クラシックカバーアルバム全曲レビュー

シャルロット・チャーチ「Enchantment」

ウェールズ出身のクラシック・クロスオーヴァー歌手Charlotte Church(シャルロット・チャーチ)の3rdアルバム「Enchantment(エンチャントメント)」。

2001年リリース。リンク先で全曲視聴できます。

 

曲目

“青色◎”は特に良かった曲。

  1. “Tonight” (バーンスタイン「ウェスト・サイド・ストーリー」より)
  2. “Carrickfergus” (アイルランド伝承歌)
  3. ◎”Habañera” (ビゼー「カルメン」より)
  4. “Bali Ha’i” (ロジャース「南太平洋」より)
  5. “Papa, Can You Hear Me?”(ルグラン「愛のイェントル」より)
  6. “The Flower Duet” (ドリーブ「ラクメ」より)
  7. “The Little Horses” (伝承歌)
  8. ◎”From My First Moment” (サティ「Gymnopédie No. 1」)
  9. “The Water Is Wide” (スコットランド民謡)
  10. ◎”Can’t Help Lovin’ Dat Man” (ミュージカル「Show Boat」より)
  11. ◎”The Laughing Song” (ヨハン・シュトラウス2世「こうもり」より)
  12. “If I Loved You” (ロジャーズ「カルーセル」より)
  13. “A Bit of Earth” (サイモン「秘密の花園」より)
  14. “Somewhere”(バーンスタイン「ウェスト・サイド・ストーリー」より)
  15. ◎”The Prayer”, with Josh Groban (ディビッド・フォスター「Quest for Camelot」より)

 

 

 

01.”Tonight” (バーンスタイン「ウェスト・サイド・ストーリー」より)

レナード・バーンスタイン作曲のミュージカル及び映画「ウェスト・サイド・ストーリー」の劇中歌。映画音楽風の独自のオーケストラ伴奏が加わり、オープニングナンバー感が強くなっている。

しかし男女のドラマティックなデュエット及び、それぞれの登場人物が迎える”今夜(トゥナイト)”への決意を代わる代わる歌う原曲に比べると、曲の面白みもスケールもダウンしており、ポップになったというよりは幼稚になったという印象。原曲も十分ポップだし。

原作では、劇中にシチュエーションとアレンジを変えて2度登場する曲。しかも「Tonight,Tonight~」の部分は曲の冒頭ではなく中盤から登場する旋律。そこに至るまでのドラマの流れ雰囲気作りがあるからこそ「Tonight~」の旋律と歌詞が映えるのであって、いきなりそこから始まってもちょっと興ざめというか、良さが伝わらない。

というか、原曲が良すぎるんですよ。もし知らない人はぜひ原曲を聴いてみて欲しい。

 

02.”Carrickfergus” (アイルランド伝承歌)

アイリッシュ・トラッドをニューエイジ風のアイリッシュサウンドに仕立てた曲。日本民謡を和楽器バンドがカバーするようなもの?

現地の人がどう思うのかは解らないけれど、現地の文化を知らない国の住人からすれば、トラッドミュージックのイメージが膨らむ良いアレンジ。

 

03.”Habañera” (ビゼー「カルメン」より)

フラメンコギターとラテン風打楽器でアレンジされたカルメンのアリア「ハバネラ」。

これもスペインの民族音楽がベースにある原曲に、今どきのスパニッシュな雰囲気を付けている。

これもスペイン人が聴いたらどう思うか解らないけれど、少なくとも私が聴く分には超かっこいい。ギターの音の立体感が凄い。ヴォーカルも前2曲よりもオペラティックに歌い上げており、シンプルなアレンジで原曲の雰囲気を残しつつも親しみやすさが倍々増し。

前2作のアルバムよりもポップに寄せている本アルバムのハイライト。

 

04.”Bali Ha’i” (ロジャース「南太平洋」より)

ミュージカルの劇中歌「バリ・ハイ」をカバー。ハープとストリングス・笛に加え、ややアフリカ風味の打楽器でアレンジ。でも南国感は無い。原作は南太平洋の島国がテーマなのでは…。

他の曲はクラシックの原曲が持つ民謡由来の要素を、現代風に解りやすく増強させる作風だったけれど、この曲は単にクラシカル・クロスオーヴァーの雰囲気を付けただけという印象。

原作はタヒチの島がモデルになっており、タヒチの音楽というとラテン音楽にアフリカンと南国感を混ぜたような物みたいだけど。タヒチアン音楽はキャラに合わないからやらないのだろうか。それなら選曲を変えれば良いのでは。

 

05.”Papa, Can You Hear Me?”(ルグラン「愛のイェントル」より)

ミュージカル映画「Yentl」の曲。シンプルなオーケストラアレンジ。原曲と比べてやや歌唱・アレンジ共に上品になっている。この曲のエモーショナルなメロディには原曲のような情感あふれる歌い方の方が合っている気がする。

オペラのカバー以外はあまりクラシカルな歌唱ではなく、アレンジも相まって映画の主題歌のような雰囲気の曲が多い。

 

06.”The Flower Duet” (ドリーブ「ラクメ」より)

オペラ「ラクメ」より「花の二重奏」のカバー。原曲のイメージそのままに、一人二役でデュエット曲を歌う。オペラ唱法もしっかりできているが、やはりオペラをクラシカルに再現すると声の細さが気になる。こうやって他のクロスオーヴァー歌手の歌唱を聴くと、サラ・ブライトマンって上手かったんだなぁ。としみじみ。

