のだめカンタービレ
「のだめカンタービレ」は、ピアノの才能あふれるのだめと、音楽一筋で指揮者を目指す千秋が、なんやかんやでくっついて音楽家としても成長するというお話です。
「のだめ」は独創的で才能があるけれど『音楽に正面から向き合わない』。子供のころから厳しい先生にスパルタされて、とにかく自由に弾きたいと感じている。感受性がとても豊かで耳も良く手も大きいので、音楽理論を知らず、作曲家の知識もなく、楽譜が読めなくても通用するレベル。ただそのせいで演奏スタイルは賛否両論あり。
また曲の解釈もセンスは良いものの、予備知識がなく独りよがりなため独創的で一方的な解釈になりがち。また自身の経験を元に解釈するが、人生経験もまだ未熟なため理解できない感情表現も多い。そのため曲の解釈が「的外れ」になる事もしばしば。
今後オーケストラと上手く共演するためには、音楽の知識と周囲の音を聞きながら演奏する事が重要。
「千秋」は理論的で音楽に対しては努力家だが、『人間と正面から向き合わない』。音楽一筋の父親に放置されて育ち、自信も音楽浸けの日々を送ってきたため、恋人とも続かず、独りよがりで独善的な指揮が目立つ。人の気持ちを考えられず「的外れ」になる事もしばしば。
今後オーケストラと上手く共演するためには演奏者の声や思いを聞きながら、心をつかむ事が重要。
のだめは千秋に一目ぼれし付け回す。また千秋も、のだめのピアノに一目ぼれして留学に誘ったり何かと世話を焼く。千秋はのだめのピアノの実力は認めるが、のだめの想いには中々向き合おうとしない。そのためのだめも千秋に認められるために、また音楽を通してしか千秋と通じ合えないために「千秋と一緒に留学」「千秋との協奏曲での協演」を目標にピアノを頑張る。
のだめと千秋は対照的だが、どちらも違った意味で「公私混同」しており関係性が不安定。またそれぞれ未熟な部分があるゆえに、音楽家としても一個人(恋愛)でもうまく行かない。
のだめは千秋やピアノの先生を通して、楽譜を通じて作曲家とコミュニケーションをとる事を学び、それにより音楽の奥深い楽しみを知る。
千秋はのだめやその友達、個性の強い楽団、指揮者のシュトレーゼマンを通して生身の人間と触れ合い、人としてコミュニケーションをとる事を学び、それにより指揮者としても成長する。
そんな中、千秋は他の女ピアニストと見事な協奏曲を奏でる。千秋と音楽家としてベストパートナーになれば結ばれると思っていたのだめは、不安と焦りが募り千秋にプロポーズするが、はぐらかされる。
のだめはまだ純粋に音楽に触れる楽しみに目覚めておらず、千秋はまだのだめを一人間として(ピアノ抜きにして)大事にしている事を伝えていない。この二つの理由から、のだめは千秋と結婚する事で音楽から逃げようとし、千秋はプロポーズを無視する事でそれを留め、またのだめの気持ち、自分の気持ちから逃げようとする。自暴自棄になったのだめはシュトレーゼマンと初の協奏曲を演じる(音楽的な浮気)。超一流の指揮者と共演し、「千秋を裏切った罪悪感」「これ以上の演奏はできない」「千秋との共演がこれよりショボかったら千秋への思いも覚めるかもしれない」という思いからピアノを辞めようとするのだめ。
千秋はついにのだめの気持ちに正面から向き合い、「ピアニストじゃないのだめでも良い。一緒にいたい」と決心する。その直後、のだめのピアノ演奏に感動した千秋はのだめと連弾をする。連弾を通して千秋ののだめへの想いは伝わり(のだめの感受性は天才レベル)、のだめも音楽の楽しみを再認識する。結果二人は結ばれ、のだめもピアニストになる決意を固める。めでたしめでたし。というお話。
感想
ラストがすごく良かった。千秋が、のだめの事を”音楽の才能に関係なく”一人の人間として好きである事を認め、プロポーズを受ける決意をするのだけれど、結局その直後にのだめのピアノに魅せられて「やっぱり協奏曲やろう」⇒「ピアノの連弾」⇒フィナーレ という展開が興味深い。音楽を抜きにして相手を認める決意をしたけれど、結局音楽の魅力に憑りつかれ、音楽によって繋がってしまう二人の業?のようなものが感じられる。
また、のだめがずっと夢見ていた「千秋との協奏曲での協演」が結局最後まで実現しなかったこともパッと見不完全燃焼なんだけれど、そもそものだめが協演を夢見ていた理由のひとつが「ピアニストとして成功しなければ千秋とは一緒にいれない状態だった」事であるので、それが解決した以上”二人での協奏曲”の実現はそこまで重要ではない。
またシュトレーゼマンと共演した事で、まだまだ凄い音楽家は他にもいる事を知り、現時点ではおそらく最強パートナーではない。音楽家としてもベストパートナーになることは今後の目標だけれど、お互い自分の欠点と向き合うことができるようになった事が重要なのであって、やはり協奏曲はそこまで重要ではない。成長したとはいえまだまだ未熟な二人という描写もあり、あえて実現させなかったことで残る余韻や趣もある。
千秋ものだめも、こんな偏ったスペックになってしまったのには幼い頃のトラウマがあり、また途中にもなかなかそれに向き合えない描写がちょこちょこ出てくるんだけれど、どれも深く掘り下げず、またすぐギャグに覆われてしまうのであっさりしている。それがまた良い。
ギャグ&エンターテインメントの中に明確な構図が込められており、一本芯の通っているこれは良いマンガ。
主題
作品全体のテーマは
「価値観の違いによるすれ違いはあるけれど、逃げたりせずに相手を理解しようと正面から向き合う事が大事」
「音楽って素晴らしい」
「人間として成長する事で音楽家としても成長する」
「人それぞれ様々な生き方がある。自分とは違うからこそ惹かれる」
あたりでしょうか?もうちょっと深く掘り下げられそうなんだけど、とりあえずここまで。
ちなみにTVアニメの主題歌は、作中で演奏されるクラシック曲のカバー曲となっています。以下の記事で紹介しています。対照的な2曲ですが、どちらもとても面白いカバーに仕上がっています。
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