今回紹介するのはフランスのブラックメタルバンド、MYSTIC FORESTのアルバム『Romances』。クラシック曲を随所に配置した、意欲的な作品です。
2004年リリースの4thアルバム。3rdまではサブスクや配信リリースもされているのですが、この作品はフィジカルのみ。
冒頭から激しいメタルギター&ベートーベンの月光第3楽章のようなピアノをバックに女性による語りが入り、やがてアコーディオンまで参戦。そしてブラストビート&デスヴォイス。
のっけから美と混沌のダブルパンチにノックアウトされます。
その後もディストーションギターあり、シャウトあり、ブラストビートありのブラックメタルサウンドの中に、美しいピアノのアルペジオやフルートの抒情的な音色等が混ざり合います。
そしてそんな楽曲達の合間合間に突然静寂が訪れ、雨音と一緒にノクターンの旋律が奏でられます。しかしそんな静寂も束の間、すぐに再び暴虐の渦に飲み込まれて行きます。
ショパンのノクターンは、アルバム中に第1番、第2番、第20番、第15番、第21番の順で計4回挿入されます。
全部で21曲あるショパンのノクターン(夜想曲)ですが、そのうち特に有名なのは第2番と第20番。それに加えて、物悲しく美しい旋律の第1番と第15番・第21番が使用されています。どれも良い選曲。
そしてアルバムの終盤では、ブラックメタルサウンドとクロスオーヴァーするようにパスピエの旋律が混ざり合います。ここが超クールです。
ドビュッシーのベルガマスク組曲といえば、第3曲の「月の光」が有名ですが、今回使用しているのは終曲である第4曲「パスピエ」。これもドビュッシーの中では比較的馴染みやすいメロディの曲です。
アルバム全体を通して美と醜のコントラストが素晴らしく、エモーショナル&メロディアスなフレーズも随所に登場し、作者のブラックメタルに対する美学を強く感じます。メタルのパートも爆走一辺倒ではなく、メリハリがあります。
ショパンは個人的に普段はあまりツボらないのですが、この作品中で流れるショパンの旋律は、確かに私の胸を打ちました。
普段ブラックメタルはちょっと敬遠しがちな私なのですが、このアルバムはとても気に入りました。なかなか敷居が高いブラックメタルの世界ですが、これを機会に、皆さんもちょっと深淵を覗いてみてはいかがでしょうか。