モーツァルト

歌劇《イドメネオ》 より「オレステスとアイアスの苦悩を」/Aesma Daeva「D’Oreste D’Aiace」

オペラチックな女性ヴォーカルを擁する、アメリカのシンフォニックメタルバンドAesma Daeva

モーツァルトオペラ《イドメネオ》のアリア、「オレステスとアイアスの苦悩を」をシンフォニックメタルアレンジにてカバーしています。

 

原曲をなかなか忠実にメタルアレンジしていて、結果的にプログレメタル然とした曲調になっています。終盤が激エモです。もうちょっと大仰なアレンジでも聴きたかったけど、とにかく選曲が最高です。

新ヴォーカルを迎えて制作された、2007年リリースの4thアルバム『Dawn of the New Athens』収録。アルバムタイトルを訳すると『新しいアテネの夜明け』となります。バンドはこのアルバムを最後に解散しているようです。

ギリシャを題材としたオペラ・メタル作品という事で、ギリシャのクレタ島を舞台にした《イドメネオ》の引用はある意味必然的とも言えます。ジャケットもクレタ島のクノッソス宮殿っぽい。

幻想的なコーラス・スピリチュアルな雰囲気など、ゴシック/ペイガンメタル的な風合いもあります。他のアルバムはインダストリアルだったりと、楽曲の振れ幅も大きい面白いバンドです。1stアルバムの後半なんてほぼ宗教音楽。

 

モーツァルトの原曲はこちら。カバーされている部分は動画の3:00~の部分。

「エレットラの狂乱のアリア」等と呼ばれる事もあります。敵国同士の王子王女が結ばれる《イドメネオ》において、いわゆる咬ませ犬的なポジションである第三国の王女エレットラ。

そんなエレットラが、結ばれた主人公二人に対して情念を迸らせる激情的なアリア。オペラ終盤の聴きどころとなっています。

どことなく《レクイエム》にも似ています。ラストはメロディアスなコロラトゥーラから劇的なオーケストレーションで幕を閉じます。

オペラ《イドメネオ》の中でもとりわけシリアスでドラマティックな楽曲です。

出ずっぱりでは無いとはいえ、3時間あるオペラの終盤で演技もしながらこんなソロを歌わされるなんて、オペラ歌手は大変です。Aesma Daevaのカバーと合わせて聞くと、プロのオペラ歌手の凄さが伝わります。

 

 

オペラ《イドメネオ》は約3時間あるオペラ・セリア(神話的・貴族的な題材の、シリアスで重厚なイタリアオペラ。《フィガロの結婚》のような、俗世的・庶民的な題材を扱ったコメディータッチで喜劇的な”オペラ・ブッファ”と対比される)です。

オーケストラの音色など、まだバロック音楽の名残も残っていますが、古典派・モーツァルトらしい華やかなオーケストラは健在です。

 

個人的に好きな部分は、第1幕で捕虜の開放を喜ぶ華やかな合唱曲「Godiam la pace, trionfi Amore (Chorus of Trojans and Cretans)」からPieta! Numi, pieta! (Chorus of Sailors)まで。

下記動画の21:20~32:40辺り。エレットラのアリアでは、今回フォーカスした「オレステスとアイアスの苦悩を」と共通する旋律も一部登場します。


それまでのやや退屈な展開から一転し、華やかな合唱曲からエレットラの激情的なアリア、そして船が難破する迫真の合唱シーンへとジェットコースターのように展開していきます。

美しく華やかな楽曲群があるからこそ、短調でシリアスな曲に切り替わる場面がとても映えます。この振れ幅こそモーツァルトの真骨頂。何度聞いても鳥肌が立ちます。突然3拍子になったり曲調が変わったりするのは、まるで今どきのポップスみたい。

 

そして第2幕のクライマックス。主要3人物による三重唱の後、短調で派手なレチタティーヴォをこれまたシリアスな合唱曲で挟みます。めくるめく曲展開。下記動画の1:19:40~1:28:30辺り。

モーツァルトの美しくも激しい旋律を、様々な歌曲の形で楽しめる作品です。

ABOUT ME
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syro:生まれも育ちも長崎市です。二児の子育て中。 趣味はインドア全般。音楽以外ではスマホ収集とトライエースと三島由紀夫と遠藤周作が特に好きです。 好きな作曲家はメンデルスゾーンと葉山拓亮。

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