2020年デビューの韓国7人組男性アイドルグループGHOST9(ゴーストナイン)。
楽曲「Control」は、シューベルトの魔王を引用した楽曲です。
シューベルトの原曲はこちら。
「魔王」の原曲はト短調が主調なのですが、何故かよくヘ短調で演奏されます。今回紹介するGHOST9の「Control」もヘ短調。何故なのだろう…?
まず、曲全体の構成を眺めてみましょう。
原曲の「魔王」は“ロンド形式”です。印象的なメロディ(主部)を何度も繰り返しながら、合間に様々なパートを挟んでいきます。作品全体に統一感を持たせ、かつ主題のメロディを印象付けながらも変化を付けながら展開させていく手法です。ポップスでは聞き慣れないですが、クラシックには多く見られる形式です。
次にGHOST9の「Control」の構成を見てみます。
序奏⇒A⇒BCB´⇒D⇒BCB´⇒E⇒BCB´
これも珍しいロンド形式。しかも主部がBCB´と、主部自体が三部形式の体を成しているため、なんと大ロンド風です。ポップスでは激レア。
BパートとB´パートではアレンジを変化させているため、主部の中でもB(提示)⇒C(展開)⇒B´(再現)と美しいソナタを形成しています。クラシカルな様式美です。
次に少し細かい部分を見ていきます。
「Control」では、「魔王」の印象的なピアノ左手のフレーズを、様々に音色を変えながら繰り返します。
しかし主部の出だし(上記のB、B´パート)で「魔王」のメロディは一旦影を潜めます。その部分のメロディは“ファドシ♭ド ファドシ♭ド”となっており、転調しているわけでは無いのですが、この部分はヘ長調でもヘ短調でも共通の音階を使用しています。そのためにマイナー感が無く、暗い雰囲気はあまりありません。
「魔王」のメロディを一旦消した事と、マイナー感の無いメロディが、主部での解放感を強調しています。しかしその直後には短調のメロディと「魔王」のフレーズがすぐに戻って来ます。
これにより、曲全体を通して「魔王」の持つ暗い雰囲気を保ちつつ、かつ流行のKPOPとしての体裁を成す事を両立させています。
「Control」の主部にあたる部分が、一番「魔王」の要素が薄いというのも面白いです。普通有名な曲をサンプリングする時って、印象的なフレーズを曲のサビに持ってくる事が多いのに。
「魔王」の主題と「Control」の主題が互いにせめぎ合うような構成となっています。トラック自体もクラシカルなピアノの音色とEDMの音色が共存しており、金管楽器のようなシンセの音色も登場します。まさしくクラシックvsKPOPという感じ。
まとめ
曲全体を通して「魔王」の持つ暗い雰囲気を保ちつつ、かつ流行のKPOPとしての体裁を成す事を両立させています。
そして更に先ほど説明したように、「魔王」のフレーズを音色を変えながら何度も繰り返す変奏曲的手法に加えて、「魔王」のオマージュ的に“変形したロンド形式”を採用しており、クラシック的な様式美も両立させています。凄い。
2021年リリースの5thミニアルバム『NOW:Who We Are Facing』収録。 一曲の中で様々な音やリズムが次々と登場する「TRIANGLE」が聴いていて楽しいです。