クラシックカバー曲を収録したアルバムを全曲レビューする企画。
第1弾は椎名林檎のカバーアルバム「歌い手冥利〜其ノ壱〜」。収録曲のうち、クラシックカバーである4曲のみ解説します。
2002年リリースの2枚組カバーアルバム。リンク先で視聴もできます。
椎名林檎自身にとって思い入れのある曲18曲を、2人のアレンジャー(亀田誠治・森俊之)がそれぞれ半分ずつアレンジし、それぞれ1枚ずつのCDに収めた2枚組。つまる所いつものメンバーです。
18曲のうちクラシックカバーは4曲。
小さな木の実
原曲:ビゼー 組曲《美しきパースの娘》より「セレナード 小さな木の実」
フォーク的なメロディを活かしてライブ感のあるギターをメインに撮った曲。3分半。
アウトロに甲高いドラムを暴走させて聴き手の想像を膨らませる所が、ただでは済まさない椎名林檎らしさ。余白の多いアレンジも好意的な解釈をすれば想像の余地を残していると言えます。
野薔薇
原曲:シューベルト「野ばら」
安っぽいテクノリズムと雑なギターで歌う曲。2分強。1時間くらいでレコーディングしたんだろうなぁという感じのアイディア一発のアレンジ。メロディが美しく普遍的なのでラストの小曲としていい感じになっています。「野ばら」は学校のチャイムに使用される事が多いらしいので、椎名林檎の子ども時代の思い出の曲なのでしょうか。
君を愛す
原曲:グリーグ「君を愛す」
深海や宇宙を想起するようなアンビエントテクノ風のアレンジ。3分強。
あまりクラシカルではないメロディを逆手にとって、音を聴かせるアレンジ。いい感じの仕上がりなので、曲調を考えても10分くらいのロングバージョンで聴きたい。そうするとアルバムのバランスが崩れるのでシングルのカップリングとかに入れて欲しい。
子守唄
原曲:ショパン「華麗なる円舞曲」
“華麗なる円舞曲”として有名なのは変イ長調の作品34-1ですが、今回カバーしているのはイ短調の作品34-2の方。ロンドらしくはあるけどあんまり”華麗”ではない方。
チェロとピアノでシンプルに聴かせる曲。3分弱。わざとノイズを入れたり音質を落としたりしてノスタルジックな雰囲気を出しています。
椎名林檎って元々大正ロマン的な世界観を好む傾向にあるけれど、昭和後期生まれですよね?子供の頃からファミコンくらいありましたよね??親の趣味とかなのでしょうか。
総評
全体的に3分程度の短い曲が多く、アレンジもあまりごちゃごちゃ音を重ねずシンプル。
かといって地味では全くなく、アイディアが詰まったバリエーションのある曲が並びます。
とはいえ普段の確信犯的に世界観を練り上げている作風と比べると、他人の曲のカバーなうえ、アイディア一発といった感じのアレンジの曲が並ぶため、タイトル通り”歌い手”としての椎名林檎が好きなら良いけれど、世界観にどっぷり嵌れるかというと微妙。はっきり言ってしまえば制作に時間と手間をかけていないんだろうなぁといった印象です。
多彩な音が加わるオルタナティヴロック&昭和モダンという”椎名林檎らしさ”はちゃんと出ているので、入門としてもアリっちゃありかも。
ちなみに椎名林檎はもう1曲クラシックを引用した曲があります。この曲がクオリティ的には一番。以下のリンクからどうぞ。
[…] 椎名林檎「唄ひ手冥利〜其ノ壱〜」 […]
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