グノー

操り人形の葬送行進曲/EMINEM「Alfred’s Theme」

アメリカのHIPHOPアーテイストEMINEMの楽曲「Alfred’s Theme」。シャルル・グノーの「操り人形の葬送行進曲」をサンプリングしています。

2021年リリースの『Music To Be Murdered By – Side B』収録。前年リリースの『Music To Be Murdered By』のボーナスディスク的扱いにあたります。といっても16曲の大ボリューム。

 

EDMやミクスチャーサウンドなどの音楽性の変遷を経て再び辿り着いた、前々作『kamikaze』・前作『Music To Be Murdered By』同様の流れを汲んだ原点回帰的トラックが並びます。これまた前回同様、作品に関する事前告知全く無しのサプライズリリース。

 

キックやベースこそ最近の流行の音作りをしているトラックが多いですが、全体的には些か”古い音”という印象を抱いてもおかしくない『Music To Be Murdered By』シリーズ。しかし本作品のコンセプトを踏まえると納得の出来です。

 

本作品の理解のためには、アルフレッド・ヒッチコックの事を把握しておく必要があります。いわゆるサスペンス・スリラー映画のパイオニア的映画監督です。

そんなヒッチコックが、映画音楽を主に手掛けていた作曲家ジェフ・アレクサンダーと共に1958年に発売した音楽作品が、EMINEMのアルバムと同タイトルの『Music to be Murdered By』となります。EMINEMの作品は、そのヒッチコックの作品にインスパイアされて制作されており、ジャケットやサンプリングネタなど、随所にオマージュがみられます。
こちらがヒッチコック&アレクサンダーによる『Music to be Murdered By』。

 

そんなドープ&ちょっと怖い雰囲気な本アルバムの中でも、とりわけ目立っているのが「Alfred’s Theme」です。この曲でサンプリングしているグノーの『操り人形の葬送行進曲』も、ヒッチコックへのオマージュになっています。

 

グノーの原曲はこちら。初めはピアノ曲として作曲され、後にオーケストラ用の編曲が成されました。グノーはフランスの作曲家で、バッハの曲を基にした「アヴェマリア」、オペラ《ロメオとジュリエット》《ファウスト》等が有名です。

操り人形が主体となった曲です。「①仲間の人形の一体が死ぬ⇒②葬儀の行進が始まる⇒③途中で食事に立ち寄る⇒④再び葬列に戻る」というストーリーを、①序奏⇒②主題⇒③中間部⇒④再現部」 で表現しています。コミカルと哀愁。表題通りの雰囲気が良く出ています。凄い。

 

この「操り人形の葬送行進曲」、1960年頃に日本でも放映された、ヒッチコックのプロデュースによるアメリカのミステリー番組《ヒッチコック劇場》のテーマソングとして使用された事で有名になったそうです。

EMINEMの「Alfred’s Theme」は、こちらの音源をサンプリングしています。先ほど紹介したヒッチコックのアルバムにも、別バージョンが「Alfred Hitchcock Theme」のタイトルで収録されています。


シンプルな行進曲だった原曲と比べて、打楽器や管楽器が増えてシアトリカルになっています。

 

EMINEMの「Alfred’s Theme」は、「操り人形の葬送行進曲」をサンプリングしつつも、エレクトロ風の低く響くキックを乗せて、リズムは偶数拍を強調したブラックなものになっています。古い音楽、新しい流行音楽、そしてEMINEM自身の不変なスタイルをそれぞれミックスした楽曲です。

 

リリックはヒッチコックに関する事・コロナ関連・ビリーアイリッシュへのアンサー等がメインです。

ビリーアイリッシュに関しては、彼女が子供の頃EMINEMの曲を怖がっていたというコメントに対して触れているわけですが、今回の作品はそもそも”スリラー的なもの”がコンセプトなわけで、今回も完全に怖がらせに来ています。

 

グノーの原曲では人形たちの葬列を主題で表現しているわけですが、その主題を延々とループさせるEMINEMの「Alfred’s Theme」は、原曲の趣旨を踏まえると「永遠に終わらない葬列者達の行進」を表現していると解釈する事もできます。

 

何気に序奏でいきなり人(人形)が死ぬのもグノーの原曲と同じです。

コミカルな雰囲気とホラー、そしてEMINEMのいつもの世界観を混在させた、不思議な魅力の一曲です。ちなみに楽曲プロデューサーは「Lose Yourself」と同じLuis Resto。

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1984年生まれ。生まれも育ちも長崎市です。 2人の子育てが大変なので、夜中にちまちま記事を書き通勤中と昼休みに曲を聴く日々。 趣味はインドア全般。音楽以外では辛麺と洗濯とトライエースと三島由紀夫と遠藤周作が特に好きです。 好きな作曲家はメンデルスゾーンと葉山拓亮。

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