも渡る長い曲の中で、4回流れるメロディ。「おぉベアトリーチェ~」の部分。曲の主題にあたると捉えて良いと思いますが、曲全体を通して、この主題の使い方がとても練られておりドラマティックなのです。
前編の「ベアトリーチェ事件」で初登場する際は、5拍子のリズムから6拍×2を経て3拍子の主題のサビに突入します。サビ後半は4拍子になり、その直後に「幻想即興曲」が流れ出します。「幻想即興曲」は原曲とはリズムが異なり、バックのベースを聴く限りでは5拍,5拍,6拍,6拍といった感じのリズムですがよく解りません。中々のプログレっぷりです。
サビの歌詞は抽象的ですが、主人公のベアトリーチェが父殺しを実行した事を間接的に表現しています。
次は「ベアトリーチェ事件」のクライマックスに主題が登場します。サビはさっきと全く同じ歌詞なのですが、今度はさっきとは逆にベアトリーチェが処刑されるシーンが間接的に表現されています。こっちは超早口パートから4拍子×7小節を経て、転調と共に3拍子のサビに突入します。またサビの直後には「月光」第3楽章が流れ出し混沌感あふれる展開となっています。上記の試聴動画で聴ける部分がここです。
この1番と2番の主題の使い方の対比がすごいです。鳥肌ものです。
後編の「続・ベアトリーチェ事件」は主題とは別にサビが用意されており、主題は別の使われ方をします。
「続・ベアトリーチェ事件」は、前編の処刑シーンの直前のベアトリーチェの夢の中からスタートし、プログレメタル風の変拍子ギターソロから突然主題に突入し、その後再びギターソロに移ります。同様のメロディに同様の歌詞なのですが、今度はベアトリーチェが処刑を免れ救われるシーンが表現されています。
そしてラストのラストでハッピー・エンドに合わせて曲の主題が明るく転調して現れます。それはそれはもうクラシック的で美しいです。まるで「モルダウ」のラストのように劇的です。
しかし読み取り方次第ではベアトリーチェは死んでしまったとも取れる歌詞であり、なんとも言えない不気味な余韻を残して物語は幕を閉じます。ラストの主題部分の歌詞は、ベアトリーチェの明るい未来を暗喩しているor天国へ飛び立った のどちらかを表現していると思われます。
「ベアトリーチェX事件」の作曲家は、Ceuiの多くの曲を手がける小高光太郎という方です。私はあまり知らない方なのですが、Ceuiの曲を聴く限り、素晴らしい作曲家です。
こちらの記事では、Ceuiのもう一つのクラシックカバー曲、「ガブリエル・コード」を紹介しています。こちらも小高光太郎作曲です。
是非合わせてお読みください。
ヴィンセント・ラファエルス
ちなみにこの曲、シリアスな空気をあえてぶち壊すような無闇に明るいキャラクターが序盤に脈絡もなく突然登場し、「事件を捜査する探偵」という役割なのにその後全く現れず事件は解決し終わってしまうため「なんやこいつ」状態なのですが、実は後半にも登場しています。どうぞご安心を。(キランッ☆)
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