イギリスのプログレッシブ・ロックバンドEgg(エッグ)。
デビューアルバム『Egg』の中の一曲、「Symphony No. 2」でグリーグの組曲《ペールギュント》の「山の魔王の宮殿にて」と、ストラヴィンスキーの《春の祭典》を引用しています。
1970年リリース。
Eggはキーボードの音色が印象的な、有名バンドでいうとELPに近い作風のバンドです。活動時期もおおよそ重なります。ELPに比べると、ややジャズ的なクールさやスピード感のある曲が多いです。ジャズ風プログレロックといってもキングクリムゾンのような路線ではなく、ELP×トリオ・ジャズ的な様相を呈しています。
聴きやすく、且つしっかりとプログレしています。知名度はあまり高くないバンドですが、お勧めです。
「Symphony No. 2」は、アルバムのラストに収録されている、20分に渡るインスト曲です。全4楽章から成ります。全体の雰囲気としては「恐怖の頭脳改革」のような感じ。中盤の前衛的なキーボードソロが冗長に感じますが、インパクトのあるキラーフレーズも多く、名曲です。
第1楽章は、ゲーム音楽のようなキーボードの冒頭部を経て「山の魔王の宮殿にて」を引用したフレーズが登場し、その後もテンポの速い緊張感のあるプログレ・アンサンブルが繰り広げられます。
第2楽章は《春の祭典》の一曲「春のロンド」が引用されています。この原曲動画の9:20~の部分。
前衛的なキーボードソロを経て、《春の祭典》で最も有名な曲である「春のきざし(乙女たちの踊り)」を引用した第3楽章です。原曲よりもテンポが落ちている上、バンドサウンドにて再現しているため一見解りにくいです。
ラストの第4楽章は各楽器の見せ場が満載の変拍子パート。かっこいいです。ラストは余韻を残さず唐突に幕を閉じます。
同じアルバムに、もう一曲クラシックカバー曲が収録されています。こちらの記事で紹介しています。
《春の祭典》を引用した曲は珍しいので、少し《春の祭典》の話をします。
春の祭典
《春の祭典》はストラヴィンスキーの代表的なバレエ作品の一つです。タイトルとは裏腹に不穏な雰囲気の曲ですが、大筋としては”神の怒りを鎮めるために生贄に選ばれた女性が死ぬまで踊り続ける”という何とも…な話です。ロシアの原始宗教をモチーフにしていると言われており、現代人がイメージする”祭典”ではなく、宗教的儀式をテーマにしています。
何と言っても、何とも言えない不穏なフレーズで始まる、2曲目の「春のきざし(乙女たちの踊り)」が有名です。
現代バレエでは独自の解釈を施した演出が多いですが、やはり初演のニジンスキーの演出が一番作者の意図に沿っており、音楽の雰囲気に合った演出と言えます。モダンバレエでは無闇にエロに走ったりするのですが、この音楽には合わない…。
ダンスや衣装のクオリティが低い・地味・などの意見もありますが、やはりこの音楽にはこの振付が一番合っています。おススメ。
私のお気に入りのDVD。一緒に収録されている《火の鳥》も、演出的にも音楽的にも華やかで美しいです。
ちなみにディズニーの映画「ファンタジア」でも《春の祭典》が使用されています。こちらでは、原曲の中で不思議なタイミングで鳴らされる様々な”音”に合わせてアニメも動く、とても楽しい演出になっています。原作の解釈とは全く異なる演出ですが、これはこれで楽しいです。
現代音楽あるあるの”変なタイミングで鳴らされる変な音”の一つ一つに意味を持たせた演出は斬新。現代音楽入門にお勧めなファンタジアです。