クラシックカバーアルバム全曲レビュー

Simone Sommerland, Karsten Glück & die Kita-Frösche『Die 30 besten Kinderlieder mit Klassikmelodien』

16. Ich bin der dicke Zirkusbär (私は大きなサーカスの熊)/グリーグ:ペールギュント組曲 第1番-山の魔王の宮殿にて

変幻自在の歌声で何種類もの動物の歌声を歌い分ける歌のお兄さん&お姉さんが頼もしい。途中でミッキーも紛れ込んでないかこれ。

同じメロディを繰り返しながら徐々にテンポが上がり2分弱で終わる構成や、コミカルでちょっと怖い雰囲気は子ども向けソングにピッタリ。

17. Der Drache und der Ritterssohn (ドラゴンと騎士の息子)/プロコフィエフ:ピーターと狼

物語導入部のカバー。現代の子どもに馴染みやすいよう、古典的な物語を近代ファンタジーの世界観にアレンジ。確かにナレーション&管弦楽の原曲よりも、普通に歌モノにした方が子どもにも解りやすいよなぁ。

この人たちなら導入部だけじゃなくて、全編を10分くらいにうまく纏めて、賑やかなアレンジで再構築できるんじゃないだろうか。それ凄い聴きたい。

18. Der Herbst (秋)/モーツァルト:ドン・ジョバンニ-お手をどうぞ

よりによって、結婚式当日に花嫁をナンパする曲を選曲。もっと他にあるだろ…。

本物を聞かせにくい原曲にモザイクをかけて子どもに馴染ませたい意図があるのだろうか。そんな原曲を秋(=収穫の季節)がテーマの歌にアレンジしているのも意味深。歌詞をしっかり読みたい。

19. Mein Puppenhaus (私の人形の家)/ベートーベン:交響曲第7番-第2楽章??

普通の童謡のような、別に特筆する事もない曲。なんだけど、え?どこが第7番???さっぱり判らない。こんな旋律どこにもなくない??

よくよく聴いてみると、ベースラインが第2楽章の主題っぽい気がする。あと0:28~のコーラスの下降旋律が第2楽章中間部のラストっぽい。だけど調も全然違うし、やっぱりよく判らない。何をどうしたらベト7からこんな曲が生まれるのだろうか。

子どもに聞かせて「ねーパパこれは何の曲?」とか聞かれたらどうしよう。親の音感と教養が試される、超難曲。ベートーヴェンを生み出したドイツの人々なら解るのだろうか。

20. Brüderchen, komm, nimm meine Hand (弟よ、私の手を取りなさい)/オッフェンバッハ:バルカローレ

ホフマン舟歌を軽快に解りやすくワルツ調にアレンジ。

21. ◎Schneewittchen bei den 7 Zwergen (7人の小人たちと白雪姫)/バッハ:バディヌリー


バディネリーをラテン風R&Bにアレンジ。

2拍子とは思えない原曲の複雑な符割りを解りやすくするために、①R&Bのリズムパターンをループさせている②スキャットと普通の歌唱を、ハッキリと小節単位で分割させている。流石の手腕。

オリジナルのパートもいい感じのブリッジになっていて、違和感なくメロディアスに展開を広げている。ベースギターのグリッサンドもいい味出してる。イントロとアウトロも普通にR&Bとしてカッコいい。

23. ◎Das Pilotenlied (パイロットの歌)/チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 第1楽章

ド派手な序奏はカットし、ウクライナ民謡を取り入れている第1主題を何故か穏やかなオシャレボサノヴァ風に。どうしてこうなる。ウクライナ全然関係ないやろ…。

でも結果的にいい感じになっているし、他の曲とも被らないのも良い。相変わらずアレンジのセンスが凄い。

24. ◎Weil wir Freunde sind (私たちは友達だから)/パッヘルベル:カノン

歌メロは完全オリジナルにして、カノンコードのキラキラ洋楽テクノポップ風に仕上げている。Eternity∞のアルバムに入ってても何ら違和感無い。

ETERNITY∞「エタニティ」今回紹介するのは、Sweetboxの中心人物であったGEOとJadeがSweetbox脱退後結成したユニット、ETERNITY∞(エタニ...

