はじめに
先日、何気なく耳にした曲が気に入ったので、日記ついでに紹介します。
日本の7人組ヒップホップ/R&Bガールズグループ、XGの楽曲「LEFT RIGHT」。
浮遊感のあるサウンドが印象的なR&Bソングです。
2023年リリースのシングル『SHOOTING STAR』収録。
こちらの記事から引用すると、
「XG」は「Xtraodinary Girls」を表す。常識にとらわれない規格外なスタイルの音楽やパフォーマンスを通じて、世界中のさまざまな境遇の人たちをエンパワーしていく。
との事です。
リズム面からの考察
「LEFT RIGHT」はシンプルな四拍子のリズムです。四拍子のリズムに乗せて「LEFT RIGHT♪」と歌う部分が印象的です。
しかし、バックで繰り返される浮遊感のある印象的なベース&シンセのリフは、シンプルな四拍子のリズムとは少し異なります。
楽譜にするとこうなります。一番初めのイントロから一曲全体を通して使用されるフレーズとなります。
一番下の「四分音符」は実際には鳴っておらず、曲全体の基本リズムとして参考までに記しています。ちなみに調は変ロ短調になります。明るいというよりも、透明感や寂寥感・クールさ等を感じるメロディです。
シンセ&ベースのリフレインは、[8分音符or8分休符]3つ分のサイクルでループしており、基本の4拍子のリズムとはズレたサイクルになっています。1.5拍ごとのループと言えばいいでしょうか?
リズムの纏まりごとに区切ると、こんな感じになります。
これはつまりどういう事かというと、一曲を通して、2種類の異なるリズムが常に同時進行しているという事です。
それによって、2種類のリズムがそれぞれズレていったり、時には重なったりする事で、独特な雰囲気やグルーヴ感(ノリ)が生まれます。
MVでも見ることができるダンスでは、冒頭の部分で8分×3のリズムを手をパタパタさせて表現しており、その一方で4拍子リズムの2小節ごとの区切りでクルっとターンします。
これにより、曲の一番初めの部分で、2種類の違ったリズムを聴き手に対して強調し、提示しているのです。ダンスもよくできてる。
ちなみにドラム譜も入れて小節毎に区切るとこんな感じです。
ドラムはベース&シンセの3連リズムをサポートするようなリズムですが、これもまた他の2つのループとは微妙にズレています。シンプルなようで複雑にリズムが絡み合います。
少し話が変わりますが、「LEFT RIGHT」の歌詞には、Hit the pedal to the ground, listen to the sound(このサウンドを聴いて、アクセルを踏もう)など、スピード感を強調するフレーズが多く出てきます。
パッと一聴しただけではゆったりした感じのある楽曲ですが、実際のテンポは150程度ありとても速く、さらにこのリズムがもたらすグルーヴが、独特のスピード感を作り出しています。
歌詞・曲タイトルからの考察
歌詞は「XGと一緒に新しい世界へ行こう」と聴き手を新天地に誘うような内容になっておりシンプルです。しかし、曲中に何度も登場し、曲のタイトルでもある「LEFT RIGHT」というワードの解釈がやや難解です。
直訳すれば「左右」ですが、全体的にストレートな歌詞の中で、この「LEFT RIGHT」だけが抽象的に使用されています。もちろん意図的なものと思われます。
Left right get it on the floor
⇒左側のあなたも、右側のあなたも、フロアに上がりましょう
Left right get in my zone ha
⇒左側のあなたも、右側のあなたも、私のゾーンに入っておいで
Left right everywhere we go
⇒左へも右へも、どこへでも行くよ
We pull up from the left right
⇒右側からも左側からも招待するよ
Want your body swervin’ left right left right
⇒あなたの身体を左右にふらふらにさせたい
I want your body movin’ left right left right
⇒あなたの身体を左右に動かしたい
といった感じと思われますが、まぁ「どこへも」「どこでも」「みんな」「自由に」「どっちも」というような使われ方でしょうか。
先述したXGのコンセプトに倣えば、”世界中の人たちをこの音楽にノセたい”といった主張が込められているように感じます。
しかしそんなメッセージに、あえて「LEFT RIGHT」という対照的な単語を並べたフレーズをチョイスするのは、やはり意図的なのは間違いないわけで。
楽曲がリリースされた時代背景も考慮したうえで、もう少し踏み込んだ解釈をすれば、この「LEFT RIGHT」というのは、”二項対立=対立する2つの事象や概念”を象徴していると考えるのが妥当と思います。
もっと端的に言えば、「男と女」だったり、「カワイイとカッコいい」だったり、「日本の音楽と海外の音楽」だったり、「左翼思想と右翼思想」だったり、「対立している2つの国家」だったりです。
SNSの発達や世界情勢の悪化などにより、至るところで対立や論争、分断が起きています。「〇〇と□□は結局どっちが良いのか」など、極論に走ったり、安易に勝者と敗者に分別しようとしたり。
そんな分断社会に対するアンチテーゼとして、XGは「対立軸なんてないんだ」「左も右も合わさって一つになろう」という新たな価値観を提示しようとしているのだと思います。そんなメッセージが「LEFT RIGHT」というワードに込められているのではないでしょうか。
また「左右」というのは「横ノリ」の意味も含んでいるものと思われます。I want your body movin’ left right left right⇒あなたの身体を左右に動かしたい がそうですが、先述した通りこの曲はグルーヴ感の強い楽曲なので、曲のグルーヴィーなノリを「LEFT RIGHT」というワードで表現しています。
まとめ:「LEFT RIGHT」の主題とは?
それぞれの視点から考察をしてきましたが、まとめます。
リズムの視点で、[4分音符4拍子のリズム]と[8分音符の3連リズム]の2種類が同時進行していると話しました。ダンスにおいてもそんな2種類の異なるリズムを自由自在に行き来しています。
また、歌詞の視点では、LEFTとRIGHTは色んな対立軸の比喩であり、[二項対立な見方が蔓延る現代社会]に向けて、[自由で新しい価値観を提示している]という話をしました。
MVでは近未来的な世界観と、新天地への移動を表現していました。
これらは全て繋がっています。即ち、
曲中の「LEFT RIGHT♪」のフレーズに代表される、[整った偶数のリズム]は、[今の分断社会]を表現しており、
もう一つの[キレイに割り切る事ができない奇数の3連リズム]は、そんな現代社会に対して彼女たちが新たに提示する、[右にも左にも属さない第3の価値観]を表現しているのだと思います。
そう考えればMVの近未来的な雰囲気も、「今の時代に提示する新しい価値観」を、別の切り口で表現している。と解釈できます。
主題の「LEFT RIGHT♪」のフレーズが、曲中において解りやすく偶数リズムを強調しています。だからこそ、4分音符の基本リズムと、バックトラックの8分3連リズムが織りなすグルーヴが、より際立つのです。
ダンスにおいても、偶数リズムと奇数リズムの2種類のリズムを行ったり来たりします。これも「LEFTにRIGHTに自由自在」という楽曲のコンセプトを上手く表現しています。
曲の最後では、再びトラックにのせて「LEFT RIGHT」のフレーズを繰り返します。曲の主題を印象付けると同時に、ここまで楽曲を鑑賞してきた聴き手に対して「LEFT RIGHT」の意味を考えさせる余韻を作っています。
こちらはアメリカ人歌手のシアラと韓国のボーイズグループGOT7のジャクソンによるRemix。