今回紹介するのはイギリスのアーティストPlan B(プランB)の「iLL Manors」。
ショスタコーヴィチの交響曲第7番(レニングラード)の第4楽章の一部をサンプリングしています。
サンプリング部分はこの動画の1:05:15~の部分。第4楽章の前半にあたります。
というよりも、この曲はドイツのアーティストPeter Foxの曲「Alles Neu」がサンプリングしている音源を引用しています。
ドイツのアーティストであるペーター・フォックスが、ロシアのショスタコーヴィチのしかもレニングラードをサンプリングしている事には、明確な社会的メッセージが含まれています。以下の記事で説明しています。
2012年リリースのアルバム「ill Manors」収録。俳優でもあるPlan Bが、自身で監督と出演もしている映画のサウンド・トラックとなっており、作中歌と劇伴音楽が収録されたデラックス・エディション。映画BGMの方も、アンビエントテクノやブレイクビーツ、ストリングスをフィーチャーしたHIPHOP曲、Dead Can Dance風の宗教音楽チックな怪しい曲など良い曲揃い。前半のヒップホップ曲集も練られたトラック揃いです。
同アルバム収録の曲「Playing With Fire」。ヒップホップ組曲とでも言うべき壮大で面白い曲。
こちらは同アルバム収録の、サン=サーンスの『動物の謝肉祭』より「水族館」をサンプリングした曲。
Plan B(プランB)の「iLL Manors」は、ショスタコーヴィチ及びPeter Foxをサンプリングしていながらも、更にブレイクビーツ的なアプローチを加えています。hookの派手なドラムが超カッコいい…。曲だけで言えばPeter Foxよりも良い感じです。
ただヒップホップにおけるサンプリングというのは、いかに意外な音源からイイ感じのトラックを抽出するか、というのが醍醐味なわけで、他人がサンプリングした音源を更に引用するというのは、なんというか面白みにかけます。
その引用に明確な意図があるなら意味もあるのですが、歌詞を見る限りは、あえて「Alles Neu」を絶対に使わないといけないような曲でもなさそう…。政治的なメッセージが中心の歌詞のようですが、主にイギリス政府への批判をロンドン・オリンピックに絡めて歌っているようです。ドイツ人が「レニングラード」をサンプリングした事に対して、イギリス人として自分なりの見解を歌っているようなものであれば十分意義深いサンプリングなのでしょうが…。
単に社会的なメッセージを込めている、という箔付けとして「Alles Neu」を引用しているだけであれば動機としては弱いです。隠れた名曲を世に広める、という引用もありますが、「Alles Neu」も十分ヒットした曲なのでそれもちょっと当てはまりません。もっとちゃんとした意図があるのでしょうか。
しかしとにかく曲がカッコいい。クラシック×テクノ×ヒップホップの名曲です。テクノサウンドメインでオリジナリティの高いhookから、最後に原曲のストリングスに戻って余韻を残すアウトロも完璧。深く考えず、素直にイイ感じのトラックに耳を傾けるが吉です。
[…] […]
[…] […]