その他編

SixTONES「NAVIGATOR」の分析・考察 ~二つの「NAVIGATOR」の動機から~

歌詞の概要

初めに歌詞の概要を掴みます。

・前例やマニュアルによって、画一的に生き方や行動が決められてしまう現状がある

・それを打破するためには、未踏の闇の中を進まなければいけない。その先に光はある

といった内容です。

歌詞のキーワードは「light」「ray」でしょう。重要な場面で登場し、作品のメッセージを象徴するワードです。聴き手はSixTONESメンバーに鼓舞され、道なき闇の中に存在するであろう、新しい光の道を開拓する勇気をもらう事になります。

 Aメロ

Aメロは矢継ぎ早に繰り出される複雑でリズミカルな符割りの歌メロが印象的ですが、バックでリズムの動機が流れています。またAメロ最後の「Clicks and clicks Turns round and round」の部分でメロディの動機が登場します

 

Aメロの歌詞の主体はNAVIGATORであり、「NAVIGATORが閉鎖的&画一的な世の中を憂い、聴き手に対して疑問を投げかけている」という状況になります。疑問文から始まり「Hey!」の呼びかけで終わる所からもそれが解ります。「つまんない世の中だなぁ、そう思うだろう?どうなんだいYOU!ヘイ!」みたいな感じです。

Aメロのラストでメロディの動機を出すことで再びNAVIGATORの存在を強調させたうえで、「Hey!」の掛け声を機に、一旦NAVIGATORの存在は消え去りBメロに突入します

※脱線しますが、私はこのAメロの折り返し地点で一回半音下がる移調をする展開がとてもスリリングで大好きです。初聴の時、この部分で名曲を確信しました。

Bメロ

Bメロは、曲全体で唯一NAVIGATORの動機が全く登場しないパートになります。

曲調自体も他のパートと比べて音数が減りトーンダウンします。またリズム楽器が消え去る事で宙に浮いたような雰囲気を出しています。NAVIGATORが存在しない事による、閉塞感や不安感・停滞感を表現しています。

BメロはNAVIGATORが不在のパートであり、歌詞の主体は聴き手(もしくは一般人)となります。「だってイノベーションしたくとも、周りが足を引っ張るんだ」という内容です。

 

Bメロラストの「疲れた迷い子のシンパシー」の部分は、メロディの跳躍を繰り返すという意味ではNAVIGATORのメロディの動機の形に似ています。しかし跳躍を繰り返しながらも変化していくNAVIGATORの動機とは対照的に、ここのメロディは同じファ♯⇔ミを行ったり来たりするだけです。革新性の無い、繰り返すだけの現状を表現しています。それを裏付けるように、この部分のバックでは奈落へ落ちていくように下降する弦楽器の音色が奏でられます。

しかし、そんなマンネリズムの奈落から抜け出せない迷い子を救い出すように、Bメロのラストで光明が現れます。それが、「Hey You!」の掛け声そしてファ♯⇔ミの無限ループ地獄から抜け出すように一音だけ浮上する“ソ♯”の音です。

 

このBメロの最後の最後に鳴らされる“ソ♯”の音というのが超重要です。というのも、ここに来るまで、Bメロの最高音はファ♯であり、ソ♯は勿論、それより高い音も全く登場しません。

そして“ソ♯”というのは、NAVIGATORのメロディの動機の一音目なのですね。

つまりNAVIGATOR不在であるBメロの最後の最後で、停滞し浮上できない聴き手を救い上げるように、NAVIGATORの存在“ソ♯”によって一瞬だけ示唆されるのです。ここが超鳥肌。ホント良くできてる。

そして、そこから続く怒涛のサビは、満を持してソ♯から始まります。

 

サビ

ここまで読んだ皆様であれば見当がつくと思われますが、楽曲のピークを迎えるサビでは満を持してNAVIGATORの動機が二種類とも登場します。もちろん歌詞も、NAVIGATORにより光が示され、希望に満ちたものになります。

