10.◎Alight/モーツァルト「トルコ行進曲」
トルコの軍楽リズムを使用しているとはいえ、現代人からすればトルコ感のあんまりない「トルコ行進曲」。そんなトルコ行進曲をベリーダンス的なトルコ民謡にアレンジした上でメタルにしてしまった珍カバー。
しかもその上にLuca Turilli’s Rhapsodyを彷彿とさせるド派手なニューエイジ風シンセと、パワフルな男女二重唱も加わる高カロリーな曲。
トルコ行進曲のメロディをアラビア音階にアレンジして中東感を出している間奏も面白い。
ヴォーカルはTemperanceやMoonlight HazeのChiara Tricaricoと、Myrathというチュニジアのバンドの人。
11.◎The Absolution/ブラームス「交響曲第4番」第1楽章
ブラームスの第4番をメタルアレンジ、意外な選曲だけどとても合っている!斬新!
と思いきや、日本のローカルアイドルが先にやってるんだよなぁ。
原曲のメロディを使用したイントロやサビが美しい、男女Voによる堂々としたミドルテンポのシンフォニックメタル。転調やリズムの変化も所々にあって飽きない。
12.◎Mania/サン=サーンス『動物の謝肉祭』より「水族館」
これまた意外な選曲。メタルの反対側にあるようなキラキラした美しい原曲が、おどろおどろしいメロディック・デスメタルに大変身。
言われてみれば、ピアノのアルペジオが美しいだけで、「水族館」のメロディは結構不穏な感じだな…。
途中に挿入される美しいアンサンブルのパートが、余計に楽曲のシリアスさを際立たせている。
編曲はLuca Basileという方。Mistheriaが手掛けていない曲も多く、それが曲数の多い本アルバムにメリハリを付けている。
13.◎Power Take Hold/バッハ「トッカータとフーガ」(BWV 565)
今度は有名な方の「トッカータとフーガ ニ短調」。イントロ及び間奏のシンセはフーガから、後半のソプラノコーラスはトッカータから引用。間奏のバックでアルペジオを奏でるキーボードもトッカータっぽい。
ソプラノ歌手や合唱を使用し、クリスチャン・メタル風に仕上げている。対旋律を奏でるバイオリンも美しい。
編曲の人はStream of Passionというオランダのシンフォニックメタルバンドをしていたらしい。みんな良い仕事をするなぁ。
14.◎Evolution/フォーレ「パヴァーヌ」
ピアノソロあり、ソプラノコーラスパートあり、メジャーなロックバンド風のパートあり。ピアノと男女のデュエットが美しい、メリハリの効いたシンフォメタル。
イントロ超カッコいい。ピアノエモい。
静謐なコーラスパートからギターソロに突入したり、サビ後半でようやくバスドラ連打を伴い合唱し始める展開もアツい。
原曲のクサさが既に間違いないので、安心のクオリティ。ヴォーカルの力量も高く、言う事ない。編曲は5曲目と同じ人。
クレジットを見ると7人のヴォーカルが参加しており、ソプラノ歌唱も本格的。Aesma DaevaやVisions of Atlantisに在籍していたMelissa Ferlaakの名前も。
ちなみにパヴァーヌのシンフォニックメタルカバーといえば、やっぱり藤澤ノリマサ。
15.The Eye of the Guardian/バッハ「平均律クラヴィーア曲集第1巻」第1番
メジャーポップス系女性ヴォーカルによるゆったりテンポの楽曲で、sweetboxがメタル化したような曲。バックでこっそり流れているピアノのアルペジオも水族館や水の反映・エステ荘の噴水みたいでクラシカル。
16.Deep Core/ジャゾット「アルビノーニのアダージョ」
EDGE OF FOREVERのAlessandro Del Vecchio、SireniaのEmmanuelle Zoldan、そしてマーク・ボールズと豪華なVoメンバーによるメタルバラード。
お葬式の定番曲と言われるアルビノーニのアダージョだけあって、悲愴感のあるメロディが曲のシリアスさを引き立てる。
17.The Empire/ベートーヴェン「ロマンス第2番」
和楽器のようなパーカッションが印象的な、ロマンスらしさが全くないミドル曲。終盤に「ロマンス第2番」を引用した穏やかなパートが挿入される。
誰も参加してないけど、前曲よりこっちの方がSireniaっぽい。
18.Tragic Serenade/シューベルト「セレナーデ」
ピアノ&弦楽四重奏風の暗いバラード。
最後はピアノがニ短調でⅣソ⇒Ⅲファ⇒Ⅱミと降りてきたにも関わらず、そこからⅠの主音レで解決せずに不安定なまま上主音で終わってしまう。目的地へ到達する直前に息絶えてしまったかのような、極めて後味の悪いラスト。
総評
全18曲95分という大作ですが、スラッシュメタルからネオクラ、シンフォメタルにメロデス、パワーバラード等、通り一辺倒ではなくバリエーション豊かなメタルサウンドで意外と飽きない&聴き疲れない。
編曲も中心人物のMistheriaを中心に様々な作曲家が名を連ねており、オーケストラアレンジもシンセ主体のものから生音を使用した音など様々。シンガーも楽曲毎に異なり、オムニバス的な楽しみ方もできます。
選曲はかなり独自性を持ちながらも、半数程度は短調でメロディアスな有名曲をしっかり押さえており、リスナーのツボを押さえていますが、それは裏を返せば過去のバンドが既に使用した楽曲達でもあります。
しかしどのクラシックの引用にも一工夫あり、先達の二番煎じといえるようなカバーや、原曲のメロディの良さでゴリ押しするような楽曲はありません。
総じて、これからのクラシック×メタルの決定盤となりえる1枚。クラシック×メタルには長い歴史があり、その中でエポックメイキング的な価値がある作品は多数ありますが、そういうのを抜きにして純粋に1作品選ぶならこれで良いのでは。
有名フレーズ使いまくりのカバーでは無く、オリジナル要素や、ややマイナー選曲が多いのが唯一のネックというか人を選ぶかも??
前作のレビューはこちら。