 

07.”The Little Horses” (伝承歌)

「Hush A Bye(ハッシャバイ)」のタイトルでピーター・ポール&マリーなどのカバーでも知られる、アメリカの子守唄のカバー。

3曲目のハバネラと同様、ラテン風のクラシックギターで演奏される。相変わらずギターの音色が良い。ヴォーカルの歌声も心地よい。

 

08.”From My First Moment” (サティ「Gymnopédie No. 1」)

前曲同様のギターがメインでジムノペディをカバー。途中でバイオリンも混ざり、ラテン風アコースティック・アンビエントというような雰囲気になっていて新境地のジムノペディ。個別記事でも紹介しています。

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09″The Water Is Wide” (スコットランド民謡)

穏やかなオーケストラ伴奏。クロスオーヴァー好きにとってはいつものケルトポップ。メタラーにとってはNIGHTWISHのバラード風、といえば伝わる。

 

10.”Can’t Help Lovin’ Dat Man” (カーン「Show Boat」より)

原曲はミュージカルの曲。ジャズ&ブルース風の大人ムーディなアレンジ。オーケストラもしっかり入っており、シャルロット・チャーチの歌声も相まって上品かつミュージカル感もある。原曲に少しエッセンスを加え、自分流にアレンジしてポップに寄せる良いカバー。

何というか、彼女のミュージカル曲のカバーは全体的にディズニー風になる。

 

11.”The Laughing Song” (ヨハン・シュトラウス2世「こうもり」より)

原曲からして遊び心満載のアリア。高音もしっかり出ている。本物のオペラ歌手に比べると迫力に欠ける歌声は、かえってオーケストラや曲のユニークさとのバランスが取れており、曲全体を聴くのにちょうど良い。高垣彩陽と同じ。

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12.”If I Loved You” (ロジャーズ「カルーセル」より)

ミュージカル「回転木馬(カルーセル)」の曲。解りやすく上品なオーケストラアレンジに、程よくクラシカルで程よく上品な歌声。相変わらずディズニー風になる。

 

13.”A Bit of Earth” (サイモン「秘密の花園」より)

ミュージカル「秘密の花園」の劇中歌。さっきと同様の雰囲気。アルバム後半にこういう曲調が続くとやや退屈…。

 

14.”Somewhere”(バーンスタイン「ウェスト・サイド・ストーリー」より)

1曲目に続いてウェストサイド物語。物語の終盤で歌われる悲劇のバラード。「Tonight」から始まり「Somewhere」で終盤を迎えるアルバム構成は原作への思い入れを感じさせる。アルバム全体の選曲も、民謡以外は新しめの選曲が多く、クラシックとミュージカルと映画音楽の要素を併せ持つ「ウェストサイド物語」はアルバムの象徴としてちょうど良い。

そしてやはり自然とアニメ映画風になってしまうアレンジ。横で聴いていた妻が「何かラピュタっぽい」と言ってた。

 

15.”The Prayer”, with Josh Groban (ディビッド・フォスター「Quest for Camelot」より)

そしてラストはアニメ映画「魔法の剣 キャメロット」主題歌のカバー。ジョッシュ・グローバンとのデュエット曲。ソルトレイクシティ・オリンピックの閉会式でも披露された。

原曲はセリーヌ・ディオンとアンドレア・ボチェッリのデュエットで、ゴールデングローブ賞やアカデミー賞主題歌賞等も受賞した曲。

オーケストラの盛り上がりと共に歌唱が一気にオペラチックになる。突然歌声のボリュームも上がるが、曲の盛り上がりと同時に歌手のテンションも上がるので違和感なく、かえって劇的な演出になっている。某謎オペラの人も見習ったほうが良いのでは。

 

 

総評

合間合間にオペラ唱法も見せる歌唱力は、ポップスとしては全く問題なく上手い。最近ポップス畑のTVに出演してはクラシックベースの技術と知識を持って他ジャンル相手に無双している清塚信也みたい。

シンプルで解りやすいオーケストラアレンジと上品な歌唱でもって、様々な曲を映画音楽風にカバーしている。時々挿入されるスパニッシュギターをフィーチャーした曲が良いアクセント。

アルバムごとにコンセプトや曲調をがっちり固めるサラ・ブライトマンよりも多様性があり、歌声も含めて聴きやすい印象。一方で全体的に薄味で物足りない面もある。

選曲はミュージカル・民謡・ロマン~現代クラシックがメイン。選曲やアレンジ含めてイマドキなクラシカル・クロスオーヴァー。

 

12歳でデビューした彼女。長い歴史を持つ伝承歌やオペラをあえて子どもに歌わせるというのは、それ自体が一種の特殊な趣味というかジャンルになる。日本にも子どもで演歌を歌う人とか、子どもに歌舞伎をさせる人とかいたよねそういえば。

得てしてそういうジャンルは、子どもの成長過程も含めてエンターテイメントとして消費される。シャルロット・チャーチ然り。

ABOUT ME
syro
1984年生まれ。生まれも育ちも長崎市です。 2人の子育てが大変なので、夜中にちまちま記事を書き通勤中と昼休みに曲を聴く日々。 趣味はインドア全般。音楽以外では辛麺と洗濯とトライエースと三島由紀夫と遠藤周作が特に好きです。 好きな作曲家はメンデルスゾーンと葉山拓亮。