数多のポップスに影響を与え、また引用やカバーをされてきたパッヘルベルの「カノン」。
今回はカノンをサンプリングしているmoveの「Lookin’ On The Sunny Side」です。
ユーロビート
DA PUMPの「U.S.A」で再注目されたユーロビートというジャンル。
名前通りヨーロッパで誕生したダンスミュージックのジャンルです。日本ではいわゆる「パラパラ」文化もあり、1990年代後半ごろに流行しました。
ダンス/ロックミュージックの世界的大御所であるThe Prodigyなんかも、1stアルバムはユーロビート的なサウンドでした。でもそれが超かっこいいんだな。
当時JPOPも様々なユーロビートMIXが成されましたが、やはりユーロビートJPOPと言えば、moveの「Gamble Rumble」。
アニメ「頭文字D」のテーマソングとして脚光を浴び、moveで一番知名度の高い曲となりました。
これを聴けばユーロビートの何たるかが解ります。テンポの早い曲に乗っかる特徴的なシンセに、「ダン!ダン!ダン!」と鳴り響くオーケストラ・ヒット。
既存の曲をユーロビートにリミックスしたり、ポップスにユーロビートのエッセンスを加えたりといった曲は多くありましたが、ここまでユーロビートというジャンルに真正面から向き合い、ガチのユーロビートアレンジのオリジナル曲をリリースするアーティストは類を見ませんでした。
moveの音楽性の変遷
そんな「Gamble Rumble」ばかりが有名なmoveですが、実はユーロビート曲を発表していたのはほんの僅かな期間だけであり、本来は時代の流れに合わせて次々と音楽性を変えていくグループです。「move」というユニット名もそんなコンセプトに由来しています。
ジャンル的にはテクノ・ブレイクビーツです。はっきり言ってしまえばケミカル・ブラザーズ風です。
その後ポップス風味が強くなり、徐々にユーロビートのエッセンスも増えていきます。
「Gamble Rumble」でバキバキのユーロビートサウンドを極めたmoveは、次に流行するダンスミュージックであるトランスに傾倒していきます。
最もトランス寄りのシングル「come together」。
シングルバージョンは10分を超える壮大な曲です。カッコいい…。徐々に手数を増やし盛り上げていくドラムからのブレイク→シンセによるカタルシス。トランス・ミュージックのお手本のような曲です。
その後ラテンミュージックを経て、エヴァネッセンスの世界的ブレイクに応じるように、ダークなロックサウンドに変遷していきます。
こちらは「Blast My Desire」。
世にも珍しいシンフォニックミクスチャーロックです。この曲収録のアルバム「Deep Calm」はオルガンあり、合唱あり、派手なストリングスサウンドありとクラシック要素も含まれている名盤です。
そしてその次にリリースされたアルバムが、 2005年発売、「Lookin’ On The Sunny Side」収録の「BOULDER」。ガチガチのロック・コンセプトアルバムだった前作に比べ、バラエティに富んだ曲が並びます。前作の作風をややポップにした「DOGFIGHT」、トランス×ロックを独自の手法で提示した「Noizy Tribe」、クラシカルな合唱をフィーチャーした「Cherry blossom」、ざ・ミクスチャーロックな「GHETTO BLASTER」等々。
この「Deep Calm」→「BOULDER」→次のアルバム「GRID」の時期 、プロデューサーのt-kimuraがクラシックに傾倒していた事もありmoveは「クラシック期」とも言える時期を迎えます。
その後moveは、新しいダンスミュージックに挑戦したり、原点回帰をしたりして2009年に解散を迎えることとなります。
「Lookin’ On The Sunny Side」は、前作にあたる「Deep Calm」の暗く重い作風から一転し、憑き物が取れたかのように、カノンのコードと旋律に合わせて優しく愛を歌います。アルバムタイトルの「BOULDER」は「角が丸くなった丸石」という意味であり、moveの音楽性や方向性の変遷がそこに表現されています。
それぞれ特長のある各アルバムも良いですが、moveのベストアルバムは、まさに音楽性がmoveしてゆく様を味わえます。 「Lookin’ On The Sunny Side」も収録。
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