今回紹介する曲は-LostFairy-の「ニゲルの肖像」です。
シューベルトの「魔王」はとても有名な曲で、約4分とクラシックにしては短い曲であることもあり、学校で習った人も多いようです。
作家であるゲーテの詩を元に作られた曲です。ゲーテはクラシックの作曲家を初め、多くの芸術家に並々ならぬ影響を与えています。
特に有名な戯曲「ファウスト」からは、シューマンのオラトリオ「ゲーテのファウストからの情景」や、マーラー「交響曲第8番」・手塚治虫の漫画「ファウスト」など数多くの作品が生み出されました。
「魔王」は出だしのピアノの同音連打と不穏なメロディ、「お父さん!お父さん!」の歌詞が印象的な曲です。子どもが魔王に連れ去られそうになっているけど、父親にはそれが気づかない…というストーリー。
「音楽家を目指すシューベルトと、それを許さない父親とのすれ違い」を投影している曲、と言われています。
ホラー映画の手法と「魔王」
のんきな父親、自分だけが魔王の存在に気づいている子ども、優しい声色で子どもを油断させようとする魔王、それぞれのセリフが、それぞれの心情を表現するように様々に調を変えて歌われます。むやみに明るい魔王のメロディが逆に怖いです。
子どものメロディは後半に行くに従い、恐怖感と緊迫感に伴いどんどん高く転調してきます。
特に一番の聴きどころは、ちょうと中盤にあたる「お父さん!魔王の声が聞こえないの!?」からの「枯れ葉が風に揺れてるだけだよ坊や」の部分です。
息子の部分では半音ずつメロディが上がっていき、迫りくる恐怖が表現されています。
ところが迫りくる恐怖のメロディがピークに達した後、何も無かったかのように長調に転調し平凡なメロディ(父親のパート)に戻ります。
何か出てきそう、出てくる出てくる怖い怖い!→何も出てこない
の流れはホラー映画でもよく有るパターンですが、いざ幽霊やゾンビが登場したときよりも、「なんか出てきそう…」な時の方が怖かったりします。ホラー映画は一般的にラストに向けて尻すぼみになる、と言われる所以です。
「魔王」でも息子の緊迫感と、盛り上げておいて結局その後「何も起きない」展開に、独特の魅力があります。
-LostFairy-の「ニゲルの肖像」
今回紹介している「-LostFairy-」は、ダークで少しメルヘンチックな世界観と、シリアスで切ないメロディ、CD1枚を通してストーリー性のある歌詞が魅力のアーティストです。
「ニゲルの肖像」収録CDの試聴動画です。
この-LostFairy-の「ニゲルの肖像」、かなりしっかりと「魔王」を再現しています。
「ニゲルの肖像」を聴いた後に「魔王」を聴き直すと、その再現性の高さに驚きます。
しかも日本語でリズミカルに歌われているうえ、クラシカルサウンドにバンドサウンドも加わり、原曲に比べて格段に聴きやすいです。「魔王ってこんなにキャッチーな曲だったっけ?」と驚くほどです。
前述した中盤の山場の部分も、怖さとインパクト倍増でアレンジされています。ちょうど試聴動画で聴ける部分です。
原曲「魔王」の約4分というポップスに近い演奏時間・印象的なイントロ・-LostFairy-によるかっこよくも原曲への愛が感じられるアレンジメントにより、とてもキャッチーだけれど、クラシックの魅力も存分に味わえる名曲になっています。
「ニゲルの肖像」が収録されているアルバム「呪われし亡国のメフィストフェレス」。ちなみにメフィストフェレスは、ゲーテのファウストに登場する悪魔の名前です。
-LostFairy-は他にもクラシックを引用した曲をリリースしています。
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