サビ冒頭のメロディは一見NAVIGATORのメロディの動機とは異なりますが、ここまでの流れを踏まえて聴けば、ピンとくるでしょう。サビ冒頭のメロディも、NAVIGATORの動機の変型となっています。↓の青の音符の部分。

メロディの動機

サビ冒頭のメロディ(メロディの動機の変型)

 

そしてサビ後半の最も盛り上がるであろう部分。「疑えるか 見慣れたNAVIGATOR」という歌詞に続いて、NAVIGATORの動機を、シンガロング(「オーオー」と、歌手と聴き手が一緒に合唱)する事になります。

NAVIGATORと聴き手が一体となる瞬間です。ファンの皆さんが先導者であるSixTONESと一緒に新世界へ飛び立つ瞬間です。もちろんバックではリズムの動機が力強く打ち鳴らされます。

なんか宗教っぽい表現になってしまいましたが、芸術作品やアイドルシーンなんて宗教と似たようなもんです。遠慮なく闇の向こうにあるカタルシスへ誘われましょう。

 

2番以降

2番以降も聴き手の予想を裏切るようなドラマティックな展開となります。

この予定調和を崩す展開というのも、楽曲のテーマ(前例に倣うな・他人の轍を踏むな)を体現したものなのでしょう。

しかし意外な展開を見せながらも、やはりBメロ以外のパートはどこかで二つの動機のどちらかが登場しています。「NAVIGATOR」の動機が楽曲全体に統一感を持たせているために、あまり散漫な印象は受けません。

 

後半で再登場する「PITCHED UP」の台詞に関しても触れておきます。「PITCHED UP」の直前のラップパートで鳴り続けていたメロディの動機は、途中で一旦消え去ります。その後、「道無きを誘う」という歌詞から「PITCHED UP」の台詞とともにリズムの動機が登場し、そこから「Hey You」⇒サビと続く流れとなります。

それを踏まえると、やはり「PITCHED UP」=「到着したよ」=「道無きを誘う真のNAVIGATORの登場」という解釈が妥当かと思われます。

 

1番と2番がほぼ同じような内容を歌っている事・「PITCHED UP」が2回登場している事を考えると、曲中で何度か場面転換が成されているのかもしれません。”日本中に存在する迷い子たちを、次々と救って回っているNAVIGATOR”という感じでしょうか。

アウトロ

「NAVIGATOR」のアウトロは、意図的にNAVIGATORの動機を少なくしているものと思われます。

アウトロのストリングスは、サビ後半のシンガロングの部分を流用しています。つまり、アウトロに合わせてメロディの動機を再びシンガロングさせても、違和感なく成立するわけです。むしろその方が盛り上がるでしょう。

 

そこをあえて二つの動機を消してアレンジされています。

これはおそらく「NAVIGATORとの別れ」を表現しているものと思われます。

 

今まで示した通り、この曲のメインテーマは「自分で道を切り開け」といった内容です。NAVIGATORに付いていくだけの後追いになってしまっては、曲のメインテーマから逸脱してしまうのです。そのため、NAVIGATORに背中を押された後は、彼らとは別れを告げ、自分の力で進まなければいけません。

 

曲のラストでは最後にメロディの動機が再現され、「限界なんてない、恐れるんじゃない」というメッセージが歌われます。これが「NAVIGATOR」が去り際、最後に告げたメッセージという事になります。

曲が終わり、NAVIGATORの動機も聞こえなくなり、NAVIGATORが居なくなった後も、そのまま道なき道を恐れずに突き進め、という事です。

2020年リリース。

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ABOUT ME
syro
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syro:生まれも育ちも長崎市です。二児の子育て中。 趣味はインドア全般。音楽以外ではスマホ収集とトライエースと三島由紀夫と遠藤周作が特に好きです。 好きな作曲家はメンデルスゾーンと葉山拓亮。

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