シューベルト

アヴェ・マリア/志方あきこ「AVE MARIA」

多重録音コーラスによる美しい歌声を特徴として、アニソンとニューエイジ・サウンドの中間的な音楽を制作するシンガーソングライター、志方あきこ

2ndアルバム『RAKA』にて、シューベルトの「AVE MARIA」をカバーしています。

原曲の美しい雰囲気を壊さないまま、志方あきこらしく多重コーラスで派手&壮大に仕上げています。葉加瀬太郎がバイオリンで参加。
 リンク先で試聴できます。

シューベルトの「アヴェ・マリア」

アヴェマリアといえば教会で歌われる讃美歌として有名です。

伝統的な歌詞に、シューベルト・グノー・カッチーニなど様々な作曲家がメロディを付けています。
中でもシューベルトのアヴェマリアはとりわけ有名です。

 

そんなシューベルトのアヴェマリアですが、本来は讃美歌ではなくドイツ語の歌曲《エレンの歌 第3番》として作曲された曲でした。

元々の《エレンの歌 第3番》は、歌いだしこそ「アヴェマリア~」ですが、
それ以外は伝統的な歌詞とは異なり、むしろ”アヴェマリアのパロディ”のような歌詞になっています。

その後、その曲に伝統的なアヴェマリアの歌詞を充て、現在の「シューベルトのアヴェマリア」が完成しました。

 

ドイツ語でオリジナルの歌詞で歌われる《エレンの歌 第3番》はこちら。

 
伝統的なラテン語の典礼文で歌われる《シューベルトのアヴェ・マリア》はこちら。


 原曲のエレンが女性であるため、男性がカバーする際に典礼文を使用することが多いようです。

そして今回の志方あきこによる「アヴェマリア」ですが、なんとイタリア語。これは珍しい!

普通は伝統的なラテン語。シューベルトの原曲に沿うならドイツ語。イタリア語でシューベルトのアヴェマリアを歌う人なんてイタリア人くらいではないでしょうか。

しかも、イタリア語で本来讃美歌として歌われる「アヴェマリア」と志方あきこによる「アヴェマリア」は歌詞が異なり、独自の訳が施されています。

イタリア語版「アヴェマリア」の歌詞はこちら

志方あきこ版「アヴェマリア」の歌詞はこちら

 

これはどういう事でしょうか。

おそらく、志方あきこによる「アヴェマリア」は、原曲である《エレンの歌 第3番》をイタリア語訳しているものと思われます。

《エレンの歌 第3番》の歌詞はこちら

 

その根拠の一つとして志方あきこの「AVE MARIA」を見てみると、作詞者は《エレンの歌 第3番》の元となっている叙事詩『湖上の美人(The Lady of the Lake)』の作者であるウォルター・スコットがクレジットされています。(ちなみに『湖上の美人』はロッシーニによってオペラ化もされています)

 

また、志方あきこは曲によって様々な言語を使い分けていますが、中でもイタリア語の比率が高いようです。

イタリア語に対する造形が深いのか、イタリア語の響きを好んでいるのかは定かではありませんが、あえてイタリア語にしている理由もやはり彼女のパーソナリティに拠るものと思われます。

 

つまり志方あきこの「AVE MARIA」は、歌詞の面からも楽曲の面からも”彼女にしか作り得ないアヴェ・マリア”となっているというわけです。

わざわざ《エレンの歌 第3番》をイタリア語訳して歌っているのなんて世界で一人だけなのではないでしょうか。

 

追記:気になる点としては、《エレンの歌第3番》では母なるマリアに対して「O Mutter(おお母よ)」と呼び掛けている場面で、志方あきこの《AVE MARIA》では「oh Dio il genitor(おお主よ父よ)」と明確に性別を変えています。単なる《エレンの歌第3番》の訳ではないのか、歌詞の主体が女性なので何らかの男女の関係に関する解釈を混ぜているのか、葉加瀬太郎とのコラボだからなのか…?

 「AVE MARIA」収録のアルバム『RAKA』は2006年リリース。中谷美紀やシガー・ロスのようなアンビエント/ポストロックの要素が強かったデビューアルバム『Navigatoria』から、ワールドミュージックに大きく舵を切った一枚。メジャーになってアレンジャーが付いたのかと思いきや、作編曲全て本人。驚きの振れ幅です。

音楽ユニット”VAGRANCY”として、同人音楽黎明期よりサークル活動を行う傍ら、メジャーではソロ活動にてアニソンやゲームソングを多く手掛けています。

またその一方でヒーリング/イージーリスニングのジャンルで語られる事も多く、そのバランス感はオンリーワンです。

多重録音によるコーラスも、イタリア語やラテン語から果ては造語までバリエーションに富んでおり、作品のミステリアスな世界観を一層深めています。

 

こちらは同じ『RAKA』に収録されている楽曲「謳う丘」。PS2ゲーム『アルトネリコ 世界の終わりで詩い続ける少女』主題歌。ゲーム中でも”歌”が大きな役割を果たす、斬新なシステムのRPG。作中歌の多くも彼女が手掛けています。

フルコーラスでは、まずイントロで主題といえるコーラスが流れ、1コーラス目のサビでは主題コーラスに加えてもう一つのメロディがコーラスとして合わさります。そしてラストのクライマックスでは、もう一つのメロディの方がソロで歌われ、主題の旋律よりもカウンター・メロディの方がクローズアップされる演出となります。

2つのメロディが拮抗し、やがて逆転する展開はとてもドラマティックです。ニューエイジから民謡風になり、やがてラストにエモーショナルなラストを迎える構成も、まさしく志方あきこの魅力を存分に楽しめる一曲です。ただの癒し系ではなく、ただの民謡系アニソンとも一線を画します。ちなみにコーラスは造語。

 

そして『RAKA』の中でも私が一番気に入ってるのは、壮大なワールドミュージック風のインストからシームレスにつながる「金環蝕」。多彩な打楽器とストリングス、壮大なコーラス。そして勇ましいメロディ。

多様多彩な打楽器の中で一番激しく鳴り響くのは、敢えてのロックドラム。これが超カッコいいです。後半はそれまで伴奏に徹していた弦楽器群が突然暴れ始め、さらにそれを呼び水とするように全体が大胆に転調していく爽快な展開。ちなみにコーラスはスワヒリ語らしいです。うへー。誰も知らないどこかの国へ降り立ったような気分になります。

だいたい多重コーラス系というのはコーラスを主役にして、シンプルなメロディを繰り返しながら薄味のシンセやリズム楽器・ストリングス等で味付けする程度、もしくはバンドサウンドとの融合というパターンが多いのですが、

志方あきこの音楽はそれだけではなく、コーラスとソロの歌唱、そして多彩な楽器と次々とメインが入れ替わり、メロディのパターンもとても多彩です。

 

主役が次々と変わりながらも、山場では一体となって押し寄せる音の洪水。これぞ新境地のクロスオーヴァー。

ABOUT ME
syro
1984年生まれ。生まれも育ちも長崎市です。 2人の子育てが大変なので、夜中にちまちま記事を書き通勤中と昼休みに曲を聴く日々。 趣味はインドア全般。音楽以外では辛麺と洗濯とトライエースと三島由紀夫と遠藤周作が特に好きです。 好きな作曲家はメンデルスゾーンと葉山拓亮。

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