韓国のシンフォニック・ゴシックメタルバンドISHTAR(イシュタル)。
ヘンデルのオペラ《リナルド》のアリア「私を泣かせてください(涙の流れるままに)」をシンフォニックメタルアレンジしたカバー曲、「Lascia Ch’io Pianga(Let Me Weep)」を紹介します。
2015年のアルバム『Rise』収録。
2014年リリースのEP『Center of Your Soul』にはインストバージョンも収録。インストも良いです。
ヴォーカルのBinna(キム・ビンナ)はオペラ歌手を目指して声楽を学んだ経験もあるとの事で、NIGHTWISH的なオペラティック歌唱です。
Nightwishと違う点は、ケルト民謡要素が無く、なんとなくアジア的哀愁がある点(アジア民族楽器とかを使ってるわけではありません)・バラードは少なく、しばしばバスドラ連打も登場する点・リズミカルなコロラトゥーラなどボーカルの技巧の見せ場が多い点辺りでしょうか。
こちらは1stアルバム『Conquest』収録の「Navy Forest」。ISHTARの楽曲の中でもとりわけドラマティックな曲。
2ndアルバム『Rise』に比べるとチープなサウンドプロダクションですが、これはこれで魅力的です。
結果的にNightwishをより聞きやすく、シンプルなシンフォニックメタルにしたような印象です。どちらかというとNightwishよりもXandria寄り。
バンドサウンドやオーケストレーションも地味というわけではないのですが、Nightwishのように印象的なフレーズをバンバン繰り出すというよりは、歌メロを邪魔しない堅実なアレンジで、あくまで伴奏に徹している感があります。(メンバーの力量に因るものもあるのかもしれませんが…。)
5分程度の曲が多く、派手なギターソロや冗長なインストパートなどはほとんどありません。ボーカルがサウンド面で明確に主導権を握っているという点で個性があります。
ボーカルもあくまで楽器隊の一部、という交響曲的なアレンジのNightwishに対して、このIshtarはあくまでボーカルが主役で楽器隊は引き立て役に徹するという協奏曲的な組み立て方になっています。
このISHTAR、NIGHTWISHを脱退した元Vo、ターヤ・トゥルネンの来日ライブで前座を務めたとの事ですが、こういった音楽性を鑑みるとターヤに抜擢された理由が良く理解できます。
こちらはそんなISHTARの曲の中でも異色な「Gates of Ishtar」。2ndアルバム『Rise』の一曲。
かなりオペラに寄せた、歌いながら喋るような歌唱を披露します。そして曲の中盤では、特にバロック時代のオペラやオラトリオに頻出するレチタティーヴォ(曲の合間に挿入される短い語りのパート)まで登場します。ここまでオペラに寄せたシンフォニックメタルは聴いた事が無い。NightwishとSoundhorizonを混ぜたような凄い曲。
ヘンデルの原曲「私を泣かせてください(Lascia ch’io pianga)」はこちら。ヘンデルのアリアの中でも最も有名な曲と言えます。
引用部分は、レチタティーヴォ(曲の合間に出てくる短い語り)の後、0:45~からの部分。