 

26. ◎Das Dornröschen-Lied (眠れる森の美女の歌)/フォーレ:ペレアスとメリザンド-シシリエンヌ

バロック室内楽的編曲で勝負する本気カバー。たぶんギターがチェンバロの代わりをしている。歌のお姉さんも本気。ヴォーカルが入ることで間奏の弦楽四重奏パートの美しさもより際立ち、鳥肌モノ。

29. Wenn du müde bist (疲れたら)/クレメンティ:段階的な6つのソナティナ第5番-第3楽章

選曲が渋すぎる。そりゃ子どものピアノ入門に使われるソナチネだし、シンプルな旋律は馴染みやすいけれど、何でよりによって第5番の第3楽章??ドイツでは何らかの理由で有名だったりするのだろうか。それともドイツの国民は皆ソナチネ全曲を通過しているのだろうか。

穏やかなピアノ曲カバーを並べて子どもの寝かしつけにかかる、組曲的なラスト3曲は製作者の拘りを感じる。アルバムオープニングの2曲目にピアノソナタ11番の3楽章を配置し、ラストは第1楽章で締めるアルバム構成もシャレてる。

総評

子ども向けと侮っていたけれど、意外にもガチ選曲。さすが世界最大のクラシック大国、ドイツ&オーストリア。

編曲は子ども向けらしく賑やかで緩急も効いており、退屈させない工夫が随所にみられます。しかしただの子ども騙しではなく、作り手の意欲が感じられる作り込みも垣間見えます。

全30曲と大ボリュームですが、各曲は1分半~3分の間に収まっており、更に多様なポップス的方法論を用いられてアレンジされているため、メロディの良さも相まって案外聴けます。メインの大人二人はジャズやロック・ポップスにミュージカルやスラッシュメタルと様々な音楽的バックボーンを持っているそうで、異種格闘技戦のような面白さもあります。

 

また夜の歌ではコウモリを主人公にしてみたり、季節を歌う歌では季節を強調するSEを入れていたりと、原曲のモチーフを子どもにも解りやすく強調するような表現が成されています。
その一方で原曲とは全く異なる大胆なアプローチの、原曲クラッシュ寸前なカバーもありますが、そのいずれも結果的に良い感じのアレンジになっています。

 

歌詞はドイツ語なので解りませんが、曲タイトルと楽曲の雰囲気だけでも何となく全体像が掴めるのは流石の手腕。こども園で歌う事を前提としていたり知育要素を入れていたりと、子ども向けとしてソツが無さそうな感じです。

原曲とは調が異なるものも多く、おそらく聴き手のために歌いやすい&演奏しやすいキーが選択されているのではないでしょうか(メンドイので調査はしません)。

ドイツ語入門&クラシック入門として十分おススメできる作品。大人でもそこそこ聴ける出来ではないでしょうか。

作品全体を通じて様々な楽器や音が散りばめられており、ベースギターを初め遊び心のある生演奏のフレーズも随所に隠されています。楽曲の要素を正しく子どもに伝えるためにも、良いオーディオ環境で聴くことをお勧めします。

 

こちらは日本の子ども向けクラシックカバーソング集。こちらも馬鹿にできないクオリティです。

天才おばかクラシック その1ソニーミュージックの子ども向け部門"KIDSTONE"よりリリースされたCD、「天才おばかクラシック その1」。 有名なクラシック...

 

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syro:生まれも育ちも長崎市です。二児の子育て中。 趣味はインドア全般。音楽以外ではスマホ収集とトライエースと三島由紀夫と遠藤周作が特に好きです。 好きな作曲家はメンデルスゾーンと葉山拓亮。

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