ショスタコーヴィチ

交響曲第7番「レニングラード」/Peter Fox「Alles Neu」

ドイツのヒップホップ・レゲエアーティストであるPeter Fox(ペーター・フォックス)。デビューシングルである「Alles Neu」でショスタコーヴィチの交響曲第7番「レニングラード」の一部をサンプリングしています。

 

サンプリング部分はこの動画の1:05:15~の部分。第4楽章の前半にあたります。

全部で1時間以上もある曲の中から、よくこの部分をサンプリングしたなぁという感じですが、この曲をドイツ人が引用するという事には特別な意味があります。

 

ショスタコーヴィチとレニングラード

ショスタコーヴィチはロシアの有名な作曲家です。金管楽器を多用した重厚なオーケストラサウンドが特徴で、また長大な交響曲を多数作曲した事でも有名です。

交響曲第7番(レニングラード)は、そんなショスタコーヴィチの交響曲の中でも最も演奏時間が長い大作です。全4楽章、約80分。

暗い雰囲気を纏いつつも勇ましい管楽器や打楽器はどことなく日本の軍歌を想起させますが、ショスタコーヴィチの音楽にもまた、戦争の影があります。

 

ショスタコーヴィチが音楽家としてデビューした時代は、ちょうどロシア革命によってソビエト連邦が樹立した時期になります。

そして交響曲第7番(レニングラード)を作曲した1942年は、第二次世界大戦の真っ只中です。ソビエト連邦は元々中立の立場でしたが、ナチス・ドイツに侵攻された事をきっかけに、米英と共に日独伊に対峙する連合国に属しました。

その後ソビエト含む連合国は戦争に勝利します。日本に対しては、その時北方領土まで領土を拡大していたかどうかで現在領土問題になっている所です。

 

(レニングラード)というのはソビエトのレニングラード市(現在はロシアのサンクトペテルブルグ市)の事を指しており、以前のロシア帝国の首都でありショスタコーヴィチの故郷でもあります。

そんなレニングラード市は交響曲第7番(レニングラード)を作曲している当時、ドイツのナチス軍との戦いの真っ最中でした(レニングラード包囲戦)。そんな最中に発表された、レニングラード市に捧げる交響曲第7番(レニングラード)は、まさに国家を称賛し、戦争を鼓舞する軍歌的交響曲として市民に支持されました。

 

現在はショスタコーヴィチ本人の戦後証言もあり、ナチス・ドイツのファシズムと、当時のソビエトの全体主義の両方を批判する内容の交響曲であった、という事になっているようです。どっちも市民を弾圧する恐怖政治である事に変わりはなく、我が故郷であるレニングラードを愛し守りたい気持ちから生まれた交響曲、といった所でしょうか。

もちろん戦時中に自国家を批判する音楽だなんて言えるわけないので後証言が有力なのでしょうが、戦後スターリン主義への批判が強くなった事で日和った証言であるとの見方もできなくはありません。本当の所は本人のみが知るところではないでしょうか。

 

ペーター・フォックス「Alles Neu」

とまぁ交響曲第7番(レニングラード)にはこんな作曲背景があります。それを踏まえてドイツのアーティストであるPeter Fox「Alles Neu」のMVを見れば、レニングラードの引用も、猿がマーチングドラムやバイオリンを演奏し、白旗のようなシーツがはためくMVも社会的メッセージが含まれている事は容易に想像できます。

MVの舞台となっているベルリンは、ペーター・フォックスの出身地ですが、第二次世界大戦でソビエトに占領された都市であり、それがドイツ降伏の決め手となりました。またそのせいで、いわゆる「ベルリンの壁問題」が生じる事になります。

 「Alles Neu」収録のデビューアルバム。2008年リリース。アルバム全編に渡ってオーケストラをフィーチャーしており、クラシックとレゲエ/HipHopとの融合を試みた面白いアルバムです。

 

ちなみにこの曲、イギリスのアーティストPlan BとアメリカのロックバンドFall Out Boyに更に引用されています。以下の記事で紹介しています。

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おそらくこの曲も「Alles Neu」のオマージュ。韓国アーティストがサンプリングする事で、全く異なる政治的メッセージを帯びた曲。

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こちらは交響曲第5番をサンプリングした楽曲。同じくショスタコーヴィチ作品の社会的背景が反映されています。

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syro:生まれも育ちも長崎市です。二児の子育て中。 趣味はインドア全般。音楽以外ではスマホ収集とトライエースと三島由紀夫と遠藤周作が特に好きです。 好きな作曲家はメンデルスゾーンと葉山拓亮。

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