フランスのオーケストラメタルバンドDreamslave。彼らの楽曲「Angel Requiem」は、モーツァルトのオペラ《魔笛》の中の一曲、「夜の女王のアリア」をモチーフにしています。ドラマティック&シンフォニックな名曲です。
2015年リリース後、2019年にメジャーレーベルから再発された1stアルバム『Rest in Phantasy』収録。
公式YOUTUBEチャンネルに「Angel Requiem」のライブ映像がUPされていました。オペラのような男女の掛け合いがいい感じ。高音も良く出ています。
歌詞は人間と天使の恋愛を描いているようで、男性ヴォーカルが地上で苦しむ人間を、女性ヴォーカルが天使を演じています。合間に入る合唱は、どうやら禁断の愛を糾弾する他の天使たちを演出しているようです。
「Angel Requiem」はキリスト教をモチーフにしており、「Torments」「Requiem」等の単語も登場するため、おそらく同アルバム収録の楽曲「Torments」と対応した曲になっているものと思われます。

モーツァルトの原曲はこちら。引用部分は2:00~。後半のコロラトゥーラのメロディ。
この「夜の女王のアリア」、正式なタイトルは「復讐の炎は地獄のように我が心に燃え」というもので、夜の女王が娘に対して宿敵の殺害を指示するという凄絶な曲です。
そんな燃え盛る復讐心を表現している楽曲なのですが、前半の有名なコロラトゥーラの部分(上記動画の0:40~)はヘ長調になっており、歌詞の内容とは裏腹に明るく華やかな雰囲気を纏っています。
一方Dreamslaveの「Angel Requiem」で引用している部分では、ヘ長調の平行調であるニ短調に移調されており、ヘ長調のパートと近い音色を奏でながらも、対照的に悲劇的な雰囲気を醸し出しています。
この平行調への変化というのは、クラシックでもポップスでも頻繁に使用される手法です。クラシックでは展開部や第2主題で平行調に転調したり、ポップスではAメロとBメロが平行調の関係にあったりする事が多いです。
明るい雰囲気⇔暗い雰囲気という対照的な要素と、調号が同じで音色やコードも似ているという類似的な要素を併せ持った関係にあります。
今度は「夜の女王のアリア」と「Angel Requiem」の歌詞を比較してみます。
「Angel Requiem」では「私の愛は私の翼を燃やしてしまうでしょう」と歌っており、原曲では復讐心を炎に例えていたのに対し、「Angel Requiem」では強い愛情を炎に例えています。
復讐心を歌っているのに明るく華やかな曲調である「夜の女王のアリア」。
愛情を歌っているのに暗く悲劇的な曲調である「Angel Requiem」。
それぞれの曲が平行調の関係にあるのと同じように、共通点を持ちながらも対照的な内容の歌詞となっています。
そしてそれはおそらく、物語の結末をも暗示していると思われます。「夜の女王のアリア」では、結果的に彼女の復讐は叶わず、ラストでは夜の女王たちは敗北し、光が打ち勝つハッピーエンド的なラストになります。
一方で「Angel Requiem」のラストでは、「愛の炎が翼を焼き尽くし、全て塵となる」と描写されており、悲劇的な結末を迎えます。