今回紹介するのは、アルヴォ・ペルトの曲、スターバト・マーテル。
1985年に発表された楽曲です。
アルヴォ・ペルトは1935年生まれのエストニア出身の作曲家です。
シンプルな音色を繰り返すミニマル的手法や、宗教的な声楽曲を数多く発表している、”癒し”・”静謐”といった要素が強い作曲家です。
こちらはペルトの代表曲の一つ、『鏡の中の鏡』。
ピアノによるアルペジオと、バイオリンによる伴奏を繰り返しながら少しずつ展開していきます。ペルトの十八番の作曲様式であり、彼自身によって「ティンティナブリ(鈴声)の様式」と名付けられています。
超シンプルだけれど、静かで美しい曲。
一方、『スターバト・マーテル』というのは『悲しみの聖母』とも呼ばれ、数多くの作曲家によって作られてきた宗教曲です。元々は13世紀に作られたカトリック聖歌が元となっており、その詩をベースに様々な作家が独自の楽曲を発表しています。
キリストが磔刑に処された時に、母であるマリアが受けた悲しみを歌った曲です。
なので、どの『スターバト・マーテル』も歌詞は基本的に同じです。
特に有名なのはペルゴレージの『スターバト・マーテル』。
ペルゴレージはバロック音楽と古典派音楽の過渡期の作曲家として有名であり、バロック音楽と古典派音楽の雰囲気を併せ持った作風の作曲家です。
こちらの記事で紹介している、ストラヴィンスキーの『プルチネルラ』もペルゴレージの楽曲がベースにあると言われています。


私のお気に入りは、ドメニコ・スカルラッティの『スターバト・マーテル』。厳かで物悲しい旋律がたまりません。
もう一つのお気に入りはヴィヴァルディの『スターバト・マーテル』。こちらの記事で触れています。

そして一番は何と言ってもペルトの『スターバト・マーテル』ですが、全体的にシンプルなストリングスと静謐な合唱が続く曲調となっています。宗教曲らしい、厳かでありつつも美しい曲です。
が、特筆すべきなのは、曲中に3回登場する弦楽パート。是非一度、初めから通して聴いてみて欲しいです。昼寝のついでにでも。
曲中に3回、唐突に不穏なメロディを奏でるストリングスが登場します。そして突然ブツ切られるようなタイミングで、何事もなかったように突然元の曲調に戻ります。
「何だったんだあれは…。」と初見ではビックリする事請け合いです。上記の動画で言うと7:50~、13:20~、18:10~の3箇所。
その弦楽パートも、回を重ねる毎にどんどん薄気味悪く悲愴的な雰囲気になっていきます。予想できるメロディ展開に行かない、不思議な旋律。一体何を表現しているのでしょうか。わが子を亡くした母親の絶望でしょうか。
後半になるにつれて悲壮感や激しさが増していくのは、どう解釈すれば良いのでしょうか。
ラストは特に展開する事も無く、静かで厳かな曲調のまま、ゆっくりと幕を閉じます。
数多くの宗教曲や癒しの音楽を発表したアルヴォ・ペルトですが、彼の作品の魅力を凝縮させているのが、この『スターバト・マーテル』だと私は思います。
美しさと前衛性・神秘性を兼ねそなえた、とても個性的で魅力的な曲です。
1曲30分。ちょうど一休みにピッタリの演奏時間です。色んな事に疲れた時、手や頭を休めて、この音とじっくり向き合ってみてはいかがでしょうか。