同人音楽サークルKrik/Krakが2009年にリリースした2ndアルバム『黒い森』。
その中の一曲「魔女の家 Ⅲ (嚥下する獣の食卓)」は、パッヘルベルのカノンをアレンジしたイントロを使用しています。
こちらのDL通販サイトで入手可能です。表題曲の試聴もあります。
この『黒い森』、かなり独特の構成になっています。内省的ファンタジーとでも形容すれば良いでしょうか。
普通ファンタジーというのは、壮大で、既存の世界観や価値観を更に拡大させ幅広げたようなものというのが一般的ですが、この『黒い森』は逆に、“閉ざされた空間の中で、内側へ内側へと世界を広げていく”というコンセプトを徹底した世界観になっています。まさしく、どこまでも続く深い森の奥へ奥へと迷い込むように。
例えば試聴できる2曲目のオープニングテーマ「黒い森(連動のSchalter《A》、彼方にて幕は閉じ)」はタイトル通り黒い森に足を踏み入れ閉じ込められる曲ですが、Aメロの少しずつ下がっていくクリシェ進行が”黒い森の中へに落ちていく”様を表現しているものと思われます。
全10曲(+α)からなる作品ですが、単なる一つの物語ではなく、全体像を掴むためには作品のアートワークや歌詞をヒントに謎解きをする必要があります。
かといってその謎解きが、どんでん返しや衝撃の事実などになっているわけではなく(秘密のメッセージみたいなのがありはしますが)、謎を解いてようやく作品のコンセプトを把握する事ができる。という感じ。
カタルシスやエンターテインメントのためのオチとしての仕掛けではなく、作品の世界観や概念(先ほど述べたような、内側へと広がっていく内省的ファンタジー)を表現するための仕掛けが、作品のあらゆる所に施されています。
そんなストイックな作り込み方は純文学的で、とても珍しい作風の音楽作品です。誰のためでもなく、自分自身のために作った作品という印象を受けます。
そんな『黒い森』の中の一曲「魔女の家 Ⅲ (嚥下する獣の食卓)」は、本作品の一つのクライマックスでもあります。
ヘンゼルとグレーテルをモチーフにした寓話の結末を描いており、曲中で引用されるカノンの旋律は、猟奇的な内容の楽曲の中で場違いに明るい雰囲気を醸し出しており、逆に狂気を際立たせる演出を担っています。
作品全体を通して、執拗に”闇”の存在を描いています。ややメルヘンチックで暗い雰囲気に浸りたい方・自分から暗闇の底に潜っていきたい方にお勧めのアルバムです。ぜひ『黒い森』に足を踏み入れ、そこに垣間見える作り手の内面世界を覗いてみましょう。
ちなみにこのKrik/Krak、グリーグの組曲『ペールギュント』の「山の魔王の宮殿にて」をモチーフにしたようなイントロを擁する「真夜中の黒薔薇」という楽曲もあります。現在絶版中ですが、メロディアスな良い曲なので、DLリリースに期待しましょう。