アメリカのラッパー、Killah Priest(キラー・プリースト)。「Maccabean Revolt」という楽曲で、リストの交響詩「前奏曲(レ・プレリュード)」をサンプリングしています。
2000年リリースの2ndアルバム『View from masada』収録。ストリングスが主役の「Hard Times」、民族楽器の音色が印象的な「Gotta Eat」等、シンプルながらも耳に残るトラックが満載の作品です。
曲名の「Maccabean Revolt」は、マカベア戦争の事を指します。
紀元前にユダヤ人がシリアの宗教弾圧に対して反乱を起こした戦いの事です。
アルバムタイトル『View from masada(マサダからの眺め)』の”マサダ”というのは、ユダヤ人がローマ帝国に対して蜂起したユダヤ戦争の舞台となった遺跡の事であり、宗教及び歴史的なメッセージ性の強い作品となっています。
Killah Priestは”Black Hebrew Israelites”と呼ばれる黒人ユダヤ系グループに属しているとの事で、独特の強い宗教観や、聖書からの引用などが彼のスタイルの特徴です。
リストの原曲はこちら。引用しているのは冒頭の部分。
「人生は”死”への前奏曲に過ぎない」というリストの人生観を表現した曲と言われており、宗教を題材とした作品にふさわしい引用です。
曲全体を聴くと、勇ましさや明るさも感じる曲です。しかし「Maccabean Revolt」は美しい旋律の一部を切り取り、神秘的な雰囲気を作り出しています。とてもセンスの良いサンプリングです。
こちらは同じくKillah Priestによる、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲をサンプリングした楽曲。こっちもセンスの良いサンプリングです。
余談:HIPHOPと宗教
色々調べているうちに、こんな論文を見つけました。リンク先で全文DLできます。
黒人の若者の貧困や治安の悪さなどに対して、教会が彼らを社会的に救済しようとせずに批判する姿勢であったため、若者の教会離れが進む。
やがて若者が支持するラッパーから、HIPHOPを通して教義を説くアーティストが現れ、本来の宗教家の代わりの役割を担っているといった内容です。
教会に見放された、反社会的なゲットーから新たな宗教的指導者が生まれるというのは興味深いです。カルトの誕生のようにも見えますし、ある種の草の根活動とも捉える事もできます。
組織に属さず、勝手に聖書をHIPHOPに翻訳して若者に説法している彼らの事を教会はどう思っているのでしょうか。実際に彼らの活動は若者を救い、社会に良い影響を及ぼすことができているのでしょうか。