私の小学生の娘は、図書館から伝記マンガをしょっちゅう借りてくるのですが、私が子どもの頃に比べて、最近は女性を取り上げた伝記がとても多いと感じます。
マリー・アントワネット、ダイアナ、グレース・ケリー、エリザベス女王1世etc…
そんな中、先日娘が借りてきたのはクララ・シューマンの伝記マンガでした。
これです。最近の伝記マンガはイラストのクオリティが高い。
そもそも昔のクラシック界で女性作曲家が脚光を浴びる事はほとんどなく、言われてみれば女性が作ったクラシック曲といえば、パダジェフスカくらいしか聴いた事がない…。
クララ・シューマンは、ほぼ世界初の女性音楽家として知られています。しかし8人の子どもを出産しながら夫の作った曲を演奏するなど、ロベルト・シューマンの妻として、またピアニストとしてクローズアップされがちです。
しかしピアノ曲を中心に作曲もしており、現代にも残されています。これを機に彼女の曲を聴いてみました。
これが、かなり良い感じなのです。美しく煌びやかで、わかりやすい。演奏時間もコンパクトで、夫のロベルト・シューマンよりも、むしろ親しみやすく聴きやすいです。
メンデルスゾーンの初期の曲を聴いた時も思いましたが、この時期の作品は古典派の上品さや様式美と、ロマン派の多彩さを併せ持っていて、とてもバランスの良い曲が多いです。
特に気に入ったのは、《ピアノ協奏曲 イ短調 作品7》。15歳の時に完成した楽曲だそうです。
当時ロベルト・シューマンはクララの父から音楽レッスンを受けていたためクララとの親交はありましたが、まだ交際が始まる前だったようです。
ロマンティックで解りやすく憂いもあって、序盤のピアノの入りは大胆で派手。 オーケストラで物々しく提示された第一主題は、ピアノで再現すると響きが一変して、とても美しいです。
親しみやすく華やかですが、間違いなく古典派の音からは抜け出していて、かといってロマン派にありがちな冗長さや複雑さはみられません。
全三楽章、20分程度の長さもちょうど良く、集中を切らさずにクライマックスまで聴けます。
ユニゾンでキメるところなんかはロベルト・シューマンっぽさもあるなぁと思っていましたが、オーケストラ編曲にはロベルトも携わっているようです。
こちらの論文では、この楽曲に対して、ショパンやリストにメンデルスゾーン、ロベルト・シューマンの楽曲との比較を交えて考察がなされています。当時の著名な作曲家たちに並んで、クララが優れた音楽家であった事が解ります。
こちらの曲もとても気に入りました。
《ロベルト・シューマンの主題による変奏曲 Op.20》
美しくも憂いのある、印象的な主題が繰り返されます。
この主題は夫のロベルト・シューマンの曲である、《色とりどりの小品 Op.99》より「5つの音楽帳 第1曲」をモチーフとしています。
クララ作曲の「ロベルト・シューマンの主題による変奏曲 Op.20」は、夫ロベルトの誕生日に贈られた曲ですが、その頃ロベルトは既に病気により体調が悪くなっており、その3年後に亡くなります。
ロベルト・シューマンは精神疾患を患っていた事で知られていますが、クララの変奏曲のシンプルで心休まるアレンジを聴いていると、楽曲に込められた想いを感じ、胸を打つものがあります。この変奏曲は全体的に静かで憂いを帯びた作品ですが、最後の第7変奏は優しさに包まれています。
シューマン夫妻と親交が深かったブラームスは、ロベルト・シューマン亡き後、同じ主題を用いた《シューマンの主題による変奏曲 Op.9》を作曲します。クララの《ロマンス変奏曲》の主題も途中で使用されています。
クララの変奏曲に比べると大胆にアレンジされており複雑になっています。ですが、個人的にはクララによるミニマルな変奏曲の方が好きです。心を静めたい時や眠れない時に聴く曲が、また一つできました。
《ピアノ協奏曲 イ短調》も、《ロベルト・シューマンの主題による変奏曲》も、展開が少ないとも言えますが、とても主題のメロディを大事にした作曲ぶりです。
どちらもロベルトとクララの共作とも言える作品です。この2曲が私の耳に留まったのは、きっと偶然じゃないのでしょう。