複数曲を引用した曲

イヤホンズ「ヨロコビノウタ」

高野麻里佳・高橋李依・長久友紀の3人の声優による音楽ユニット、イヤホンズ
今回紹介する楽曲「ヨロコビノウタ」は数多くのクラシックのメロディを使用した楽曲です。

2016年シングル『予め失われた僕らのバラッド』及び、2018年の2ndアルバム『Some Dreams』に収録。

 

「ヨロコビノウタ」は軽快でキャッチーなパンク調の楽曲となっていますが、一曲全てがクラシックのメロディで成り立っています。

歌い出し&イントロ:ノクターン第2番(ショパン)

Aメロ:カノン(パッヘルベル)

Bメロ:G線上のアリア(バッハ)

サビ:メヌエット(ペツォールト)

間奏:《カルメン》より闘牛士の歌(ビゼー)

Cメロ:ウイリアムテル序曲(ロッシーニ)

Dメロ:《メサイア》よりハレルヤ(ヘンデル)

サビ:メヌエット(ペツォールト)

大サビ:歓喜の歌(ベートーヴェン)

と、目まぐるしく次々と有名なクラシック曲の旋律が登場します。しかし継ぎ接ぎ感というよりは”転調や曲調の変化を繰り返すポップソング”という印象を受ける、とてもキャッチーな一曲に仕上がっています。

同じバロック時代に作られ、同じニ長調である「カノン」「G線上のアリア」をあえて繋げて使用する事で違和感ない歌メロに仕上げるアイディアや、ラストの大サビに《歓喜の歌》を持ってくる構成なんかお見事です。

作曲を担当したエンドウ.は、GEEKSというバンドの中心人物ですが、彼らの作品にクラシック曲をパンクサウンドでカバーしたインスト作品《PUNKLASSIC》というのがあります。この作品が「ヨロコビノウタ」のベースにあるものと思われます。

2011年リリース。

 

 

イヤホンズは現在3枚のアルバムをリリースしており、初期の楽曲はスタンダードなアニソン・声優ソングの範疇のものですが、2ndアルバム『Some Dreams』から、□□□(クチロロ)の三浦康嗣や月蝕會議の提供曲を始めとして、”作家の個性”と”声優ユニットという個性”を活かした独自路線でハイクオリティな楽曲が増えてきています。

それによってマニアックな曲も増えていきますが、声優ユニットである故の解りやすいキャッチーな歌声がそれを薄めており、アニソン・キャラソンの延長線のような印象を受ける、聴きやすいポップな仕上がりになっています。

それでいて、それぞれの作家は自分の個性を十二分に発揮するため、楽曲毎の振れ幅も凄い事になります。

そういう意味ではももいろクローバーZのような作風ともいえます。と思ったらイヤホンズも、ももクロと同じEVIL LINE RECORD所属なのですね。道理で。

 

こちらは2ndアルバム『Some Dreams』の、J・A・シーザー作曲「ウィッチクラフト 《テオフィルの奇蹟》」。J・A・シーザー節大炸裂の、グロテスクなゴシック・プログレ。こんな曲に未成熟でアニメチックな歌声を合わせるという所に個性があります。B級ホラーのようで逆に怖い。

 

こちらは3rdアルバム《Theory of evolution》収録の「記憶」。様々な生活音をサンプリングした、ポエトリーリーディングのようなドラマCDのようなHIPHOPのような不思議な雰囲気の曲。□□□×声優ユニットとなれば、確かにこうなるけれど、実際に出来上がった楽曲を聴くとやはりオンリーワン。トラックのクオリティが凄いです。

 

こちらも同じく《Theory of evolution》収録の「循環謳歌」。初めは2声部が互いの余白を埋め合うように掛け合いをする、単なる合唱曲のような様相ですが、サビでは2声部が共に主旋律となり、2種類の主旋律が同時に進行する斬新な構成となっています。

そして終盤では所々で2声部が歌詞・メロディともにシンクロする部分も現れ、「それぞれ全く違う歌を歌っている2声部が、時々ユニゾンする」という凄い展開。もちろんそれでいて歌詞も破綻しないように作られています

2声部が一曲を通してくっついたり離れたりしながら絡み合う、不思議な曲。それぞれの声部は片方だけを抜き取っても一つの曲として成立するように作られており、”2曲を重ねて一つの曲にする”という面白い楽曲となっています。マッシュアップの発展形。
2020年発売の3rdアルバム。【初回限定 進化の過程盤】にはバラバラの2曲「再生」「忘却」もそれぞれ収録されています。声優ファンを音楽ファンに変える可能性・力をもった一枚。

 

ちなみに同じようなコンセプトの楽曲として、スターダスト・プロモーションの男性音楽ユニットBATTLE BOYSの楽曲「Alterity」「Identity」があります。それぞれ違う作家が手掛けた楽曲ですが、2曲を同時再生しても曲として成立するように作られており、歌詞も2曲を合わせると新たな意味が生まれるという凝った作品です。それぞれ違う作詞作曲者でこれをやるというのも凄い。
2019年のシングル『NEXT ZONE』のカップリング曲に「Alterity」「Identity」は収録。
こちらが2曲を合わせた「Our Story」。

 

もう一曲、子ども向け特撮ヒーロードラマ『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』のOPテーマ「ルパンレンジャーVSパトレンジャー」。

ビッグバンド調のルパンレンジャーテーマソング「ルパンレンジャー、ダイヤルを回せ」・ダンサブルなパトレンジャーテーマソング「Chase You Up!パトレンジャー」の全く違う二曲が重なり合わさっています。2組の戦隊が対立する様を音楽で表現した、超斬新な楽曲。


分裂した2曲もまとめて収録したCD。

ABOUT ME
syro
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syro:生まれも育ちも長崎市です。二児の子育て中。 趣味はインドア全般。音楽以外ではスマホ収集とトライエースと三島由紀夫と遠藤周作が特に好きです。 好きな作曲家はメンデルスゾーンと葉山拓亮。

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